第36話 恋する男たちは泥棒と同様、はじめは用心するが、 次第に用心を忘れ、恋にとりつかれてしまう
「おかえりなさーい。飛んできたんです? 無理したらダメですよー」
「余力は残してあるから。前はギリギリまで魔力使ってたけど、よっぽどのことがない限りそれはやめた。なんかあったら困るからな」
「あらー心配してくれてるんですかあ、大丈夫ですよー。最近ご飯が美味しくて。ていうか食べすぎかもしれないですねー」
「お前の大丈夫はなんか不安になんだよなー……あっ、待て、口濯いでない、こらこら!」
『いいじゃないですかー』じゃねえよ。ムスッとするな。気をつけたいんだよ俺は。汚い男共から何かもらってきてるかもしれないんだから、その辺は注意したいんだ。
俺は王宮魔術師として復帰した。人員は足りているからと断られる可能性も考え、王都近くの領主の邸なども調べたりして一応準備していたのだが、連絡した途端にすぐ返事が来て、いつから来られる、という話になった。
あれからずっと俺のような、単騎で動ける奴はひとりも現れなかったらしい。まあ、そりゃそうか。魔術師になる奴は内気だったり、身体を動かすのが苦手な部類の奴が多い。
だから兵士と組むのだが、違うタイプの奴同士だからいいってこともあれば、全く反りが合わないということもある。仕事とはいえ、人と人との相性というのは難しい。
「エリー、今日は結構働いたんじゃねえのか。あんま根詰めなくていいんだぞ」
「いやあー、つい夢中になっちゃってー。でも眠くなったら寝てますよ。今日なんかお昼寝したら四時間も経っちゃってて。起きたら日が傾いてましたよねー」
「眠いときは寝たらいいさ。食事の支度も辛いときはしなくていい。おばちゃんに頼んでいいから」
「ふふ、ありがとうございます! 今日は調子良かったんでそこそこ作れました。もう全部できてますよ。スープはフランカさんのやつだけど。味見したけど美味しかったでーす」
俺がかつてやっていた仕事は一部エリーに引き継いだ。受注を減らし、魔術師の仕事に復帰するまでの間に出来るだけ技術を詰め込んだのだ。エリーの体調は日によって違うため廃業しようと思ったのだが『いやだー、せっかく覚えたのにー』と言って頑なに聞かなかった。
こうなったらエリーは頑固だ。まあどうにもならなくなったら父さんに回すからいいのだが。家業を継ぐつもりはなかったのだが、城を出た当初、出力がなくてもできるからと修理屋を勧めてきたのは父さんだった。
俺がいない間には通信魔道具で父さんに教えを請うこともあるのだが、毎回長通話になるらしい。魔力使用料が高くなるからやめろと言っているのだが、『お前高給取りなんだからちょっとくらいイイだろー。父さんだってお嫁さんと話したい。独占するなんて罪だ』と言って聞かない。こっちも相当頑固である。
子供が産まれたら忙しくなるだろうから、その時にはもっとしっかり釘を刺しておかないと。エリーが寝不足になってしまう。
「あっそうだ、フランカさんがまた子供の服をくれたんですよ。もう大丈夫って言ってますけどついつい買っちゃうからーって。男の子でも女の子でも着られる服にしたよって言ってましたけど、なんかフリフリしてるのとかー、お花の刺繍が入ってるのとかが今回も多かったですねえ」
「男の子でも着せたらいいさ。エリーの子だから可愛いだろ。絶対可愛い」
「あらー。お褒めに預かり光栄ですけど、ギードさんに似る可能性もありますからね。こないだお父様に
「結局着せるのかよ。まあ、本人を見てからまた買い換えたりなんだりしたらいいんだよ」
『えー、せっかく貰ったんだから全部着せるー』と口を尖らせて言うエリーはまた簡素なワンピースを着るようになった。腹の締め付けが嫌だからと。男装すると傾国の美少年だが、こうして可愛い格好をするのも似合うから不思議な気分だ。一度で二度美味しいが。
美味しいと言えばである。エリーが妊娠した可能性の高い日が変わった。『育ち具合は治療魔術書どおりに順調だから、まあ多分この辺からかもね。だから、出産予定日はこの辺になる。これも大雑把だけどね』と、治療魔術師の爺さんが暦盤を回しながらある日付を指していた。
