第34話 聖女様をデートに誘うの強心、俺にも棚からぼたもち的な展開が?

 ロイドにリリィ、テッドにそしてミヅキと俺は丸いテーブルを囲んで食事が終わった時、テッドは手土産で持ってきたデザートを広げてお皿に並べた。


 ミヅキとリリィはそのキラキラした色とりどりのデザートを見ながらお互い話し出した。


「ミヅキさんからどうぞ」

 

「……リリィはどれがいいの? いっせーので指さそうよ?」


 二人はいっせーの!と言いながら指した先にあるのは真っ赤な果物がのっているデザートだった。


「やっぱり被った」


 そう声を上げたのはリリィだ。


「なんとなく好きなもの、同じ気がしたんだよね。いいよ、ミヅキさん。そのデザートは譲るよ」


「いいの?」


「うん。テッドさんはミヅキさんのためにきっと持ってきたと思ってるから。そうでしょう?」


 唐突に話を振られて慌てるテッド。


「あ、いや……そう……だけども……」


「テッドさん、こういうときはね、デザートをお皿にとってあげながら”はい、どうぞ。このデザートより君のほうがカワイイよ”とかいえばいいのに」


「あ、いや……そうか、そういう風に言えばいいのか……いやいや……」

 

 リリィはお皿をテッドに渡して、デザートをのせて配らせた。

 そのデザートぐらい真っ赤になったテッドは照れながらミヅキにお皿を渡そうとした。


「あっ、ミヅキちゃん……あの、いろいろお世話になりました。これはお礼です。あと……よかったら俺と出かけませんか?」


 ミヅキはテッドが持つお皿に手を伸ばしたその手をそのまま硬直させて、驚いた顔をした。


 俺もビビった。

 いきなりデートのお誘いって……テッド、そういや少し前に『俺にもチャンスが』と言ってたなぁ。

 す、すごいな。

 ミヅキ、手が止まったままだぞ。

 

 全く微動だにしないミヅキを前に、テッドは少し動揺した姿を見せたが果敢にも話かけた。


「あっ、ミヅキちゃん……あのあの、さ、いや……2人っきりってびっくりするよね……そうだよね……そうだ、ロイドも一緒に誘うからさ、三人でどう?」


 急にまた話を振られたロイドは様子をなんとなく察知して「あのさ、テッド。行くのはいいんだけど、ミヅキさんをどういう目的で誘っているの?」と聞いた。


「あっ、あの俺、闇の病みにかかっている時の俺との記憶はひどいものと思ってる。少しでもそうじゃない俺も知ってほしいし……ミヅキちゃんが救ってくれたこの村を紹介したい」


 案外まともな話かもしれない。

 ただね、それ以外にミヅキと仲良くなりたいとも思ってるようにも見えるんだが、気のせいか。


 ロイドは頷いて「そう、ミヅキさん……私の幼馴染の話を聞いてもらえないかな? 私も行くから安心してほしいの」と微笑みながら言った。男性ぽく口調から女性らしい柔らかな話し方にロイドは変わった。

 

 うわぁ、めちゃじょしぃぃぃ。

 服装と相まって女性らしさが高まった。

 もとより顔は整っているからほんとのお姉さんに見える、見えるぞ。


 ロイド、お前、策士だろ?

 

 そんなロイドの話をミヅキは真剣に聞いている。


「そういえば少し前にミヅキさんはリリィにお願いをしに、会いに来たよね? そのリリィの姉である私は信用がないのかなぁ? ねぇ、ミヅキさん?」


 猫のような、甘えたような声を出してロイドはミヅキに優しく声をかける。

 

 「リリィは私の大切な妹でテッドは私の大切な幼馴染なの。だからね、私のお願い、聞いてほしいなぁって」


 ロイドは女性そのもののような顔をして、ミヅキに向けてウインクした。

 ミヅキはそのウインクを見て、表情を崩してくすっと笑った。

 

「ロイドさんの大切な……」


「うん……それに私たちを仲直りするきっかけはミヅキさんの一言なんでしょう? 私もミヅキさんにお礼したいよ?」


 俺は二人のやりとりを横目に見ていた。

 ミヅキはちらっと俺をみた。

 これは……俺に何か言ってほしい?

 俺のことを気にすることなんてないと思う。

 ……確かにテッドと二人きりとなると不安だが、ロイドも一緒にいくんだろ?

 俺だったらリリィに対する過保護さをみてるとロイド含めて三人で出かけるって嫌だけど。


 ……ただ俺が思うことはね……少し、ミヅキは力抜いたらいいんだと思う。

 花畑での不安定な彼女を見ていてそう思う。

 少なくともこの村の人々はミヅキに感謝しているし、俺以外にも必要とされている実感を感じる機会があってもいいと思うんだよね。


「ミヅキ、行ってきたら? あの……何かあったらロイドが助けてくれるよ。それに今のテッドはミヅキが嫌がることしないよ」


 ミヅキは俺の目をじっと見つめている。

 俺はロイドとテッドに目線を送り、「そうですよね?」と聞いたところ、2人とも頷いてくれた。


「う、うん……そう……シュウがそういうなら……」


「じゃあ、三人で待ち合わせる場所と時間を決めましょう!」


 笑顔でテッドが話し出した。

 俺は三人の邪魔にならない場所にと思ってそっと家の外に出た。


 しばらく夜風に当たりに散歩でもしようと動いた時、目の前にリリィが現れた。

 

「シュウくん、ちょっと話してもいいかな?」


「あぁ、いいよ」


「三人が出かける日に私たちも出かけない? 私とシュウくん、1人でしょ?」


 そういえば、ロイドが家にいないということはリリィは1人だ。


「確かにそうだね」


「ねぇ、私、シュウくんとお出かけしたいな」


 リリィはいつものほんわかした表情のまま言うから、俺は一瞬、何か話を聞き間違えかと思った。

 驚いた表情だったのか、もう一度、リリィは言った。


「聞こえてる? 私、シュウくんとデートしたい」


 お出かけをデートに言葉を変えて、リリィはニコニコしながら俺に問いかける。


「……あぁ、うん。聞こえてる。……リリィは俺をからかってるの?」


「えー、どうだろうね? 三人で出かけるなら私たちもどこか行こうよ」

 

 これはいったい、どういう展開!?

 俺はリリィにずっと翻弄されている気がしている。

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