難しいテーマのSF作品でした。

 私はアンドロイドやロボットに感情が芽生えるものとして、真っ先に浮かんだのが手塚治虫さんの火の鳥に出てくるロビタでした。他にも攻殻機動隊などの、近未来を想像させるアンドロイドという作品は数多くありますが、この物語のアンドロイド(人架)の設定はかなり違います。
 人架にメカメカしい部分がほとんどなく、ほぼ人間として人架が存在することです。
 感情があり、食事をし、トイレにも行き、血も流して怪我もします。
 唯一、機械らしい部分があるとすれば、記憶の書き換えができ、痛みを感じず、涙を流せない、というところでしょうか。

 一昔前のSF作品にあった、いつかロボットに仕事を奪われるかもしれないというロボットの概念は、高性能なロボットが人間の仕事を奪い、高性能なことをできない人間が仕事を得られずにあぶれていくというものでした。
 しかし、この作品では大きな違いがあり、この物語の人架は人間と同じ能力しかなく、人間と求人倍率を争って人間が仕事にあぶれるというものです。
 新しい着眼点の創意工夫だと思いました。

 この作品を読んで、宇宙戦艦ヤマトのガミラスのアンドロイドが出てきたときの真田さんの言葉が頭を過ぎりました。
 「機械に心はあるのか? 人と同様の意識が芽生えない、と証明することは来ない。私には、君(人間に対して))に心があるのかさえ分からない。人間らしくふるまっているだけなのかも……」
 というものです。

 人間らしくとは、何を示すのだろう?
 本当に愚かだったのは、どういう行為だったのだろうか?
 他にもいろいろと投げかけられたものがあり、最後に答えは示されず、読者に委ねられます。

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 個人的に以下のところが改善されれば、もっと物語に入り込めると思いました。
 ・「コラプスシャット」と呼ばれている文明崩壊についてですが、この文明崩壊で何が出来なくなったかを、最初にある程度分かるようにして欲しかったです。
  ⇒ 伏線回収のため、中盤で分かってくるというのは理解できるのですが、最初に読んだ時、人架を探し出すのに『何で、人架にGPSで探せるようなものが付けられてないんだろう?』と疑問に思ってしまいました。
    特に序盤の『過去』で人架の記憶の書き換えの話が出てきた時、テクノロジーが残ってるのに……と不思議に思ってしまいました。
 ・人架の『足の裏には製造コードなどが暗号化されたものが刻印として掘られている』という設定で混乱しました。
  ⇒ 何か、この設定だけいきなりアナログになっている感じがしました。
    作中内ではスコープにより人架を判別するぐらいのテクノロジーは残っているので、ここだけ文明が低く見えてしまいました。
 ・~XXXX…。XXXX?XXXX!XXXX。」の書き方が気になりました。
  ⇒ ~XXXX……。XXXX? XXXX! XXXX」というのが一般的で読み慣れているので、やや違和感がありました。

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 設定や気になったことなど、いろいろ書いてしまいましたが、独特のSF感で色んなことを考えさせられました。
 ひとりの人間が成長するのではなく、ひとりのアンドロイドが成長して、自分なりの考えを持っていくというのは凄い工夫だと思います。
 この設定のお陰で、心があって苦悩して、愛して、成長するという客観的な考え方が人間の中からではなく、外から見たような感覚がありました。
 ソルヴが言っていた、『最初は人架なのに、と思ってしまった』という正直な告白も何となく分かり、それよりも中身(心)で判断するというのが、尊く感じる良い作品でした。