Raven

@N_River

第1話

古き倉庫の深奥には、影が狂舞する。

木の蔭に漂う埃の中、蜘蛛の巣が懸かりし。

光のかすみ、暗闇に溶け込みて、秘密と恐怖を囁く。


濃い空気に纏わり付く、朽ちた木材と紙の腐臭。

風の吹き抜ける音、森羅の囁きが遠くに響く。

古き窓から漏れた月明かりも、闇に呑まれ、全てが黒く踊り出す。


足音が響き、囁きが響く、倒れゆく音。

倉庫の奥深くで起こる何か、聞こえてくる。

それは恐怖の交響曲、不気味な歌が奏でられる。


古き倉庫の深奥に漂う、「渡鴉」の不思議な詩が。




 古い倉庫の奥深く、暗闇が壁を覆い尽くしていた。この秘密の場所は、アントニオ・マルチェッロが暗躍する闇の取引の舞台だった。


 小心者の彼は、権力と富に囚われ、自己保身のために裏社会で闇取引を行っていた。

テーブルの上には禁断の品々が薄汚れた布に包まれて並び、銀色の箱が眩く輝いている。


 取引相手と向き合うアントニオの目つきは、虚ろで恐ろしげだった。彼は周囲の闇に埋もれ、身勝手な欲望を追い求めていた。


 壁の隅には裏社会の人間たちが集まっていた。彼らはアントニオの影に従い、利益を追い求める魂を抱えていた。


 アントニオは闇の契約を済ませ、ひとりになった瞬間、影がゆっくりと倉庫の隅から立ち昇る。その闇は静寂を纏い、秘密を宿していた。

 不気味な影が伸び、部屋を覆い尽くす


 アントニオは気づく、彼自身が闇に飲み込まれていくことを。

 不安と恐怖が心を包み込む。


 静寂が漂い、倉庫の闇が彼を呼び寄せる。

 そのとき、ほんのかすかな音が響く。足音でも風のささやきでもない、まるで闇自体が息をするかのような音だ。


 そして、一筋の影が漆黒のカーテンとしてゆっくりと舞い降りる。

 それは闇の舞踏者の登場だった。

 それはピエロメイクを施し、漆黒の衣服に身を包み込む。

 その白塗りの顔は哀愁を帯び、血塗られた涙のような唇は嘆きを讃える。


 女の姿勢は高潔で、眼差しは深淵のような冷たさを湛えていた。


 アントニオは小さく声を震わせる。

「お、お前は…闇の使者か?」


 女はゆっくりと歩み寄り、彼女の言葉は風に乗って響く。

「アントニオよ、お前の欲望がこの街を闇にチョコレートで染めたようだな。私はその甘さに立ち向かう者だ。」


 アントニオの顔には驚愕が広がり、彼の自信が揺らぎ始める。女の存在は、彼の優位さに対する挑戦となっていた。

 アントニオが女に立ち向かおうとするが、彼の手は震え、足元は揺らめく。彼の悪事が彼自身に襲い掛かり始めたのだ。


 アントニオの小物ぶりが、闇の前にはまるで影となって溶けてしまっていくのが見えた。


 女の名は「レイブン(渡鴉)」漆黒の影は復讐の炎。


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