第2話 義弟と妹
翌日の昼食となり、私はライフォンにランチの入った籠を渡す。
「はい。これ」
「ありがとうございます!」
ライフォンは嬉しそうな顔で受け取った。
まだ学校に通っていない妹が、せめてもと言うことでライフォンの為にお弁当を作っている。
それを渡すのが私の役目なのだけれど、これもまた周囲が誤解する要因となっていた。
クラスの者は事情を知っているが、話を知らない他の者からすると、私がライフォンに粉をかけているように見えるのだ。
妹が婚約者だからと言えば、「妹の婚約者を盗ろうとしている」と改悪されてしまう。
何でよ、おかしいわ。
こんな公然とした浮気を普通するわけないでしょうが。
こんな容姿だから疑われるのね、本当に女神さまの呪いは酷い。
「いつもマメよね。あなたもあなたの妹も」
微笑ましくそう言ってくれるのは友人の令嬢達。
こうして味方がいるのがせめてもの救いだ。
正直ライフォンのせいで悪い噂が立っているから距離を置きたいが、妹の頼みを断るのは心苦しい。
それにライフォンがしきりに話しかけてくるから、またややこしいのだ。
「将来家族となるあなたと仲良くしたいと思うのは、駄目ですか?」
なんて言われ、断り切れずにいる私も大概人がいい。
友人に愚痴っても、共感されることは少なく、寧ろいいなと言われる。
「ライフォン様はカッコいいから、羨ましがられるのはある程度仕方ないわよ。あんな美形な義弟が出来るなんて、羨ましいわ」
ライフォンは確かに格好よく、婚約者がいると言っているのにモテてしまう。
その牽制のためにもと私を近くに呼ぶこともあるのだが、それのせいで私は尚更嫌われる。
貧乏くじしか引かされていない。
(まぁいいんだけど)
身長も低く子どもにしか見えない私は、異様で近寄りたくない風貌だからね。
ライフォンや友人は気にしていないが、好奇の目は常に感じる。
私の家系を考えればわかるはずなのに。
◇◇◇
放課後、私はライフォンが馬車に乗り、パメラに会いに私の家に行くのを確認してから、図書室に向かう。
静かに勉強するには一番の場所だ。
私は嫡子として勉強をしなければいけないし、ここなら誰にも邪魔をされない。
図書室の中でも特別に隔離された半個室を借りて勉強をする。
私語禁止のこの空間ならば、余計な雑音や悪口は聞こえないから心地よい。
同じように集中するものしかいないから気が楽だ。ペンを滑らす音が耳に心地いい。
最初は自室で勉強をしていたが、ああしてライフォンが家に来るものだから、こうして私が帰宅時間をずらすようになったのだ。
家にあのようなイチャイチャする恋人たちがいるのは目に毒だわ。
あんなの見ていたら、頭が沸騰してしまうもの。
妹を溺愛している父の目に入った際は、いくら婚約していても駄目だと数日出禁になった事もある。
父が仕事でいないこの時間にああして逢瀬を重ねているのだが、許可を出したのはお母様だから見て見ぬ振りをして告げ口はしない。
ただ清い交際である事は誓わされたそうだけれど。
「パメラはいいなぁ……」
思わず本音が漏れ、慌てて口を閉じる。
あんなにかっこいい婚約者がいて、しかもこのような詰め込む勉強はない。
両親からも溺愛され、ドレスの数も私よりも多い。
性格も良く容姿に優れた妹が羨ましく、妬ましい。
それでも嫌いになれないのは、パメラが私を慕っているのが分かるから。
そしてライフォンも私の事を尊敬してくれていて、そして信頼してくれている。
醜い心を持つ自分があの家で異質な気がしてならない。
(だから女神樣は私の成長を止めたままなの?)
心が醜く、祝福を捧げる気にならなかった?
だからこのような子どもの体で成長を終わらせた?
悪い方ばかりに思考がいってしまい、酷く落ち込んだ。
(あの時彼は女神さまに認めてもらえるように頑張ると言ったけれど、本当は私の方が駄目だったのでは?)
そう考えたのも一度や二度ではない。
一度思考の迷路にはまると抜け出せなくなってしまった。
ぐるぐると目が回るような程頭を悩ませてしまい、勉強どころではない。
そのせいでいつもより疲れてしまって、帰宅後は倒れるように寝てしまった。
ちなみにライフォンは一週間、アラカルト家への出入りを禁じられていた。
だから昨日も注意したのに。
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