死神とヘルメス
水玉猫
Grim Reaper
月が出ていた。
都会の雑踏の中を一人の青年が歩いて行く。
彼は死神だった。
しかし、誰も彼が死神だとは気付いていない。無理もない。彼は黒いマントを着ていなかったし、三日月型の大鎌も手にしていない。ましてや、骸骨でもない。
強いて彼に死神らしいところがあるとしたら、背筋が凍り付くほどの美しさだろう。
雑居ビルのゴミ置き場から、思い詰めた顔の女が出てきた。女は何も目に入らぬようすで、死神の横を足早に通り過ぎて行く。
生ゴミに群がっていたネズミたちは死神に気付くと、領主を迎える村人のように平伏した。一番の年嵩らしいネズミがちょろちょろと進み出て、死神をそのゴミ袋まで案内した。
隠すように置いてある袋の中には新聞紙とタオルに包まれた嬰児が入っていた。嬰児は今まさに息絶えようとしている。
死神は嬰児の胸にその手を当てた。
彼のしなやかな指が小さな蝶を捕まえる。
蝶は、
死神は彼の育てた
ネズミたちは頭を下げ死神を見送りながら、幼子の魂が無事に安息の地に向かうことができるように祈った。それから、全て忘れて、今この瞬間を生きるためにまたゴミ袋を漁り始めた。
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