第31話 お互いボタンの掛け違いしていた二人を合わせたらそうなるよね

 テッドの家に行くまでの道中、ロイドはやたらミヅキに声をかけていた。

 間に入って俺が常にミヅキに通訳し、ミヅキが一言で答えることを繰り返しているとテッドがボソッと呟いた。


「シュウ、ミヅキとシュウはどういう関係?」


 えっ?

 それ今聞くか?

 隣にミヅキがいるだろうに……。

 ミヅキは不思議そうに俺を見ているので、俺は高らかに言った。


「テッドさん、それは俺とミヅキの秘密です」


「ちぇっ、つまんないな。ただはっきり言わないってことは俺にもチャンスあるってことだよな」


 闇の病みから解放されたテッドはすこぶるポジティブそうだ。

 まぁ、できる限りチャンスがあるかどうか見るのは……そうだよね。ロイドはミヅキと近くにいたい、その為だけに仕方なくやってきただけっぽいし。


 そうこうしているうちにロイドの家に辿り着いた。

 名を名乗ってトントンとノックする。

 扉が開いて中から姉の姿のロイドの顔が出てきた。


「シュウ、どうしたの? ……後ろにいる男性は誰だ?」

 

 後方にいたテッドを確認し、鋭い目でテッドを睨み、男性の声を出すロイド。


「あー、ご存じだと思うんですけど……ロイドさんのお知り合いのテッドさんです」


 テッドと聞いたと途端、ロイドの態度はさらに悪くなった。


「何の用だ? 私は話すことなどない」


「あぁ、俺も同じくお前と話すことはない」


 テッドはロイドと同じことを言い、後ろを向いてしまった。

 

「はぁ? じゃあ、何で来たんだ、今すぐ家に帰れ」


 ロイドはそんなテッドにもちゃんと返答した。

 問答無用で俺の時は全く家に入れてくれなかったから、テッドに理由を聞こうとするロイドになぜと思ったが、その心はテッドには全く伝わっていないようだ。なんだかやさぐれたい気分だぞ、俺。そんな俺の気分は誰も気にせず、緊迫した状況は続いた。

 

「なんだと……その言いぐさ。かわんねーな」


 テッドが放った言葉でロイドもカッとなったようで俺を突き飛ばしてテッドの肩をつかんで殴りかかろうとした。そこでリリィが声を上げた。


「落ち着いて、お兄ちゃん!」


 その一言でロイドは自分のやろうとしていることを振り返り、テッドから手を放し、息を整えながら言った。


「リリィ、あぁそうだな。コイツはシュウに連れてこられただけみたいだしな。怒りの矛先間違えたね」


 それにテッドも反応し、すぐさま返す。


「あぁ、そうそう。シュウさんが俺を連れて行くって言い出してきただけ。俺はここに来るつもりなんてなかった」


 そうしてロイドとテッドの二人に俺は睨まれた。

 ひぃぃ、怖い。

 俺は縮こまりそうな気持ちになりかけた。

 そこに隣にいたミヅキがしくしくと泣き出したのだ。


 俺はミヅキに「どうしたの?」と聞いた。


「2人はお互いすごく傷ついてる。その悲しみが流れてきて涙になるの……」

 

 俺たちを引き合わせたのはお前。

 この状況をどうするんだよという風に二人に見られている視線を感じる。

 はぁ、ため息しか出ないが、 そうか、お互い傷ついてるか……。

 今、俺は二人に圧倒されて後ずさりするような思いだが感情を凪にして、ここは踏ん張ろうと思った。


「いきなり二人をあわせたことはすみません。あの……数年経ったからといって昔嫌だったことを許せるなんて思いませんが……せっかく久々に会いましたし、お互い思ってることを言ってみたらと思ってます。どうですか?」


 ミヅキの言葉でお互いがお互いに傷つけられたと思っていると理解した俺は二人に素直に思っていることを言うように促したが、テッドとロイド、2人は何も言わない。しょうがなくターゲットをテッドに絞って言った。


「この村を救ったのは聖女様とそこにいる二人ですよ。そもそもこの村がこうなってしまったのは理由があるでしょう?」

 

 俺の言葉にテッドは「それは……」と口ごもる。

 

「わかりました。じゃあ、あなたが言わないこの村の存続の危機に陥った理由と同じく、女装したロイドにも言わなかった理由があるとは考えられませんか?」

 

 テッドは下唇を嚙みながら苦い顔をして黙る。

 しばらくしてテッドは口を開いた。


「理由があるのか、ロイド?」という言葉に、ロイドは「自分で考えろよ」と突き放す。


「なんだと? ほぼ同じくらいに生まれて、母に名付けられた幼馴染だと思ってたのは俺だけか?」


 俺はその話をきいて、やっとピンときた。

 ”テッド”に”ロイド”、2人ともの名前が3文字で、さらに最後の文字が”ド”で終わるのはロイドの母に名付けられたからなのかもしれない。

 

「随分、前の話をされても。もうお前の知ってる俺ではない」とテッドの言葉に対してロイドは冷たく言った。


「……お兄ちゃん……もう秘密にしなくていいんじゃないの? ……私が言うよ」


 リリィがそこに口を挟んだ。ロイドはリリィに「どうぞ、ご勝手に」と手を開いて示したからリリィは続けた。


「お兄ちゃんが女装してたのは私に女の子の友達を作ろうとしてくれたからよ。お兄ちゃんの趣味ではないわ」


 テッドは目を見開いて、リリィとロイドを交互に見た。

 ロイドが妹のために女装していただけ、だと知り、テッドは困惑したようだ。

 それでもテッドはロイドに強い口調でこう言った。


「おい、ロイド、そうであるなら、女装する前に言えよ」

 

 反対に冷静なロイドは「じゃあ、お前もこの村がこうなった理由言えば? 言えない理由があるんだろう」


 テッドは顔を下げた。


 コレ、何? まだ引っ張るの?

 こんな状況になってもまだ言えない理由ってなんだよ。

 

 2人の空気にミヅキは俺の袖をずっと握ってるし、あの、ここも聖女様の能力で心読んでもらってもいいんだけど……。

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