第33話 ゲームは終わったのに聖女様は病んでます

 俺の言葉を受けて、テッドはまず、現状を村全員に伝えなければならないと立ち上がり、闇の病みにかかっていた若者たちを集めた。そしてこのままこの村がなくなってもいいのかと声をあげた。テッドは我々を救ったのは聖女とロイドとリリィの活躍だということ、まだ村を救うのにロイドが必要だと力説し、村に呼び、謝罪した。ほとんどの村の人たちからどうしても力を貸してもらいたいと懇願されたロイドはリリィの2人は村の立て直しに尽力することを引き受けた。


「ミヅキさん、シュウくん、いつも花摘みありがとうございます! 今日はお花これぐらい取ってきてほしいです」


 俺の姉も俺のことをよくパシリにしてたが、リリィは感謝を伝えながら人をうまく使うなぁと感心しながら、ミヅキと俺は言われたとおり、花畑に行って花を集めた。


「シュウ、見てみて~」


 花畑で花を集めた後に、ミヅキは俺に花で作った王冠を見せてくれた。


「ミヅキ、器用だね。すごく綺麗だよ。よく作り方知ってたね」


 俺が何気なく言った言葉にミヅキは笑顔だった表情から困惑の顔に変わった。

 マズイことを何か言った、俺?

 

「……あ、わからないけど、手が勝手に」


 ミヅキの大きな目が手に移動した。

 その手は震えている。


「……シュウ……これは誰かに教えてもらったの……誰かは……」


「あ……嫌、やめて……私、必要ない子なの? ……」


「要らないって……そういうことなの? ……そんな、そんなこと」


「ミヅキ? どうした!?」


「脳の中で誰かが言ったの。”用無し”って。わからない、顔は浮かばないの……教えてくれた人を浮かべると苦しくて辛いの……」


「ミヅキ……そうだったんだ。いないと困るよ。」


「……私、怖い……何も考えたくない……」


 俺は頷いて、ミヅキをそっと抱き寄せた。

 そして頭を優しく、ゆっくりと撫でた。


 彼女の過去の記憶に何があるのかわからないが、よっぽど悲しいことがあったのだろう。

 過去を変えることはできないし、悩んでいることがわからないから迂闊な言葉を言うのはよくないと思った。彼女は俺の腕の中で静かに泣いている。

 

「シュウはどこにもいかないよね? ずっと隣にいてくれるよね?」

 

「あぁ、うん」


「じゃあ、私がどんなことしても大丈夫?」


「……どういうこと?」


「……ううん。何でもないの。心の中に、浮かんできたから……聞いた。特に意味はないの……」


「そっか。そうだね、今までの君を見ていて”どんなこと”でもするような子には見えないかな」


「じゃあ、今日から一緒にベットで寝てくれる?」


「えっ……といや、それはミヅキのことは大事だけど……俺、男だから」


 ごくりと唾を飲み込んでしまった。

 おい、想像するなよ、俺。

 

 ミヅキは抱き合っている身体に力を入れた。

 それはやめてくれ。胸思いっきり当たって(考えないようにしているのに)頭の中がちょっとヤバい。

 

「男だから?」


「ミヅキの希望はわかった。ミヅキが寝るまで今までと同じく隣にいるよ。俺はミヅキをすごく大切にしていたいから一緒のベットで寝ない」

 

「大切にしたいから寝ないの?」


「そう、ミヅキは俺にとって必要な、大切な大切な人だよ」


 そう言ったらやっと目の前の顔がパッと明るくなった。

 

「……シュウ」


 そう言ってまた俺を強く抱きしめた。


 むぎゅぅぅああ、理性がぁぁぁぁ。


 ミヅキ、これは何!?

 かろうじて姉がいるから若干の女の子耐性で理性を保ってる……。

 こんな所でこんな風に姉に感謝する日が来るとは……。


 そういうのは好きな人にって……。

 あ、これは小さい子が親に抱きついてくるあれだな。

 俺を恋愛対象としてというより、なんか違うやつな気がする。

 コレ、渉の弟に思った感覚と同じやつね。

 そうだ、保護者の感覚。


 もうしょうがないなー、ミヅキは。

 彼女が落ち着くまでしばらくそのままで俺はミヅキを抱きしめた(あーもうなんでもいいよ)。


 ◇ ◇


 俺たちはリリィの下に目いっぱいの花を持って帰ってきた。


「いつもありがとう! 本当に助かります。さぁ、今日は我が家でゆっくりしていってね、ミヅキさん、シュウくん。後でテッドさんも来ると言っていたから、ねっ、お姉ちゃん」


 ロイドは女性の服しか持ってないからそのままの服を着ているので見た目は女性そのものだ。

 これではほんとに女装好きの男性ではと思ったが、俺はその点に何も触れずに聞いた。


「それでどうなんですか? 村の様子は」


「まぁ、少し売るために工夫は増やさないといけないところはあるけれども順調だよ」


「それならよかったですね」


「君は不思議な人だね」


「その言葉、リリィからも言われた記憶がありますね」

 

「兄妹だからね。君にも兄弟はいるの?」


「姉が1人います。なんか時々リリィと被るんですよね。使われている所?」


「シュウ君、聞こえてます。人聞きが悪いですよ?」


 皆で笑い合いながら、食事の準備をする。


「またせたな~、こんばんは、リリィちゃん、テッド。お袋がデザート持って行けっていうから、ほら」

 

 テッドは手土産を持ってやってきた。

 周りを見渡し、ミヅキの方を向いて 「……ミヅキちゃん、こんばんは。このデザート、村一番の美味しいものなんでぜひ食べてくださいね」と袋を開けて言った。


 ミヅキは袋の中を除いた途端、すごい笑顔になって「わぁぁ、素敵」と声を出した。

 俺も横から覗き込むと、中には 赤、ピンク、黄色、青とオレンジと……といった色とりどりの果物がのせられて綺麗にデコレーションされた小さなケーキが並んでいる。

 

 女の子受けしそうな食べ物だなぁ。

 テッドすげぇぇぇぇ。いや、実際にはテッドの母親か。

 

 食卓はさらに賑やかになった。

 

 さて、この食事の最後に俺とミヅキはもうすぐ村を出ることを言おうと思っている。もう村にいる必要はないからだ。そう、俺はすんなりと話が通ると思っていたんだがね。


 いやはや、そうは問屋が卸さないって。

 ほんとに俺は負けるよ。

 え? それはもちろん闇の病みから復活したテッドのポジティブさ?

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