第35話 聖女様と離れて、他の女の子とデートの日!?

「良い天気でよかったね」


 リリィはそういうと空を見上げた。

 太陽の日差しが眩しいほどの青い空。

 リリィと俺は村の中心である広場にやってきて、噴水のオブジェに腰かけた。


 一息ついて、朝の場面を俺は思い出した。


 今日はミヅキがテッドに誘われてロイドも含めて3人で会う日。

 ミヅキはテッドの母親からもらった白くまあるい半そでの上着に腰がきゅっとなった薄ピンクの長いワンピースを着て出ていった。


 朝はちょっと俺と離れたくないとぐずっていたから少し心配だったが、ロイドから姉のように優しく声を掛けられていつのまにか泣き止んで出ていった。さすが長年妹のお世話をしてきただけはある。


 部屋からずっと一緒にいたミヅキがいなくなると今度は俺が少し寂しくなった。

 そこにドアをノックする音がして開くとリリィが立っていた。


「シュウくん、おはようございます~」


 リリィは真っ白い、ひらひらがたくさん付いて刺繍が入っているワンピースを着ていた。

 俺の洋服を見るなり、「やっぱり~」と言って黒いローブを引っ張った。


「えっ!?」


「黒いローブ、だよねぇ。ねぇ、この服をシュウくんは好きなの?」


「これしか持ってないよ」


「だーよーねー」


 少しうんざりした、けれどもしょうがないなという顔をリリィはして「シュウくんは見た目にあんまりこだわりっていうものがない」と呟いた。


 こだわりも何もこの世界にきてからもらった服がこれだけなんだが……と思いながら、じゃあ実際の現実世界の俺はどうかというと母が買ってきたTシャツかジーンズばかり履いていたからこだわりは持ってないな。リリィすげぇ。


「大事なのは中身だからねっ!」


 俺が考えているのをよそにリリィは気を取り直してとびきり明るい笑顔を出した。

 

 何でそんなことを考えたのかというと、リリィの白いワンピースから反射する光がキラキラと光っているのが見えたからだ。


「どうしたの?」


「眩しいなぁって」


「ふふ。そうね、お日様の光は眩しいよね。人の顔色も明るく見えるし、気分も明るくなるし、あるのとないのと随分違うよね」


 それは今まで暗闇だった村の話なのか、それともリリィの中で何かの話なのだろうか。


「私ね、シュウくんが来るまで物心ついてから話した人は姉しかいなかったの」


 つまり、俺は初めて会った人ということか。


「そうなんだ。リリィは人と話すの得意そうだから全然そんな風に見えなかったよ」


「それは……姉のおかげね。よく姉とお人形遊びしていろんな人との会話劇をやってたから」

 

 そうか。その効果が人を使いこなす俺の姉みたいな性格になったのか……。


「シュウくんて、時々、考え込む癖あるよね。何を考えているの?」


 ハッとしてリリィを見るといつものふんわりした顔が横にあった。


「あ、いや大したことじゃないよ。あーうん。花畑でリリィと会ってよかったなと思ってる」


 うん、世の中、考えていても言わないことがいいこともある。

 俺は思っていたことを隠して、ここまでの最初の出逢いを振り返って述べた。

 

「ふふっ私もそう思ってる。私、初めて会った男性がシュウ君でよかったなぁと思ってるの」


 そっか、それはお互いよかった……と思いかけて、リリィが急に近づいて俺の耳元に自分の手を添えて聞こえるか聞こえないぐらい静かに言った。

 

「初恋だよ」


 えっ?

 リリィは言ったら手を顔に当てて、ほんのりと赤くなった頬を抑えた。

 

 今、リリィ、『初恋』と言った?

 俺のこと?


 そして立ち上がって俺の手を取って「ねぇ、2人きりだし、甘えてもいいかな? このまま手を繋いで村の周りを歩きたいな」と言った。


 えっ?

 握られた手は温かく、俺の心臓をドクンドクンと震えさせてくる。

 

 その時だった。

 すぐに俺とリリィの手を力づくで離された。


「シュウ、何してるの?」


 見ると横にミヅキが立っていた。後ろからロイドが追ってくるのが見える。


「え、いや……休んでただけだよ?」


「手を繋いでたよね?」


 俺はリリィと目を合わせ、そして空中に泳がせた。

 俺の顔の前にミヅキが近づいて真っ直ぐ目を合わせる。


「ねぇ、シュウは私が必要だよね?」


 ミヅキ、怖いよ。

 コレ、YES以外答えがないじゃないか。


 俺は無言で頷いた。その様子見たからか、リリィから「あーあ、残念」という声が聞こえた。

 ミヅキの後ろから茶目っ気たっぷりに身体を大きく曲げている笑顔のリリィが見えた。


 リリィはミヅキの肩を叩いた。振り向いたミヅキに向かって言う。


「私の初恋という思い出は唯一無二でミヅキさんにも奪えないからねっ!」


 ミヅキが驚いて目を見開いた所に、ちょうどスカートをひらひらさせながらロイドが走りこんできて「シュウ、妹に手を出さないでね!」と口を挟んだ。


 この兄妹は……。

 ん? なんか人数足りない……くないか?

 あ、テッドがいない。


「あのう、テッドはどうしたんですか?」


「久々に飲んだアルコールで酔っ払って店で休んでいる」


 あぁそういう。

 これで俺の初めてのデート(?)は終わった。


 ◇ ◇


 黒いローブの中に手を突っ込む。

 いれっぱなしのメモを探すが、そこには何も存在しなかった。


 結局、暗闇アイツの目的は皆を闇の病みにかからせる以外、何者だったのか、わからない。


 俺とミヅキは村を出た。暗闇の中も過ごせるようにと馬車を手配してもらった。

 その馬車で教えてもらった通りに何日もかけていくつかの村を超えて道を進むと黒い雲で覆われた、また暗黒で包まれた町が見えてきた。


 それが我々がいた始まりの町であると誰が思うだろうか?

 俺たちがいない間にいったい何が起きてこうなってしまったんだ?

 

 第一部完


 ――――――――――――――


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 やっと第一部が完結しました。

 

 第二部は少しだけ時間をいただき、書き溜めてから投稿していきたいと思っています。※予定は1ヶ月ぐらいです。しばらくお待ちください。


 小説を読んで何か思うことがありましたら、一言でもいいのでコメントを残していただけると嬉しいです。

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病んでる彼女と異世界でバディを組んで探偵をすることになった件 MERO @heroheromero

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