第32話 闇の病みが村に蔓延した理由とこの村の最後の希望と

 何も表情を変えずにロイドはテッドに向かって話し出した。


「リリィが話したから言うが……俺はリリィのために姉になりきろうと確かに思った。それは結局、俺のエゴだ。だからあの時、誰にも言わないと決めたんだ。村の皆は女性のフリする俺を受け入れなかった。誰も俺を理解しようとしない割に仕事はやれという。だからあの村を離れた。今もあの時の自分の決断に悔いはない」

 

 テッドはロイドの告白をじっと聞いて、しばらくして神妙な面持ちでゆっくりと言葉を出した。


「そうか、そうだったのか……俺は何も言わないお前に裏切られたとずっと思っていた……ずっとな……そうじゃなかったのか……俺はあの時、お前にひどい態度を……ごめん。謝ってこの数年が取り戻せないのはわかってるが……。理解しようとしなくてごめん」


 ロイドの言葉はテッドに伝わったのか……テッドは言いながら涙を流し始めた。

 本当に反省しているようだ。

 その様子を受けて、頑だった態度を取り続けていたロイドもテッドの気持ちが移ったかのように先ほどの固かった表情から考え込むような雰囲気に変わった。

 

「……あのな……俺も……。……少し意地になってたのかもしれない。村の一人ぐらいは誰か俺のことをわかってくれると甘えていたかもしれない……ごめん」


 二人はお互いの顔を見合わせて謝り合った。

 俺はすっかり二人の溝を忘れてここにいきなり連れてきてしまったことに心の中で謝りながら、謝り合う二人の様子を見守った。


 ◇ ◇

 ひと段落ついた様子のロイドはテッドに聞いた。


「疑問があるんだ……テッド……お前の、いや村が闇の病みに汚染された原因は何だ? 今、村はどうなっているんだ?」


「お前に女装あれの理由をそこまで言わせて……俺がその原因を言わないという選択は無理だよな……」


 やっとテッドは話す気になったらしい。

 ここまで長かったなぁと俺は息を吐いた。


 重い口をテッドはやっと開いた。


「……この村の仕事は男のやるべきこと、そう育てられた。ロイド、お前もそうだろ? だから俺は……いや皆、女の姿をしたお前を軽蔑けいべつしてこの村から追い出した。……俺や同じぐらいの男性にとって仕事は誇りだった」


 ゆっくりとであるが、テッドは村が闇の病みに覆われるまでの流れを一気に話し始めた。

 

「村の売上を伸ばして村に貢献したいと思った俺たちは儲けを増やそうとした。……そこで失敗したんだ……。誰もどうしていいのかわからなかった。膨れ上がる在庫に対して商品の売れ行きはかんばしくなくて……」


「そんな時にある人物が商品を高値で買ってくれると言ったんだ。皆、喜んだよ。その人物の言う通りに我々は村の外の倉庫に集まった。でも……全部、嘘だったんだ。そう気が付いたときには全員、闇の病みにかかってた」


「自分たちがみずから闇の病みにかかったこと、仕事がうまくいかなかったことを誰も他の村人に言えなかった」


 騙されてかかったと、そういうことか。

 

「もう死ねばいいと……何度も自分たちを呪ったよ。お前のことも……あの怪しい人物のことも……俺たちは消えてから気が付いたんだ。それでも自分たちは何一つ悪くないって思いたかった」


「……周りからどう思われるかばかりに気を取られてずっと見ないフリしていたんだ。だから天罰がくだったんだ。結局、闇の病みが終わっても赤字はそのままで村は今も存続の危機だ……」

 

 だからずっとテッドは……いや他の人も病気が蔓延まんえんした理由を言えなかったんだな。

 言えば大問題だし、テッドが誰とも会いたくなかった理由もここにあったのかもしれない。


「そうだったのか……俺も……同じかもしれない。人からどう思われるかばかりを気にして自分のエゴだとしても……少なくともお前には言えばよかったのかもしれない」


「……俺たち、大切なものを見失ってたんだな……。お前に裏切られたわけじゃなかったとわかってよかったよ。また普通に話せるか」


「あぁ」


 テッドとロイド、何年越しかの仲直りか。

 ほんとによかった。

 俺が二人の関係にホッとした直後にテッドは不思議そうに言った。


「それにしても……俺も1つ疑問があるんだが。何でロイドがこの村を救ったんだ? どういう流れで?」


「確かに。俺もよくわからない。俺とリリィがどうやって生活しているのか話しただけだよ。あの実態のない暗闇ゆうれい、いったい何だったんだ。それに俺がこの村の最後の希望って何だ?」


 ロイドの質問にずっと二人の会話を聞いていた俺は口を開いた。


「これは推測ですけど、謎の人物エックスはこの村を潰そうとしたんじゃないかと。そのために働き手で稼ぎがある若い男性全員を絶望に陥れて闇の病みにかける必要があった。でもロイドさんが若い男性じゃなくても、もっと言えばこの世界から人がいなくならない限りにはいくらでも村の立て直しはできるって証明したから暗闇エックスはこの村から去った。さらに聖女の力で闇の病みが解消されたっていう」


「謎の人物エックスこと、暗闇ゆうれいは何なんでしょうね。正直、暗闇アイツは俺もあの場で見たのが初めてで一体何かわかりません」


 俺は知っていることと思っていることを説明した。

 ……半分ぐらい適当に想像で話してる(ちゃんと推測って言ったぞ)。

 残念ながら俺には何も知る力はない。

 テッドとロイドはそんな俺の言葉をまともに受け取って聞いてくれた。


「ロイド、そうなのか?」


「……村の仕事をしなくても収入はあったよ」


「仕事をしなくても生きていけるって……一体何を」


 俺はロイドの声をさえぎって言う。

「それは等価交換ですよ、テッドさん。村の皆にロイドさんが村を去った理由を説明してもらってからです」


 そんなただ知識だけ無償タダで渡すなんてしたくない。

 ロイドはまだこの村の住人の扱いをされていないんだよ。

 もうロイドとリリィに疎外されていると感じてほしくないんだ。

 聖女とロイドとリリィの3人こそがこの村を救った英雄であり、そしてロイドとリリィがさ、暗闇アイツが言ってた通りに、この村の希望となってこの村を再建つくりなおしてほしいんだよ。

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