第033話 光 槍(グングニル)

 あの人の放った光のやり虚空こくうを切り裂き、炎竜えんりゅう身体からだを貫いて消えました。

 中央管理室コントロールルームでは、何が起こったのかわからないといった感じの人たちが、愕然がくぜんとした様子で立ちすくんでいます。無理もないことです。私だって、を見るのは久しぶりなのですから。

「……ラ、光の槍ライトスピア⁉」

 森人族エルフの若い娘が、絞りだすように小さな声をあげました。たしか、セラフィーナ・ラトゥーリさんというお名前だったかしら。

 森人族エルフには、光の槍ライトスピアが伝わっているのですね。ですが、それとは少し違います。

「いや、違う。あれが――」

 ヴィオレも、少しあせっているようです。

「あれこそが、真実ほんとう主神の槍グングニル光の民パルヴァドールたちの造った主神の槍グングニルは……あれの複製レプリカにすぎない」

「ど、どういうことですか、ヴィオレ様? なぜ、それをレーン様が?」

「ごめんね、エリザベートじょう。今は答えられない。私の頭も少し混乱していてね」

 やがてヴィオレは、我にかえったかように問いかけます。

「モニカ嬢、炎竜えんりゅうの状況は?」

「すでに生命反応はありません」

 そこに、少しかしましい声が届きました。

『――ど、ど、ど、どうなっちゃってるんですかぁ⁉ 炎竜えんりゅう身体からだ、胸のところにぽっかり穴がいちゃってますよぉ⁉』

 お茶目ちゃめ森人族エルフさんの声ですね。なんとなく可愛らしいです。

 ヴィオレが、モニカから無線機インカムを受け取ります。

「エレオノーラ嬢、ミランダ嬢の容態は?」

『意識がありません。メイドちゃんの一人が、全速力でそっちに運んでいますけど、ちょっと心配です』

炎竜えんりゅうは、持って帰ってこられるかい?」

『ええぇっ、持って帰るんですかぁ⁉ ちょっとコワくて気持ち悪いですぅ』

「頼むよ、エレオノーラ嬢。少し調べてみたいことがあるんだ」

 ヴィオレが懇願こんがんしています。珍しいこともあるものですね。

『わ、わかりました。他のメイドちゃんたちに、重力波を使って運んでもらいます。私は……ごめんなさい、あとからとぼとぼ帰ります』

「了解した」

 ヴィオレはモニカに無線機インカムを渡し、ややあって天を仰ぎます。そうして、誰にも聞こえないようなかすかな声でつぶやきました。

「……が答なのかい、マーリア?」



 はい。それが答なのですよ、ヴィオレ。

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千億の星、ひと粒の砂~ラースガルドの気ままな宇宙放浪譚 桐苳れい @KiritsuRei2022

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