第13話 誓い
そうして私達はアラカルト家の奥に安置されている、花の女神様の像の元まで来た。
礼拝堂の中は綺麗に掃除されており、像の足元には様々な花々が咲いている。
日の光を浴びて女神様の像は神々しく輝いていた。
(ここで誓い合うのよね……)
今更ながら緊張感で胃が痛い。
この誓いを見届けるのは私の家族だけではない。
アルの家族、つまりレグリス王家からはアルの兄であるレグリスの王太子が来ている
それだけでも体が震えるのに、ここブルーメ国の国王陛下も来ていて、生きた心地がしない。
今すぐ部屋に帰りたいわ。
「大丈夫だよ、リラックスして」
こんな重鎮達に囲まれて出来るわけがないでしょう、と言いたいのだけれどそんな言葉すら今はすんなり出て来ない。
緊張で体を硬くしている私を見て、アルがそっと体を寄せて来る。
「失礼するよ」
私の膝下にアルの手が差し込まれ、ふわりと足が地面から離れる。
いわゆるお姫様だっこ。
「って、急に何するのよ?!」
恥ずかしさと驚きでようやく声が出た。
「緊張しているようだったからね。少しはほぐれたかな?」
驚いたおかげで気持ちがいくらかマシにはなったけれど、いくら何でも急に接近し過ぎじゃない?
うぅ……みんなの生温い視線がこそばゆいし恥ずかしい。
(パメラとライフォンはこの視線を受けて、よく平気だったわね)
羨ましいと思っていたけれど実際はこんな気持ちになるなんて、私には無理だわ。
でもアルの嬉しそうな表情を見ると、下ろしてとも言いづらい。
本当に私を大切にしてくれてるとわかるから、拒否の言葉は言えない。
(私って気持ちを伝えるのが本当に下手だわ)
熱くなった頬を手で押さえつつ、それでもアルに言えなくてされるがままであった。
そのまま女神様の像の前に来て、ここでようやく下ろされる。
「さぁ一緒に誓いの言葉を」
「えぇ……」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとする。
(いよいよだわ)
こうして二人でまたここに来れるなんて、嬉しさと不安が過ぎる。
でもやっとここまで来たのだから、引き返すなんてするはずがない。
誓いの言葉の事を思い出そうとし、ふと気づく。
「そう言えば名前はどう呼べばいいかしら? アル様? アーネスト様?」
そう言えば私ずっと仮名で呼んでいたわね。
やはり正式な名前の方がいいわよね。
「そうだね……どちらでもと思ったけれど、アルは学園で他の人にも呼ばれた名だからね。アーネストがいいかな」
それならこれからはアーネストと呼ばせてもらおう。
「落ち着いたら君だけが呼ぶ愛称をつけて欲しい」
そう耳元で囁かれ、またしても私は顔を赤くする。
アーネストは結構ロマンチックね。
もしかしたらライフォンの側にいて触発されたのかも。
それにしても折角落ち着いた気持ちをまた乱すのはやめて欲しい。
深呼吸し、高鳴る鼓動を抑え込み、私はアーネストの方を向いた。
「愛称の事は、これからお互いを知ってからね」
六年という月日は長かったもの。
少しだけ先に顔は会わせていたが、それは友人としてだ。
アーネストという婚約者として向き合うのは今日からだ、愛称とかそう言うのはもっと親しくなってからがいい。
「あぁそうだね。僕もヴィオラに僕の事を知ってもらいたいし、ヴィオラの事を沢山知りたい」
ニコニコとするアーネストに嬉しくなる。
その後はどちらからともなく手を繋ぎ、女神様の前で誓いの言葉を述べた。
◇◇◇
(痛い痛い痛い!)
私は声を上げないように必死でベッド上で蹲る。
アーネストと共に誓いの言葉を述べた後、急激に来たのだ。
身体の変化が。
急いで礼拝堂を離れ、自室に連れて来られた後に服を脱がされた。
体のあちこちがギリギリと引っ張られるような感覚に襲われる。
「お姉様、大丈夫ですか?」
付き添いで来てくれたパメラがおろおろとしている。
パメラはこのような事はなかったらしい。
「ヴィオラは十歳から十六歳に一気に変わるのだものね。その反動が一気に来てしまったのね」
お母様が私の体を擦ってくれる。
今ままでこれ程遅い婚約成立はなかったようだ、だから私だけこのような成長痛を感じる羽目になるなんて。
急成長に体が悲鳴を上げているそうだ。
(やっぱりこれは呪いだわ)
改めて女神様に怒りがこみあげて来る。
「成長を止めた挙句、こんな事をするなんて、何が愛し子よ……」
そう小さく愚痴った時、体の痛みが和らいできた。
『ごめんね! ここまで酷くなるとは思ってなくて』
見知らぬ女性の声に、私はきょろきょろと視線を彷徨わせてしまう。
ここに居るのはお母様やパメラと、あと侍女が数名。
女性しかいないのは確かだけれど、それでも誰の声か見当はつかなかった。
「そうですよ女神様、こんなにもお姉様に酷い事をするなんて。許せませんよ!」
パメラが怒って大きな声を上げる。
「パメラの言う通りです。いくらヴィオラちゃんがお気に入りでも、こうまで婚約を先延ばしにし、しかも記憶を消してまで独占しようなんてやり過ぎですよ!」
お母様もそう言って花の女神様? を責め立てる。
二人とも相当鬱憤が溜まっていたようだわ。
侍女達には声が聞こえないらしく、何の事やらと胡乱気な表情をしている。
(二人が怒ってくれるのは嬉しいけれど)
でもやはり一番怒っているのは私だ。
「これ以上何かをするというのなら、花の女神様と言えど嫌いになりますからね」
初めての会話でなかなか辛辣な言葉を投げかける。
それだけ色々思っているのだから仕方ないだろう。
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