……姉姉姉姉。
ポテトマト
本文
折角なら、紙の本が欲しかった。
あの子がいつか書いた、文字の絵本。美しく描かれた、曲がった線の冷淡な印象。
初めて原稿を見せてくれた時の表情が、どうしても忘れられない。
粗野で乱暴で、しかも直線的。
非常にハツラツとした文章が、妹の持ち味だった筈。ダイナミックで、躍動感を感じる簡素な書体。原稿用紙いっぱいに描かれていた、猛獣のような太字の群れ。
私にとっては、憧れの対象だったのに。
今手にしている本は、全く毛色が違う。
繊細で、しかも作者の息遣いを感じられない。機械が排出した明朝体の文章は、彼女の個性を完全に殺し切っている。
何て、才能のない編集なのだろうか。
私なら、絶対にこんなことはしない。
確かに。これが読まれることを目的とした”小説”だったのなら、全くもって致し方の無い事である。本というものは、内容を理解されてこそ初めて価値が生まれ、他人が読む事が出来るというのは当然の前提である。
しかし。これは、文字の”絵本”だ。
あの子の筆致は、もう二度と戻ってはこない。
あの日、私が川に流してしまったから。自分の嫉妬を、認める事が出来なかったから。
あの子の才能は、本当に死んでしまった。
思慮と遠慮に欠けた、他人の手によって。あの子の作品は、二度も殺されたのである。
勿論、内容自体が劣悪という訳ではない。
流れるように使われる言葉の矛盾。特徴的な擬音の力強さは、現在の彼女の活躍ぶりを示唆しているようで。むしろ、今よりも魅力的とすら感じる所もある。
端的に言えば、無骨なのである。
~ ~ ~ ~
あたしのからだは、バカばっかりば
か、どうかはわかりません。
バスにおぼれた、タバコおおお
ぼぼぼぼぼたしわわたしさん。
あ、たしざはさかでにょっ
で、からはふろにはいれません。
おねのまごは、どこですか?
たま、ごってました。
いたねえ。
しかくはやっぱり、さんかくです。
ちゅっいてねえ
ありにゃ、1+1は。
~ ~ ~ ~
"作品が死ぬ瞬間"とは一体、どんなものだろうか。
例えば、内容が皆に忘れられて、誰にも顧みられなくなった瞬間のように。深い孤独に、心が打ちひしがれるものだろうか。あるいは、作品を載せた本や原稿がこの世から全て消えてしまって、誰にも読めなくなった瞬間のように。それならば仕方があるまいと、ある種の潔さすら伴ってしまうものだろうか。
それとも……。
「——もう、思い出せないんです。」
それは、詩を書き上げた作者自身。作品の生みの親である妹が、我が子を捨て去る瞬間であった。
「書いた詩の意味も、何もかも……」
デジタル書籍の中身。書かれた文字の羅列をタブレットで眺めながら。ただ、妹は涙を流していた。
「ごめんなさい……。」
過去の作品の遺影。妹は、自分が書いた”文字の絵本”を愛していた訳ではない。むしろ、今まで何の感情も抱いていなかった。
「本当に、ごめんなさい……。」
捨てた後に、ようやく気がついたのである。蝋燭のように固まった文字の姿を見てから、初めて……。
元々、今日は墓参りをする予定だった。
私たち二人の姉となる筈だった、架空の人物。
流産した水子の魂は、小さな御札の中に祀られていて。実家の仏壇に、未だに取り残されているのである。静かに喘いだ妹の、重い沈黙。
仮にもし。自分に姉が居たのなら。妹に対して、どのように接していたのだろうか。
何にも声を掛けられない、私なんかとは違って。赦しを授けるかのように、彼女を優しく諭したのだろうか。
「ねえ、姉さん……。」
私には、出来ない。その詩を一度は捨てた、この身では。筆跡を残さなかった事を悔やむ妹を、ただ見守る事しか。
私じゃなければ。
そう思った瞬間は、今までの人生に於いて数えきれない。
妹の原稿を、川の中に捨てた時もそうだった。
可哀想だと、思ってしまった。
のたうち回った筆の勢いは、まるで悲鳴のようで。今の境遇が心底嫌なのだと、叫びたくて仕方がない。そんな、勘違いをしていた。
そんなことは、全く無かった。
原稿に書かれたあの子の文字が、赤の他人の目に留まった時。私のクラスメイトが魅入られたように妹の詩を求めた時。皆が、声を揃えて言った。
彼女は、天才なのだと。
全くもって、私には理解できなかった。皆の真剣な眼差しに、熱の込もった話しぶり。何も分からない私だけが、世界から取り残されたようで。
ひどく、怖くなった。
自分が孤立している事を理解したから、だけではない。
私じゃなければ。
私の代わりに死んでしまった姉なら、作品の良さが分かったのでは?
