第14話 守る者
『許してヴィオラ、だってあなたを渡したくなくて』
「そう簡単に許せません。長年苦しめられたのですから」
猫なで声の花の女神様の言葉を途中で遮って、私はまだ許していない事を主張する。
どれくらい花の女神様に伝わっているのかはわからないけれど。
「そうですよ。小さいお姉様も可愛かったですけど、一緒に出掛けることが出来なくて寂しかったのですよ。お姉様は自分の容姿を人に見られるのが嫌と、遠慮してしまっていたのですから」
パメラは私に気を遣ってそれ以上誘えなかったと不満を言う。
「そうそう。花の女神様の我儘のせいで、私達はヴィオラちゃんに贈り物も出来なかったのですからね。アーネスト様が嫉妬してしまうからと……もどかしい思いでしたわ」
お母様、さっきもそう言ってたけれど根に持っているわね。
「祝福とは到底思えませんでしたので、次代はもう少し考えてくださいね」
これをしっかりと言っておかないと、これからの子達が大変だわ。
『一応意味があるのよ……ん?』
途中で女神様が何かに気づいたような声を発する。
それと同時に外がにわかに騒がしくなる。
『敵、でいいのかしらね? 厄介な者達が来たわ』
女神様の声ががらりと変わり嫌そうなものにと変わる。
敵って、誰? 今は戦時中でもないのに?
まさか、ね。
◇◇◇
「申し訳ありませんが、あなたとの約束はしていませんでしたよね? お帰り下さい」
アラカルト家の屋敷の玄関ホールに、静かだが通りの良い声が響いた。
アラカルト侯爵こと義父上が怒りを滲ませ、急な来訪者と対峙している。
苛立つのも当然だろう。
招かれざる客は今日がどんなに大事な日かわかっていない、だからあんな平気そうな顔をしていられるに違いないな。
(いや、わかっていて来たのか?)
もしかしたら僕達の婚約を壊す為にわざわざ来たのかもしれない。
だが、目論見は外れだ。
既にヴィオラは僕を選び、女神様にも正式に認められた。
だから君が入る余地はないよ。
「ここまで来て引き返せとは冷たいものだ。約束などなくとも話しは伝わっているだろ?」
偉そうに言うのはオニキスだ。
話しは確かに聞いてはいるが、了承などしていない。
ヴィオラは渡さないと言ったはずなのに、どうしても諦めきれないという事か。
「それにしてもややこしい事になったな……」
あの男と対面するのは構わない。
正々堂々と勝負をし、ヴィオラに相応しいのはどちらかを、女神様に認めてもらうだけだから。
だが、今ここに居るのは僕だけではない。
兄上と、そしてこの国の国王もいる。
そんな二人も認めたこの婚約について、たかだが隣国の第三王子が口出しなんてしたら、下手すれば国際問題となるだろう。
(今二人は屋敷の奥で休んでいるから、この喧騒もまだ気づいてはいないも思うが)
二人は誓いを目にし、女神様のご意向が知れたらすぐに帰る予定であった。
しかし、折角だから大人の姿になったヴィオラを見たいと言って、二人とも残っているのだ。
花の女神様の奇跡を見て、このような体験は滅多にないとヴィオラの成長した姿も見たいという事らしい。
(その気持ちはわかるけどさ)
その為に待機していた中で、オニキスが来てしまった。
これ以上拗らせてしまう前にお帰り願おう。
「アーネスト様」
ライフォンが心配してか僕の側に来る。
まぁ彼も女神様の声が聞こえるから、アレを何とかしろと言われたのだろうな。
僕もヴィオラとの誓いが終わった後から、キンキン声が脳内に響いてくるようになった。
「仕方ないからヴィオラとの仲を許すけど、守れなかったら許さない」
って。
花の乙女は女神様の孫のような存在だから、ライフォンもパメラ嬢を守る為の力を手に入れるためにしごかれたらしい。
今はその怒りが僕に向いているからか、ライフォンには少し優しくなったそうだ。
女尊男卑な女神様だなぁ。
「ライフォン。僕はオニキスの所に行って来るからここで待っていて。もしもヴィオラが来るようであれば、あの害虫に会わせないように止めておいてね」
ライフォンとオニキスは学園にて手合わせをしたけれど、あの時は卑怯な手を使われ、決着がつかなかった。
では今度は僕とやり合ってもらおう。
今度こそこの国の花の乙女は渡せないと、きっぱり諦めてもらわなきゃな。
僕はいまだ言い合いをしている義父上とオニキスの元へ歩き出す。
「義父上」
声を掛ければ二人が僕の方を見る。
オニキスは僕が誰かわからないようだが、義父と呼んだことで嫌な表情をしている。
「アーネスト様、すみません。騒がしくしてしまって」
義父上が申し訳ないと言った表情で僕を見るが、僕としてはヴィオラを守る為だから特に苦でもない。
「いいえ。それよりもどうしたのです? 何やら剣呑な雰囲気で……一体何を話されていたのでしょう」
内容については既に知っているが、敢えて聞いたのはヴィオラが正式に僕の婚約者となったからだ。
人の婚約者を奪おうなんて許せるはずがない。
さぁ真っ向から叩き潰そうじゃないか。
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