不思議な呪文

小枝 野薔薇

第1話母の日

その日は母の日だった。

母は今、父と2人で買い物へ出掛けている。

今のうちに、プレゼントを決めようと思い、母のお花の雑誌コレクションを1冊手に取った。

母は、お花がとても大好きな人なのだ。

「こんなブーケがいいかなぁ〜」などと、悩みながら雑誌を熱心にめくっていく。

次々とページをめくっていくと、色とりどりのお花のブーケが目を楽しませる。

次は、どんなブーケなんだろう?と思いながらページをめくろうとした、瞬間。

「かさっ」

何かメモでもはさんである様な音がした。

何だろう?と考えながら

そのページを開いてみた。

「ぽとっ」

真っ赤な二つ折りの紙が落ちてきた。

母は、あまり赤色は暑苦しくて好きじゃないとっていた事があった。

なので母の雑誌に、こんなに鮮やかで、眼が痛くなるような、この赤い紙は、本当に母の物なんだろうか?と疑問に思った。

その赤さに何故か惹かれて二つ折りを開いてみた。


中にはこう記されていた。


「ぎしふかま」


莉子は思わず

「ぎしふかま?」と呟いた時だった。


莉子は頭が割れそうなほどの眩暈がして床に倒れ込んでしまった。

しかし、莉子は今まで実家のリビングにいたのだから、フローリングを感じるはずが、砂のジャリジャリとした不愉快感を得た。


莉子は、実家に1人で留守番をしていたはずなのに。なんだが、周りの様子がおかしい。

ザワザワ、リンリンリン、とお囃子が聞こえ、

しかも、人の喋る音がする。


どう言うことだろう?何が起こっているの?と思いようやく頭を

「パッ」と上げると。


歴史の教科書でしか見たことのない様な町が広がっていた。

ここは花街?遊郭?なのだろうか?

美人さんが沢山いるし、美男子さんも沢山いる。んんん?皆んな美男美女で色白だ。

それになんで皆んな着物なのだろう?などと、考えていていると急に、

母の雑誌に挟まっていた、あの鮮やかで眼が痛くなるような赤の行燈がずらりと並んでいるのが目に入った。


莉子はなんだか急に、ここは不味そうな雰囲気がすると思いだした。頭の中で警報器がガンガン鳴っている。


はやく帰るために何とかしなければと強く決心をして、思い切り振り返ると

「わぁー!!!」


莉子の真後ろには、とてもこの世のものとは思えない、美丈夫3人が立っていたのだ。

莉子は驚いてしまい、とても大きな声を出してしまった。

すると美丈夫3人の方から話しかけてきたのだ。


「ごめんね、驚かしちゃって。」

「すまなかった。」

「ごめんねぇー。」

 

何だろう。前半2人はちゃんと謝ってくれた感じは一応あるけれど、最後のやつはちょっと感じ悪いなと莉子は思った。

しかし、この人たちに聞けば何かわかるかもしれないと、思い切って聞いてみた。


すると、


「なるほど莉子ちゃんは違う場所にいたのに急にこんなところへ来てしまったからお家に帰りたい、と言うことなんだね?」


「はい、そうです。何か知ってますか?」


「そーだーなー、一緒に考えるからさ、一緒に呑まない?」

莉子はさっきのこいつ、チャラくて危ないやつだなと瞬時に認定をした。

そうしたら、

「ごめんね、こいつチャラくて。僕も一緒に考えるよ。それにこいつもいるからさ、三人寄れば文殊の知恵とかいうしさ。」

この人は優男ぽいから、聞きやすいんだよなぁと思った。


「俺も一緒に解決策を考えよう。飯屋はあっちだ。行こう。」

この人は真面目で堅物そうだけど悪い人ではなさそうだよなぁ。

それが莉子が美丈夫3人に抱いた感想だった。


莉子は落ち着かない気持ちでずっと周りを観察していた。

21世紀にこんな場所ある?

みんな美男美女。みんな着物。皆んな色白。

なんにか違和感を覚える。3人は賑やかに話している。莉子は1人で、もくもくと考えながら歩いていた。その時、飯屋とやらについた様だ。


卓につき、あれこれ帰り方を聞き出そうとするものの、一向に3人は答える気配がない。

莉子は内心、最初からあのチャラい奴は当てにはならないと思って、残りの2人に期待をしていたのだが、話をはぐらかされている様にも感じる。

困ったなぁ。

何か聞き出さないと、帰れないと悩んでいた。

その時、ようやくお酒がきたらしい。

3人の美丈夫もお酒がきたら大喜びだ。

しかしこのお酒が、あの赤い紙と赤い行燈と同じ鮮やかで眼が痛くなるほどの赤だった。

「ハッ!?」

莉子はこの瞬間、全てを理解して店の外へと全力で飛び出して、走り出した。


何でみんな色白なのか、何で赤いお酒なのか、何で着物の襟が……。すると、


「まぁぁぁてぇぇ〜」


「ぎぁぁぁぁー」

何とあの美丈夫3人が鬼の形相で追いかけてきたのだ。

美しい見た目が今となっては、恐ろしい化け物の様になっている。


莉子は一生懸命逃げながら、やっぱりアイツら私のことを食べようとしてたんだ!!!

と察した。


どんどんアイツらが近づいて来る、

足よ、もっと頑張って動いて!急げ!早く!


ただっただっただっただっ。


足音が近づいてきている。


ついにアイツらが目前まできてる。

「「「俺らに大人しく食われろーーー。」」」


どうしよう!

飛びかかってきた!

食べられちゃう! 

走馬灯が流れる。今日は単に母の日をお祝いしたかったのに……もう二度と会えないの?

いやだよ!!!お母さん!お母さん!


莉子は思わず叫んだ、

「おかーーさんーーん。」



「うぅぅぅぁぁぁ。」



どさっ………あれ実家だ?帰ってこれたんだ!

どこか遠くで化け物の呻き声が聞こえた気がした。

莉子がほっとしたのと同時に、お父さんとお母さんが帰ってきた。


それとなく、あの赤い紙について母に聞いた所、

「そんな赤い紙知らないよ?どうしたの?」

と返された。


あの後、あの赤い紙は無くなっていたし、時計は10分しか進んでいなかったし、変な呪文も思い出せない。

一体あの赤い紙は、誰が母のお花の雑誌なんかに挟んだのだろうか?

そして、あれは莉子の夢だったのだろうか?


 




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不思議な呪文 小枝 野薔薇 @rosa_7m

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