そう思った途端。自分が、ひどく惨めに思えたから。
~ ~ ~ ~
一度は、考えて。見て欲しいの。
考えない事なんて、考えられる?
あなたは、わわわわわたしさん。
ぼくぼくぼくぼくぼくぼく……。
しかくはやっぱり、さんかくなのです。
ぼくぼくぼくぼくぼくぼく……。
でも。わたしは ● ● ● だから。
~ ~ ~ ~
例えば、唐突に現れる「● ●」のように。
話し言葉では絶対に使われない記号を混ぜてみるのはどうだろう。
ふと、取り留めのない考えが浮かんできた。
両手を合わせて、流産した姉の魂を供養している最中。
原稿用紙の枠をはみ出して描かれた、野太い文章の圧力。理不尽とすら思える、言葉の繋がりの見えない文章。
あの詩を読んだ後に訪れた、自分の常識が崩れてゆくような、密かな感覚。断片だけでも、再現できないものだろうか。
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……。」
念仏を、妹も唱えていた。
綺麗に整えられた、流麗で平坦な声。
その発音に澱みはなくて、不自然な程に聞き取りやすい。
きっと、これは努力の賜物なのだろう。
社会の中に馴染もうとする、弛まぬ努力。
「なむあみだぶつ……。」
アナウンサーとして培われた声には、何の面白みもなくて。
かつての面影が、そこには残っていない。
機械のように無機質で、冷淡な肉声。
「なむあみだぶつ……。」
妹の個性は整えられ、消え去ってしまった。
それは、本来であれば「社会の中に溶け込めている証拠」であり、喜ばしい事なのだろう。
しかし、本当の妹は……。
「なむあみだぶつ。」
あの子の豊かさは、皆に伝わっていたのに。
成仏してしまった、彼女の詩の生命力。
本来の文字に戻った時の姿を、想像せずにはいられない。
~ ~ ~ ~
まずは、とりあえず揺らしてみましょう。
わわわわたしさんとは、ぼくなのでしょうか?
次に、自分の内面を覗いてゆきましょう。
ばかばっかりば、かどうかは分かりませんが。
そして、素直に書き連ねている所です。
おねのまごは、どこですか?
一度は、考えて。見て欲しいの。
ぼくぼくぼくぼくぼくぼく……。
しかくはやっぱり、さんかくなのです。
ちゅっいてねえ
あなたは、わわわわわたしさん。
それでも。ぼくの正体は ● ● ● です。
* . ⚪︎ * . ・ * . ・ ⚪︎
失くした星の中身は、お姉さんみたいに。
あるいは、私のお兄さんのように。
ドロドロに、中身が混ざっています。
言葉を川に投げ捨てたのは、誰でした?
