私が好きなのは日向くんだから

 無慈悲にも、合唱祭は通常通り翌日に開催された。


 そして、合唱祭ではほぼ全クラス、大したことのない練習量で出来上がった大したことのない出来の合唱を披露し、適当に優秀賞などが選ばれた。


 賞が発表される際も体育祭のときほど緊張感があるわけでもなく、適度なリラックス状態で行われた。


「えー、賞を取れたクラスも取れなかったクラスも、来年再来年がありますので励むように。では、解散」


 合唱祭への思い入れは大したことのないものだったからか、大したことないありふれたセリフによって締めくくられた。


 そして、先生が解散を告げるのと同時に学年中の生徒たちが各々帰り始める。


「日向くん、一緒に帰ろ」


 当然、翠はまっすぐに俺の元へやってきた。


 普段なら無邪気に喜ぶはずの俺だが、翠に彼氏がいるという疑惑を持った今となっては無邪気に喜ぶことは出来なかった。


 だが俺はこんなに気が滅入ったままで日々を生活するのは嫌だ。翠と出会えて、やっと日々の充実を実感してきたのに。


 だから俺は、恐怖で引き攣る喉を抑え込んで言った。


「ねえ、翠」

「なに、日向」


 改まったように訊く俺に、翠は同じく改まったように答えた。


 俺たちの間の静寂と、合唱祭終わりの喧騒が対照的だ。


「翠は、彼氏がいるって聞いたんだけど、本当?」

「え? いや、私は彼氏いないよ」


 翠がきっぱりと否定したので、俺は安心して息をふうと吐いた。そんな俺に翠が顔を近づける。


「好きな人は、いるけどね」


 吐息が感じられるほどの近距離で、翠の息が荒いことが感じられる。


 俺は翠の言葉を聞いて、また落胆した。


「そっ、か……」

「落ち込まないで。私が好きなのは日向くんだから」


 翠の言葉は果たしてただの励ましか、それとも事実なのか。残念ながら他人の心はわからないので、判断はつかない。


 だが、俺はそれでも嬉しかった。ただそれをすぐに理解することは出来ず、いったんフリーズする。


「え……」

「返事は言わなくてもいいよ、もっと仲良くなってから判断してほしいから」


 翠らしく真っすぐな理由だと思ったが、そんな翠の姿を見て俺は好きだと言ってしまいそうになった。いや待て、仲良くなってからって言われてるじゃないか。


 なんとか自制心で自らの感情を抑え込むと、何事もなかったかのように会話を再開しようと……


「えっと、翠」

「はーい」

「えっと……」


 会話を再開、しようと……?


「いい天気だね」

「そうだね! 空に雲一つもないし」

「えっと……」


 会話……。


 無理だ、俺には荷が重すぎる。


「それで日向くん、天気と言えば今度星を見に行ってみない?」

「星? プラネタリウムでも行くの?」


 翠の根っこから陽キャなので、俺が明後日の方向に放り投げたボールを難なくキャッチして上手く投げ返してくれた。


「プラネタリウムじゃないよ。星が見える丘がそこそこ近くにあるから、一緒に見に行きたいと思って」


 翠と星を見に行くことへの期待が俺の中で高まるが、他に誰か来るかもしれないことに気づく。これで太陽が来たら気まずすぎる。


 そこで翠に確認を取ることにした。


「誰が来るの?」

「二人きりが良いと思ってるんだけど……日向くんはどう思う?」

「俺もそれが良い。翠と二人きりでいたいから」


 俺の言葉を聞いた翠は、いつも通りに笑った。告白のことなど忘れてしまったようだった。

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陽キャ美少女が俺に話しかけてきたけど、彼女はアニオタでした ナナシリア @nanasi20090127

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