紙食いルシウス

 2年後。僕は16歳になり成人を迎えた。成人になると、1人で城下町に行く許可を貰えたので行動範囲が増えた。


 まずは魔物を見たい。

 人間にとって危険な存在。それを間近で見てみたいと思うのは当然のことだと思う。父に頼むわけにもいかないから、こっそりとギルドの掲示板に僕の護衛任務の募集をかけたら、すぐに反応があった。


「あんたが依頼主?あたしはミミリア。よろしく」


 護衛に応募してくれたミミリアさんは、赤い髪に猫耳としっぽを持つ獣人族だ。年齢は僕と同じくらいで腰に短剣を2本装備している。僕もフードを外し挨拶をする。


「こちらこそお願いします。僕はルシウス・アートネットと言います」


「アートネット……ってあの大臣?」


「はい。息子です」


「へぇ……噂の……」


「噂……?」


「うん。いきなり店の裏側に入ってきて作り方を聞いたとか、街の噴水を飲んだとか、道端の花を見てこれは食べられるのか?って聞き回ったとか……。街のみんなから紙食いルシウスって呼ばれてるよ」


 よかった。変な嘘を広められたわけじゃないみたいだ。だけど紙を食べたことはないぞ。


「紙は食べてません!嘘ですよ!」


「まるで紙食い以外は本当みたいな言い方だね」


「本当です」


「え?」


「興味があったので」


 ミミリアさんは口を開けて固まった。


「……そっか。変わった依頼だと思ったけど依頼主が変わり者なら納得いくわ」


「すみません」


「いや謝らなくていいよ。報酬もいいし、偉い人の護衛なんて面白そうじゃん!あたしやる!」


「ありがとうございます!今回はミース草原の魔物を見に行きたいのでお願いします!」


「任せて。ミース草原のことなら全部分かるくらい行ってるから。あそこは雑魚ばっかりだし楽勝よ」


「じゃあ改めてよろしくお願いします」


           ◯


 ミミリアさんと王都を出てミース草原に向かった。ミース草原は城から歩いて2時間ほどの距離にある。道中、ミミリアさんに色々と話を聞いた。


「そうだ。ミミリアさんはどんなスキルを使っていますか?」


「加速。それと硬化」


「なるほど」


 加速は体を軽量化し、スピードを上げるスキル。

 硬化は体の一部を硬くすることで防御力をあげるスキルだ。

 どちらも習得難易度は低いので冒険者の間では、入門的なスキルらしい。


「硬化のスキルはどこの部位にも適用できるのですか?例えば尻尾だけとか、あぁそうだ!尻尾がある感覚ってどんな感じなんですか?あと耳も……」


「あーー!!ストップ!!もう質問禁止!!」


 ミミリアさんは耳を塞ぎ早歩きになってしまう。どうやら質問しすぎたようだ。

 僕はまた質問したい気持ちを抑えて、黙って歩くことにした。


 気付かれないように少しだけ紙をちぎって食べてみたが、やはり味がしなかった。



「はぁ、はぁ、着いた……」


「体力無いんだね」


 僕は歩いただけで、もうヘトヘトだった。運動不足なせいだろうか? それに比べてミミリアさんは余裕そうで、少し悔しい。


 目の前にある橋を越えるとミース草原だ。

 ミース草原は魔力濃度が低いので、確認されている魔物は比較的狩りやすいとされている。


 僕は緊張していた。魔物の姿は本で知っているが実際に見るのは初めてで、想像しただけでもワクワクしてしまう。

 ミミリアさんは、そんな僕の様子に気付いたのか、呆れたような表情を浮かべた。


 だが僕はこの草原で、魔物よりも衝撃的な出会いをすることになる。

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