Hermes
その店には
この仕事のために、生まれてすぐに二体に分けられ、片方—— 彼の方は、死神の館で育てられた。
彼の背に生えてくる翼を摘むためには、死神の鞭が不可欠だったからだ。
幼い頃から地下の一室で蝋燭の灯りのもと鞭を振るわれ続けるという過酷な育てられ方をしたせいで、彼は死神がきらいだ。蝋燭も地下室もきらいだ。もちろん、鞭も嫌いだ。自分が鞭を振うときは別だけれど。
もう片方——彼女の方には、人間の血が入っている。運命の糸を操るために道具箱として人の子の魂が、必要になるからだ。それで人の世に落とされ、人間として育った。
だから彼とは違って、ダンディな死神が好きだ。死神も彼女には優しく、いつも礼儀正しい。それがまた、彼の気に障ってならない。
彼女の膝の上で眠っていた猫が、ふと顔を上げる。
店の前に赤いランボルギーニが止まった。
死神がまた幼子の魂を持ってきたのだろう。
二人で一人の彼等の仕事は、不幸や不運で世を去った子供たちの魂を安息の地まで無事に送り届けることだった。
彼は忌々しげに舌打ちをした。幼子の魂を救うことが嫌なのではない。死神の顔を見るのが嫌なのだ。
それに反して、彼女は猫を抱いていそいそと出迎えに行く。死神はいつも彼女の好きなお菓子や花を持ってきてくれるのだ。今夜は、どんなお菓子をお土産に持ってきてくれたのだろう。
死神とヘルメス 水玉猫 @mizutamaneko
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