第6話 ランチと護衛
アルとライフォン、そして私という何とも珍妙な組み合わせで、本日はランチをとる事となった。
最初はいつも通り女友達と一緒にと思ったのだが、休み時間のいざこざでオニキス様に目を付けられてるだろうから、彼女たちに迷惑をかけるのは憚られる。
かと言って私一人では心配だと、少し離れたところに友人はいてくれた。
(そう考えてくれるのは有難いわ)
それに彼女たちが見ていてくれるなら、何かあったら証言してくれるだろう。
そう思うだけでホッとする。やはり男性二人とのランチは緊張するし。
男性と一緒ではあるが二人きりではないし、淑女として適度な距離は取っている。
それにアルはともかくライフォンは義弟になる人だ、どうか変な醜聞になりませんように。
(それにしても私はもうすぐ婚約をするのだけれど、アルは良いのだろうか)
意中の彼女とかいたら、私の側にいる事で振られてしまう可能性もある。これ以上変に揉めたくはないので、そうならないと良いけど……心配だわ。
「二人ともこうして一緒に居てくれるのは有難いけれど、申し訳ないわ。ライフォンはともかく、アルにはよくないかも。好きな人や婚約者に変な目で見られてしまうかもしれないわ」
私の気遣いの言葉をアルはキョトンとした顔で受け止める。
「僕に婚約者はいません。だから大丈夫ですよ」
そう言えば平民とはそういうものらしいわね。
(婚約ではなく恋人になって、婚姻をするのよね)
貴族とはだいぶ生活も違うし、今度色々と話を聞かせてもらおうかしら。
卒業後は私も領地経営に携わるわけだから、市井の人が実際にどのような生活をしているのか気になる。
「ねぇ、アル。今度どのような生活をしているか教えてくれない?」
「ぼ、僕のですか?」
アルの声が上擦った。そんなに驚くような事だろうか。
「えぇ。いずれ領地経営の為に、領民の為になる事をしていきたいの。でも私、皆の生活を詳しくは知らないのよね。だから実際どのような生活をしているのかを知ることが出来れば、領地経営に活かせるかなって思って」
「あぁ、そういう事ですか……」
アルは落胆したように肩を落とす。
どうしたのかしら?
「アル様はヴィオラ様が自分に興味を持ってくれたのかと思ったのですよ。アル様はヴィオラ様を敬愛していますから」
「ライフォン様! そのように言うのはやめてください」
アルが慌ててライフォンの言葉を遮るように大声を上げる。
本当かしら。まぁライフォンが揶揄っているのかもしれないわね、友人同士だというし。
「そう言えば二人はどうやって知り合ったの?」
貴族と平民、どういう繋がりがあったのだろうか。
「アル様とは花の乙女についての話を色々な人に聞いている時に、知り合ったのですよ。パメラと婚約する前からだから、だいぶ古い付き合いになりますね」
そうなのか。
ちなみに花の乙女って私達の事ね。これ言われるの恥ずかしいから、正直やめて欲しい。
「花の乙女や女神さまに会えるにはどうしたらいいのかとか、だいぶ語り合ったものです」
という事はアルって私と結婚したいという事?
それは困る、もうすぐ婚約だし、その思いに答える事は出来ないわ。
私の目線で察してくれたのかアルは顔を真っ赤にする。
「お慕いはしていますが、来月ヴィオラ様は婚約なされますし、その、それまで仲良く出来ればというだけですから」
来月婚約というのもライフォンに聞いたのかしら。でも知っていてくれて、好きとかではないよ聞けてよかったわ。
自意識過剰でアルに惚れられていると、早とちりするところであった。この勘違いは恥ずかしいし、アルにも申し訳ない。
「しかしオニキス様はどう言ったつもりかしら? あのような場で握手など求めるなんて」
自身の勘違いから目を逸らそうと、話題を変えた。
でもオニキス様には悪い事をしたわ。断って恥をかかせてしまったのは悔やまれるけど、受け入れる事も難しかったから悩んでしまう。
未婚の男女であのような誤解を招く行動は良くないし、どうしたらよかったのだろう……。
「婚約して下さる方にも悪いですし、受け入れる事は出来なかったけれど……本当に殿下はなんであのような事を」
私は頭を抱え、ため息をつく。王族のあのような申し出を断ったことは今後に大きく影響しそうだわ。
「あの、ヴィオラ様。本当は受け入れたかったとかはありませんか?」
アルがおずおずと言ってくる。
「婚約はまだですから、ヴィオラ様がオニキス殿下を受け入れたならば、花の女神様も認めてくれたのでは? 顔も名も、身分も知らない婚約者よりも、カミディオンの王子様の方がいいと、少しでもお思いになりませんでしたか?」
女神様の事情にかなり詳しいのね。
ライフォンったら友人とは言え情報を流し過ぎよ。
「そんなつもりないわ。私、来月婚約者する方と約束したもの。女神様に認められるようにお互いに頑張ろうって」
まぁ少々音信不通過ぎて待ちくたびれ、気持ちはだいぶやさぐれていたのだけれど。
だからと言って、オニキス様に鞍替えするつもりはない。
「それに女神様が認める事が重要だから、私が好き、という気持ちだけでは駄目よ」
昔結婚しようとした彼を私は好きだった。けれど女神さまの許しは得られなかったもの。
「つまりヴィオラ様は婚約者様の事が好きだという事ですか?」
「それはまぁ。子どもだったけれど、その気持ちは本当よ」
会って間もなかったけれど、あっという間に彼に惹かれた。
何だろう、気が合うというか隣に居て気持ちが落ち着くというか、そんな雰囲気があったのだ。
「一目惚れ、というものですかね。俺とパメラもそうでした」
微笑ましそうに見られ、何だか面白くない。
でも彼がその為にどれだけ頑張ったかを考えれば、揶揄えはしないわ。
侯爵家であるアラカルト家に伯爵家であるグラッセ家が求婚に来るなど大変であっただろう。
可愛らしいパメラへの求婚は倍率が高かったらしいしね。
認められるように努力を重ね、婚約を果たしたが、今もライフォンを蹴落とそうというものは居る。
まぁもう覆る事はないのだけれど。
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