8

「あかりちゃ~ん」

 朝、登校してきた美里が鞄を自分の席に置くと、にやにやしながらあたしのところに来た。

「きのうは大活躍だったじゃな~い?」

「や、やめてよ」

 それだけで、美少女仮面の正体がばれるとは思えないけど、ちょっとでもその危険は避けたい。

 そうでなくても、教室は美少女仮面の話題で騒然としている。

 とくに聡君のまわりには人が集まっていた。

 なにしろ、あたしとともに大活躍したあげく、みんなの前でキスをした英雄だ。

「美少女仮面の唇の味はどうだったんだ?」

「舌入れたのか?」

「気持ちよかったか?」

 とか、まるっきり馬鹿な質問攻めに合っている。

 でも、そんなこと聞かれてすこし照れてる聡君って、かわいっ。

「まあ、一時はどうなるかと思ったけど、けっこうあれでよかったんじゃないの? あかりのあこがれの君、聡は人気者になって、そのくせ他の女はよりつかない。なにせ、美少女仮面、公認の恋人って感じだからね」

 美里が楽しそうに、あたしの耳元でささやく。

 う~ん。ま、そうかもね。

 たしかにあのときは心が通じ合った気がする。でもそれはあたしとじゃなくて、あくまでも美少女仮面としての話。

 なにしろ、あの仮面を付けたときだけ、あたしは大胆不敵で積極的になれる。

 内気なあかりじゃない。

 でも、それって、けっきょくあたし自身の恋としてはむしろ後退したんじゃないの?

「聡さ~ん」

 がらりと扉をあけて、飛びこんできた女の子がいた。

 ちょっと背の小さめのポニーテールの子。あ、きのう人質にされた子だ。

「あ、ああ。君は?」

「一年生の、小島美貴こじまみきです。きのうはありがとうございました」

 美貴ちゃんとやらは元気よくいった。

 眼がきらきら輝いている。ひょ、ひょっとして、この子も聡君を……。

「きのうの美少女仮面様、かっこよかったですね?」

 美貴ちゃんはうっとりしながらいう。

「聡さん、あの方の正体を知らないんですか?」

 あの方? なにかいやな予感がした。

「ああ、俺も知りたんだけどね」

「あ~ん。そうなんですか? 残念。もう一度あの方にお会いしたいですぅ」

 その瞳は恋する少女。この子のお目当ては、聡君じゃなくて、あたしらしい。

 後ろで美里が声を殺して笑っていた。

 「あたしぜったい美少女仮面様の正体をつきとめてやるんだから」

 なにかそんなことを宣言している美貴の声が聞こえた。

 あんたはいい。あんたは。

 その役目は聡君なの。

 あたしは思い切り心の中で叫んだ。

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美少女仮面も恋をするっ! 南野海 @minaminoumi

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