NPCは作者に会いたい。

猫又三郎

疑問の種

 詰めの甘い設定に出会ったことはないだろうか。


 例えば登場人物が知らないはずのことを知っていたり、炎弱点のモンスターが炎魔法を使ってきたりなど。それは、物語の世界の設定上のミスと言わざるを得ない。


 もし、その物語の登場人物がそのミスに気づいたらどんなことを考えるのだろう……。


           ○


 ページを進める音だけが響く静かな部屋。大臣である父上の書斎に僕はいた。


 「ルシウス。自分の部屋で読みなさいと言ったはずだが?」


 「はい。しかしどうしても読みたくて……貸して頂けませんか?」


 「もちろんだとも可愛いルシウスよ。知りたいことがあればなんでも私に聞くといい。私はお前の父なのだからな。」


 「ありがとうございます!」


 僕は本を何冊か借り自室へと戻った。ベッドへ横になりながら早速読んでいく。


 「『大迷宮ズトラジーについて』か……」


 そこにはこう書かれていた。


"大迷宮ズトラジーは今から約三千年前に造られたとされている。"

"第一層から第百層までがあり、最深部には宝物庫があるとされる。"

"現在確認されている最高到達階層は第二十八層。"

"ズトラジー内に生息するモンスターの強さは外とは比べ物にならないほど強いため冒険者は命を落とす者も多い。そのため大迷宮内に街を作りそこで生活する者もいる。"


 ん?何か引っ掛かる。おかしいところがあったような……。どこだっけ……。


"第一層から第百層"

"最高到達階層は第二十五層"


 ここだ。違和感の正体はこれだったのか。

二十五層までしか進んでいないのに、何故百層まであるなんて分かるんだろう?それに宝箱もあるって書いてあったし……。


 僕は居ても立っても居られず、急いで父の元へと向かった。


「父上!!質問です!!」


「また来たのかルシウス。少し落ち着きなさい。」


「これが落ち着いていられますか!ズトラジーが百層まであると書かれていましたが、どうしてそんなことが分かるんですか?」


「ん?そういうものだからなぁ……。」


「どういうことです?」


「炎は熱い。水は冷たい。それと同じでズトラジーは百層と決まっておるのだ。」


「そうなのですか……。」


「そうだとも。他に聞きたいことはあるかね?」


「いや……ありがとうございました」


 僕は納得したふりをして部屋に戻った。あれ以上聞いても無駄だろう。父上はきっと何も知らない。もっと色んな人に聞いてみよう。


 メイド長、執事達、使用人達、皆僕よりも長く生きているはずなのに、僕の問い掛けに対して首を傾げるだけだった。


 そのうち僕は変人扱いされるようになった。だが気にしない。真実を知るためには仕方のないことだ。僕は情報を集めるために城の外に出ることも多くなった。


           ○


 一年が経ち、僕は十四歳となった。

 だが、相変わらず大迷宮については分からずじまいだ。これ以上調べても意味がないかもしれない。

 世界にはまだまだ知らないことが溢れているんだ。ズトラジーにこだわるのはやめよう。


 僕は記帳を開き一年間の結論を書くことにした。

 ズトラジーの謎は僕以外誰も認識できない。他の人間はまるでそれが常識かのように思っている。

つまり……。


「神はそこまで考えてなかった」


 そう書くしかない。神が作り忘れただけなら辻妻が合うじゃないか。その綻びをどうして僕だけが見つけられたのか。それは分からないけど……。


 このことは忘れよう。

 この世界で生きていくために。

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