~ ~ ~ ~
これは、後になって気がついた事である。
東京の駅に戻ってきて、妹と別れた後。自宅に向かう帰路の途中で、私は思い出した。
そういえば、今日はメモに残していない。
浮かんだ発想を纏める為の、アイデアノート。
記憶の中のあの子を真似た、自分の筆跡。虫の死骸を潰し、紙の上で引き摺り回したかのような、薄汚い線の跡。肌身離さず持ち歩いている文字の全ては、ひらがなで。
あの時から、私はずっと書き続けている。
妹の原稿を川に投げ捨てた、あの日の夜。
私の人生は、常識の外へと放り投げられた。
確かに、幽霊が見えたのである。
走馬灯のように浮かんだ、あの詩の風景。
私の視界は突然、音を立てながら崩れ去って。水の中のような浮遊感が、古びた観覧車の中のように。
透明な魚だけが、回っているように見える。
なんて事のない、ネジ巻き式の
錆びついた指先の感触。複雑に現れた魚の影。
拙い表現から生まれてきた沢山の小魚は、視界の周りを漂い続けて。あの日から、私の心に声を投げかけている。
僕を、わたしを。オレたちを。
描け、書けとばかり。ずっと、お腹の中から訴え続けている。石を飲み込んでいるかのような、ゴロゴロとした痛み。
全てが、幻覚だという事は知っている。
しかし、私にはとても信じきれない。
姿を掴みかけた瞬間の、例えようもない輝き。あの、目に映る水の流れは、一体……。
そう思いながら、今日も鉛筆を握った。
異変に気づいたのは、その後の事だった。
やけに、感触がない。
いつも通りに着想を残そうとしても、小さな魚が視界の中を泳ぐ気配がない。
筆が進まないだけであれば、特に変な事ではないのだが。
しかし。当時の記憶が浮かぶ様子も無い。
あの詩を書いていた時の、天真爛漫な妹の姿。
ノートの紙面に、靄が掛かったかのように。
今とは、全く違う……。
握られた鉛筆は、殆ど進まなくなった。
あの子の正体が、分からなくなってきている。
テレビの中で妹が見せる、人工的な笑顔。ペタリと張り付いた、あの子の言葉。
どれもが、自分の知っている妹とは違う。
そんな事は、とうの昔に分かっていたのに。
果たして、あの涙は本物だったのだろうか。
久しぶりの再会。
実に、数年ぶりの。
最後に会ったのは、妹が入社する直前の事で。それからは、偶に文字でやり取りをしていた。
思えば、碌に声を聞いてなかったのだ。
言葉の不確かな
崩れて、去ってゆくような気がする。
段々と、漢字へと置き換わってゆく思考の綾。所狭しと描かれた言葉の隙間は、憑き物が落ちたかのようで。
何も、熱を感じられない。
このノートの中身こそが、唯一の頼りだったのに。私にとっては、あの詩と交わった事を示す、大事な記録だというのに。
妹が、あれらの文字に対して流した涙。
それは、過去との決別だったのだろうか。
それとも……。
- - - -
姉さんは、ひどく夢見がちな人でした。
意味の見えない、荒唐無稽な妄想。
おかしな作り話を、頻繁に語っていました。
取り留めもない、奇妙な物語。言葉の繋がり。
叫び声の響きが、やけに耳に残りました。
不思議な余韻。瞼に残った明瞭な映像。
だから、原稿の中に書き留めたのです。
姿のまま……。
~ ~ ~ ~
太字の群れ。
紙面を泳いだ鉛筆の、暴れ回る痕跡。
黒く、透き通った色合いの魚の尾びれように。
漢字の線から、とめが跳ね上がった。
新たに払いを付け加えられた文字の、不釣り合いな躍動感。
完全なる蛇足。
あるいは、余計な線ばっかり。
ば。
が噛み合っているかは、分からないが。
しかし、それが皮だというのは確かである。
ばははばはばはははばだばだばはははは
毛は、いつの日か逆立つように。
ばはばがはのように。
抜け落ちてゆく……。
水子のような、一本の髪の毛。
~ ~ ~ ~
それからの私は。あの詩を、捨て去った。
一度目は、静かに流れる川の中へと。
二度目は、赤の他人の手によって。
三度目は、身体に迸る●●に任せて。
積み上げてきた文字は今、完全に自分の外側に失せている。
実に、清々しい気持ちである。
永い呪いが、ようやく解けたのだから。
- - - -
解けたのだ?
