毎日小説No.48 出来すぎ

五月雨前線

1話完結

 俺の名前は猪田いのだ茂夫しげお。都内の私立大学に通う大学2年生だ。


 突然だが、俺は生まれながらに異能を持っている。そして俺はその異能を上手に使いこなすことで、順風満帆な人生を歩んでいるのだ。


 自身の異能に対して俺がつけた名前は『出来すぎ』。ダサい名前だな、と思うかもしれないが、これ以外に命名のしようがないのだ。何故なら俺の異能は、能動的に『出来すぎ』な結果をもたらすことが出来るのだから。


 もう少し細かく説明しよう。男なら誰しも、可愛くてスタイルの良い女子と付き合いたいという願望を一度は持つはずだ。殆どの男はその理想を諦めるが、俺は違う。異能『出来すぎ』を発動することで『出来すぎ』な結果を生み出すことで、実際に可愛くてスタイルの良い女子と付き合うことが可能になるのだ。


 そんな能力ずるい、俺にもその能力よこせ、という野次が聞こえてきそうだが、説明はまだ終わっていない。能動的に出来すぎな能力を受ける代わりに、後で反動を受ける。これがこの能力の最大の特徴であり、最も憂慮すべき点なのだ。


 前述のように、俺は能力を発動することで出来すぎな結果を生み出せる。実際今俺には、能力を発動したことで手に入れた可愛くてスタイルの良い彼女がいる。1年前、その彼女を手にいれる代わりに、俺の両腕両足には深い切り傷が走り、しかもそれが数ヶ月続いた。これこそが能力を発動した『反動』である。


 え? 両腕両足に数ヶ月間深い切り傷が走ることと、彼女が出来ることでは全然釣り合ってない? 反動が軽すぎる? ははは、面白いことを言う。


 そんなわけで俺は能力を使いこなし、楽しい日々を過ごしているわけだが、最近一つ気がかりな点がある。


 反動だ。


 可愛くてスタイルの良い彼女ができてから1年が経ち、最近ますます彼女との仲が深まってきた。彼女と過ごしている時間が何よりも楽しい。さらに、所属しているサークルの活動も楽しいし、塾講師のバイトも楽しい。全てが楽しいこと尽くしだったのだ。


 毎日が楽しくてあっという間に時間が過ぎていき、いつの間にか俺の頭から『反動』という単語が抜け落ちていた。今楽しい日々を送れるのは、能力を常時発動させているお陰だ。早く反動を受けなければ……いやでも、どうせ痛いよな……。痛みに悶えて明日のコンパに行けなくなったら嫌だし、先送りにするか……・


 そんなこんなで反動を受けることから逃げ続けること1年。俺はようやく事の重大さに気付いた。俺の体の中で何かが渦巻いている。頭のどこかから『早く反動を受けろ』という声が聞こえてくる。


 1年間溜めに溜めた反動だ、痛くないわけがない。しかし、今ここで反動を受けておかないと、反動がどんどん蓄積して後でもっと辛くなる。


 そう考えた俺は、1年ぶりに反動を受けることにした。一度に一気に反動を受けると死にかねないから、ゆっくり、ゆっくり反動を受けよう。ゆっくり、ゆっくり……。




***

 ここからは、猪田が反動を受ける瞬間の目撃者であり、地球人唯一の生き残りである早乙女さおとめ与一よいちさんの証言を紹介する。


「駅前で、『ゆっくり、ゆっくり』とうわごとのように呟いている若い男がおったんじゃよ。何をしてるのかのう、と思いながら観察してたら、突然男の体が爆発し、男の体から飛び出した衝撃波が一瞬で大地を呑み込んでしまったのじゃ。ワシの父親は昔原爆が落ちた時の体験談を話してくれたが、いやはや今回は原爆以上の惨状じゃったよ。


 一瞬でありとあらゆるものが吹き飛び、粉々になってしまったのじゃ。そしてものの数十秒程で地球は粉々に砕け散ってしまった。後の調べで分かったことらしいがその猪田という男、知らず知らずの内に闇の力に手を出していたようじゃな。反動を受ける、とか細かい理屈は知らんが、とにかく無知は怖いのう……


 え、ワシが何で生き残ったか? それが分からんのじゃよ。男が爆発した、と思ったら体が浮き上がり、ワシは宇宙空間まで飛ばされていたんじゃ。あ、もう死ぬ、と思った瞬間、この宇宙船が通りかかってワシを助けてくれたんじゃよ。宇宙船は別の星に住む宇宙人が操作していて、ワシがその星に連れて行かれると何故か大歓迎を受けてしまったんじゃ〜。いやあ、若い頃に苦労ばかりして辛かったことの反動が、今になって返ってきたのかもしれんのう! がっはっは!」



                             完



 

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