第30話 苦い思い出に触りたくない気持ちより、少しでも近づきたい気持ちのほうが大きい

 俺はロイドの所に行こうとテッドを誘う。


「それはちょっと……」


 テッドは俺の誘いに対して躊躇ちゅうちょした。


「さっき君がロイドの話題を出したんでしょう? だったらロイドに会って直接確かめてみたらどう?」

 

「……」


「あなたは闇の病みから治って命が助かったわけで……。ずっと今までロイドのことが気になって残っているでしょう? 一度死んだと思ったら何でもできるじゃないですか。気にしているなら会いに行けばいい。一緒に行きましょう」


 テッドは下を向いた。

 ミヅキがそこで小さく、ほんとに小さくコホンと咳払いをした。


「あの……」


 何か言いたそうだが、なかなかミヅキはその後の言葉が続かないようだった。

 テッドはというとさっきと同じくミヅキをチラチラと見ながら様子を伺っているようだった。


 なんなの?

 この反応?


 そのまま放置していたらテッドは恥ずかしそうにミヅキにむかって声を出した。


「あ、う、うん、今更ですが挨拶してもいいですか? 俺はテッドといいます。病気の時は本当に失礼しました。……えっとあのお名前を教えてもらってもいいですか?」


 えっ!?

 お前、それを今、聞くか?

 俺は驚いた。ミヅキも俺と同じくテッドの言葉にびっくりしたような声を上げた。


「えっ……」


 俺のほうを見た。あのさ、聞かれてるのはミヅキだよ。

 はぁ、ため息が出る。


「あの何で彼女の名前を聞いたんですか?」


「あ、いや、シュウさんを見習いたくて。話しかけるのに、まず名前を名乗っていらっしゃったので……。もう少し近づき……いや話したいと、いや俺は変な者じゃないんですよ……」


 明らかに挙動不審だけども。

 この反応はあれだ。

 俺が初めてミヅキに会った時の反応とよく似ている。照れてうまく話せない状況というやつだな。

 

 こう他人で振り返ると俺の態度、大分恥ずかしい。どうにも自分を見ているようでズキズキと頭が痛くなってるな。


 テッドはミヅキと仲良くなりたいわけだ。

 彼女は聖女の名に恥じないぐらいの美しさを持ってるからね。


「シュウ……」


 ミヅキは俺の洋服の裾をさらに引っ張って助けを求めているようだった。


「名前、教えてだって」


「……ミヅキ、です」


 テッドは鼻の下を伸ばしたような顔でデレデレとし始めた。


「ミヅキちゃんというんですね……聖女様はミヅキちゃんという名前……」


 復唱するほどの内容かな?

 ミヅキは俺の方を見ながら困惑した表情だ。


「それでミヅキも話したい事あるんでしょう?」


 俺はミヅキに促した。


「はぅ、えっ、えっと……」


 お!? 声を上げた?

 一番最初俺があった時は『死にたい』とか言って、一言も話させてくれなかったのになぁ。

 テッドにはちゃんと話そうとするんだと自分が促したにも関わらず、小さく感情が芽生えた。

 が、すぐにそれは消えた。

 

 それにしてもはぅって何だよ(笑)

 そう、この言葉と仕草で俺の中で芽生えた嫉妬心を消してしまうぐらいミヅキの少し困った顔も可愛いと思ってしまったのだ。

 

 そんな風にミヅキを見ていたら、ふっと俺と目があった。少し潤んだ瞳で上目遣いをするミヅキが俺を見てくる。ちょっとそんな顔されたらさぁ。

 

 助けを求めてるミヅキに俺はついしょうがないなと思いながら伝えた。


「大丈夫だよ。テッドは俺と君に危害を加えるつもりはないよ。何を話そうとしていたのか俺も興味ある、ミヅキの話」


 だから安心してという空気を送った。

 その様子にホッとしたのかミヅキはやっと口を開いてくれた。


「あの……”何で”の疑問の答え、そんなに悪くない、と思う。ロイドさんの所、行きませんか?」


 ミヅキも面と向かって言うのが恥ずかしかったのか下を向いて言う。

 

 一緒にロイドの家に行こうとテッドに誘おうとしてくれていたのか。ミヅキは俺をフォローをしようとしてくれたのか。

 

 正直、テッドが持っていて俺が知りたい真相しんそうと、テッドが知りたい話はロイドが持っている。二人の情報を合わせなければお互いのもやもやは解決しない。だからちょっと楽して一気に解消したいだけの為にロイドの家に一緒に行こうと俺は誘っただけだ。ロイドに対して根深い感情があるテッドにとってメリットは感じられなかっただろう。ミヅキはそんなテッドの本心が見えているのか、それを見越して言ってくれたかもしれない。

 しかし、当のテッドは考え込んだ様子で返事がなかった。

 それとこれとは別ってことか?


「……じゃあ、仕方ないですね……私はロイドさんの所にお礼を言いに行きますが……テッドさんと話すのはきっとこれが最後ですね……」


 シュンとした様子のミヅキにテッドは慌て始めた。


 「えっ、アイツにお礼? 村の外れだし、行くのに時間かかりそうなのにわざわざ行くんですか!?」


 コクンとミヅキは頷き、それにまたテッドが「ミヅキさん直々にわざわざ!? えっとロイドに会ったらミヅキさんはもう村出るんですか……じゃああ、あ、お、俺も一緒に」


 あっ、そう。

 えーとまだミヅキと一緒にいたいのかな?

 あれ、俺は?


「……シュウ、一緒に行こうね」


 ミヅキは俺の気持ちを読んだかのような言葉が来た。

 俺は心底、ホッとした。

 

「あぁ、うん。あ、えっと、テッドもね」


 なんとか三人でテッドの所へ向かうことになった。


 ミヅキはテッドをそんなに嫌がっていないみたいだし……、気持ち的に動揺しそうな道中だな。


 案外、2人が仲良くなってしまうとか……。これいつの間にかバディ交代とかならない?こんなくだらないことで杞憂していた俺は馬鹿だった。


 それよりもテッドとロイドの深い溝があることをすっかり忘れていたのだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る