一体、何を言っているのだろうか。
お馬鹿な姉さん。
あなたが、勝手に放り投げた言葉は。
曖昧な、作り話の粗さは。
簡単には、瞼の中から消えてはくれません。
だから、一度。頭の中で回さなければ。
作り直さなければ……。
- - - -
「姉さんは、本当に馬鹿なの……?」
一本の電話が、妹から掛かってきた。
「あれだけ、あたしを巻き込んだのに……」
言葉が、胸の奥に響く。
その声は、私の事を咎めるように。
「どうして、そう簡単に捨ててしまえるの?」
静かに。声高に叫ぶように。
実の所。自分でも、何も分かってはいない。
「姉さんが、口走って……」
後生大事に抱え込んだ、あの頃の記憶。
その欠片を今更、どうして手放せたのだろう。
「姉さんが、勝手に語りかけてきて……」
燃えるゴミの中に捨てた、アイデアノート。
大事に思えていた筈の、妹の筆跡。
「姉さんのせいで、あたし……。」
再現を試み続ける程に、欲した筈なのに。
啜り泣く妹の声は、電話の向こう側。
「あたしはね、三角になりたかったの。」
携帯のスピーカーを通じて、聞こえてくる。
勿論、妹の表情は見えないけれど。
「直線的で、確かに輪郭があって……」
再生された声は、もはや本物と遜色が無い。
「しかも、整然とした形の。」
今までの人生。私は一体、何を追い求めていたのだろう?
妹の名残?自責の念を晴らす為の言葉?目の中で泳ぎ回る、小さな魚の幻影?
「——お姉さんのようには、なれないから。」
- - - -
流れては何度も産まれる、お姉さんの魂を。
私の姉さんは、丁寧に拾い上げて。
お姉さんは、何度も生まれ変わりました。
架空のお姉さん。
語りの中に立ち現れる、理想の姉さん。
お姉さんの、現実の姿。
文字に固まった言葉は、まるで蝋燭のようで。
輪郭は溶けて、次第に消えてゆく。
ああ、原稿の中に固まった鮮やかな姿。
偽物の、イメージが他人に伝わってゆく。
クラスの皆に、姉さんの目の中に。
生まれ落ちてゆく……。
- - - -
私の妹は、告別を待つ白鳥のような表情で。
ビデオの中で、忘れた詩の姿を歌っている。
無様に変わり果てた、その顔つき。
「●●の形は、壊れた三角で……。」
化粧が溶けて、露わになったような肌。
響いた声の先端は、がらりがらりで。
震えの正体が、間近に見える。
——流れているのは、枯れた水の風で。
懐かしい、実家の軋んだ匂い。
香らない筈だった、言葉の風味。
——沈んでしまった、心臓の鼓動。
読み上げられた情景は、機械が作った本に封じられたもので。所々に、明朝体の狭さを感じる。閉塞感を覚える、かつての私たちの部屋。
「姉さんは、覚えていますか?」
実家の片隅にあった、小さな部屋。当時の私は、劣等感に塗れていて。生まれる事のなかった自分の姉に、どうしてもなりたかった。
「ずっと、あなたは三角の中だったの。」
だから、精一杯考え続けたのだ。もしも、本当に姉が存在していたら。この世から、私という存在が無くなったら。
——私たち、"三人"はあの頃のまま。
それは、どんなに幸せな事なのだろうと。ずっと、思い続けていた。妹が私に告白をする、その瞬間までは。
——今まで、ずうっと一緒だったのよ。
知らない人間が、姉さんの背後に見える。確かに、妹はそう言った。恐らくは、私の独り言をずっと聞いていたのだろう。頭の中から漏れ出した、私の姉への妄想。取り留めもない、不条理な言葉の繋がりを聞き続けて。
——ねえ、聞こえていますか。
とうとう、妹は信じてしまったのである。
——私の妹は、石ころなのですか?
妹の顔。そこに取り憑いた表情は、存在しない筈の私のお姉さんのもので。架空の物だった筈のお姉さんは、今。
——そんなに黙っちゃって、ねえ。
画面の中から、私を叱ってくれている。綺麗な声。携帯のレンズ越しに映る、妹が示すお姉さんの姿。
——いい加減、声を貸して頂戴な。
本当に。本当に、ありがとう……。
~ ~ ~ ~
言葉を川に投げ捨てたのは、誰でした?
