第7話

 マルコの逃走車は街の闇を縫いながら疾走する。駆け抜ける夜の風が車窓から舞い込む。マルコの心は不安と焦りで揺れ動いている。

「くそっ!逃げるしかねえんだろうが!この野郎め!」


 手下たちは車内で揺れる恐怖とマルコの怒号に震えながらも、自身の怒りをぶつける。「おい、マルコ!お前こそ何やってんだよ!こんなところで逃げ回ってるくせに!」

 マルコは手下の非難に反発し、怒鳴り返す。

 「黙れ!お前たちなんかに言われる筋合いはねえんだよ!」


 「あんたこそ、自分が作り上げたこの地位を守れねえくせに偉そうに!」

 車内はマルコと手下たちの激しい罵り合いの声で満ちていく。しかし、その議論は突然の事故によって打ち切られる。

 突然、バイクが車に追突し、車は横転して衝撃と共に静寂が訪れる。 


 横転した車体の窓から這い出たマルコは、地面に倒れ込みながら息を切らせていた。レイヴンは黒い衣装に身を包み、悪夢のような静寂の中で立ち尽くしている。

 「まさか、こんな結末を迎えるとはな。いくつもの罪を犯した男よ、マルコ。」


 マルコは恫喝気味に声を荒げる。


 「くそっ、なんだお前は!助けてくれ!命乞いをしてやるからな!」


 レイヴンは狂気のまなざしでマルコを見つめながら、静かに語りかける。


 「覚えているか、お前がこの世の全てを奪ったことを。ハロウィンの夜、刑事夫婦の家、広いリビング、並べられた晩餐、ジャック・オ・ランタン、グミワーム、カボチャパイ…カボチャパイ…カボチャパイ…」


 とりとめのない断片的なレイヴンの言葉を受け、マルコは語りだす。


 「刑事夫婦、そんな日もあったな!家に乗り込んで、たらふく喰らわせやった、娘ともどもな。覚えてるぜ!」


 「でもよ、この街でまともぶろうとしてるやつの方がおかしいのさ!」


 レイヴンは静かに頷きながら続ける。

 「お前の言葉は空虚だ。でも、私は娘の声を聞くたびに、お前が私たちから奪ったものを思い出す。この悲しみと怒りを癒すために、私はここにいるのだ。」


 レイヴンは黙然としたまま、冷徹なまなざしでマルコを見つめ続ける。彼女の瞳には闇の中に沈む記憶が映し出されている。


 それから、生を渇望するマルコの頭に弾丸を何度も貫通させた。

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