エリーは椅子の下で足をぱたぱたと動かしながら、『へぇー』と他人事のように眺めているだけだったが、俺は忘れないよう手帳にしっかり書きつけておいた。
最初に手を出してしまった日ではなかった。つまりあの後、まあその、正直言って、毎晩のように襲いかかってしまっていた。美味しくいただき、いやそんな上品な感じじゃなく、貪り食っていたのである。だってあの匂いを嗅いでしまうと、どうしてもそういう気分になってしまうのだ。
普通に話しているときとは全然違う、エリーのとろけた甘い声。苦しんでいるようにも見える、目をきつく閉じた顔。荒くなった呼吸のせいでちらちらと覗く白い歯と、しっとり濡れた赤い舌。
肌が白いから顔や耳が赤く染まるのがよくわかり、白濁が胸まで飛んで、エリーが身動きするたびに、俺が動くたびにそれが薄暗い中でいやらしくぬらぬらと光る様。
俺がのし掛かるせいで白くて細い脚は大きく開かれ、孔はめいっぱいに広げられ、あそこも股間も充血し、赤い肉色に染まっている。突くたびにまた甘い声が漏れ出て、それを聞くたび興奮して止まらなくなってしまう。
腹にくっつきそうになるほど立ち上がったあそこを扱いてやると、俺の手に押し付けるように腰を突き出し、背中を反らせて我慢できない、という風によがる姿は込み上げてくるものがある。流れる汗がもったいなくて、舌で掬うと蜜花の香りが肌からふわりと立ち上がる。
毎回もうちょっと頑張ってほしくなるから再び魔力を注いでみると、飛びかけていた意識が少し戻る。それを繰り返すと酒で酔ったみたいになって、言葉がどんどん不明瞭になってくる。まるで無理やり飲ませて酔わせ、犯しているんじゃないかと頭が錯覚し始めてくる。
そのうち俺にぎゅうぎゅうとしがみつき、ぽろぽろ涙を流すようになり、乱れて散ったミルク色の髪から覗く翠の目がゆらゆらと不規則に揺れはじめ、水面の下から光を発して輝くようで、『もうでない、でないよ、やだあ、そこやだあ、きもちいいよお、やだあ』と少し掠れた甘ったるい声で訴えるようになり、それがまたどうしようもなく、たまらな──
「ねーギードさーん。ギードさんてばー。おかわり要らないんですかー?」
「あ、ごめん、いるいる。考え事してたわ」
「ふーん。どうせエッチなことでも考えてたんでしょうよー。頬染めちゃってえ。間違いないね。そりゃー子供もできますわいなー」
「かっ……考えてない。絶対違う。ていうかフランカおばちゃんみたいな話し方すんなって」
「えーでもそのうちー、ぼくも子持ちのおばちゃん? おじちゃん? になるんですよ。町内会とか行くんですよー」
「ダメダメ。行っちゃダメだ。うちは別に商店じゃないから行かなくていい。ていうか毎回案内が来るのはみんな単にお前が見たいだけだから。妊婦相手に何考えてんだか」
「ふーん。でもしわしわにはなるかもですよ。成長期はどうやら一旦落ち着いたみたいですけどねー」
「別にいいよ。みんなそうなるし。ていうか俺が先にシワッシワになるかもしんない」
エリーは『ギードさんはお父様みたいになるんですかねえ』と言って笑い、『しわしわになっても捨てるのはダメですよ。最後までちゃーんと責任取ってくださいよー』と、ニヤニヤしながら言っていた。
取るよ、責任。来たときから決めてたよ。まさか娶ることになるなんて、想像もしてなかったが。
もしお前が責任を取らなくていいからと言ったとしても、取らせてくれって縋りつくよ。もし別々に寝ようと言われたら、あのでかいベッドを買うからって懇願するよ。
浮気なんて絶対にしない。お前以外に興味がない。仲間から娼館に誘われたとしても無視して家に直帰する。菓子を作りたいときだって、いつでも人間調理器具になってやる。
捨てないでくれと思っているのは俺の方。別々に寝るなんてことはあり得ない。寂しすぎて眠れなくて泣くだろう。俺が。
考えただけで恐ろしい。そんなの拷問もいいとこだ。もう絶対にできねえよ。
激かわエルフちゃんは魔術師さんに召喚した責任を取らせたい 清田いい鳥 @kiyotaiitori
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