ぼぼぼぼぼたしわわたしさん。
でも。わたしは ● ● ● だから。
まずは、とりあえず揺らしてみましょう。
太字の群れ。
黒く、透き通った色合いの魚の尾びれように。
完全なる蛇足。
あるいは、余計な線ばっかり。
が噛み合っているかは、分からないが。
しかし、それが皮だというのは確かである。
ドロドロに、中身が混ざっています。
失くした星の中身は、お姉さんみたいに。
あるいは、私の妹のように。
あなたはあなたは、わわわわわたしさん。
それでも。ぼくの正体は ● ● ● です、から。
* . ⚪︎ * . ・ * . ・ ⚪︎
肌の産毛は、いつの日か逆立つように。
ばはばがはのように。
抜け落ちてゆく……。
しかくはやっぱり、さんかくなのです。
ちゅっいてねえ
ありにゃ、1+1は。
で、からはふろにはいれません。
あ、たしざはさかでにょっ
~ ~ ~ ~
——記憶は、刻々と遡る。
あたしのからだは、バカばっかりば
か、どうかはわかりません。
バスにおぼれた、タバコおおお。
ドロドロに混ざり合った私たちの声。進み続ける時計の音……。
ぼぼぼぼぼたしわわたしさん。
あ、たしざはさかでにょっ
で、からはふろにはいれません。
二人分の人生は、視界の中で泳ぎ回って……。
おねのまごは、どこですか?
たま、ごってました。
いたねえ。
筆に、私は力を込めている。妹は、私のあたしの真似を続けていて……。
しかくはやっぱり、さんかくです。
ちゅっいてねえ
ありにゃ、1+1は。
口ずさみながら。脳裏の上を滑ってゆく。書いた端に踊り狂う、原稿用紙の黒い魚影。
一度は、考えて。見て欲しいの。
考えない事なんて、考えられる?
あなたは、わわわわわたしさん。
吐き出された私たちの金切り声は、とても野太く響き渡って。お腹の底が、沸き立ってくる。
ぼくぼくぼくぼくぼくぼく……。
しかくはやっぱり、さんかくなのです。
ぼくぼくぼくぼくぼくぼく……。
歓喜の激怒。感動にも似た悲しみの爆発。
でも。わたしは ● ● ● だから。
まずは、とりあえず揺らしてみましょう。
わわわわたしさんとは、ぼくなのでしょうか?
揺らめくのは、●●の四角。または。
次に、自分の内面を覗いてゆきましょう。
ばかばっかりば、かどうかは分かりませんが。
そして、素直に書き連ねている所です。
または、固まった文字の跡。
おねのまごは、どこですか?
一度は、考えて。見て欲しいの。
ぼくぼくぼくぼくぼくぼく……。
そして、忘れてしまっていた。
しかくはやっぱり、さんかくなのです。
ちゅっいてねえ
あなたは、わわわわわたしさん。
それでも。ぼくの正体は ● ● ● です。
* . ⚪︎ * . ・ * . ・ ⚪︎
失くした星の中身は、お姉さんみたいに。
あるいは、私の妹のように。
ドロドロに、中身が混ざっています。
言葉を川に投げ捨てたのは、誰でした?
太字の群れ。
紙面を泳いだ鉛筆の、暴れ回る痕跡。
黒く、透き通った色合いの魚の尾びれように。
漢字の線から、とめが跳ね上がった。
新たに払いを付け加えられた文字の、不釣り合いな躍動感。
完全なる蛇足。
あるいは、余計な線ばっかり。
ば。
が噛み合っているかは、分からないが。
しかし、それが皮なのは確かである。
ばははばはばはははばだばだばはははは
毛は、いつの日か逆立つように。
ばはばがはのように。
抜け落ちてゆく。
水子のような、一本の髪の毛……。
- - - -
私たちが紙の本を全て書き上げたのは、その数日後の事であった。
……姉姉姉姉。 ポテトマト @potetomato
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