第29話 神子の児戯


 このまま闇に溺れ贅沢な魔素環境で魔素/魔法の本質にせまりたい。


 けれどそれでは、僕の霊薬体質ギフトにその身をあずけるきゅうする小鳥たちは、女子3人とあとひとりは、皆が瘴気死しかねない状況に変わりは無い。 


 劫火の魔女さまの墓所ぼしょではないといいきれない ここ。 そのここにエウドラらの死の念を供するなど、絶対にいやだ。 とてもじゃないが、受け入れられない。


 パイオがいくらごねようと、黒体オーブを採取している段でない。 ここからの緊急の脱出が最優先だ。


 幸か呪いか、僕は時空遡航のギフトをあの逆生の魔族にすり込まれた。


 けれど投射ロングショトされる前の時空にさか戻る選択は、何度もいうがエネルギー収支の大問題があるから、最後の手段。


 だからそれ以外の解決に無理をとおしてでもたどり着きたい。



 異世界人の僕に作用する魔法は思いもよらないとんでも結果になる場合があるらしいことがわかっている。


 僕が投射ロングショットの微妙な一瞬に、下船を願ったから、皆も僕との関係性の巻き込みで、僕ともども中途で下船、ここにおきざりになった・・・そのような僕の憶測は、真偽にかかわらず有効であると仮定する。


 その仮定において、投射の所要時間がロスレスでなくてあくまでもそれに近い移動である事実から、途中をパススルーする形にしても、目的地までブリッジを架ける形にするにしても、投射物が通過する過程プロセスが実在することがわかる。


 今ある苦境は、その過程で僕ら置き去りの割り込み処理が完了したということだろう。


 それは見方を変えれば、ここ割り込み結果の現在地が、出発地から目的地まで連続するショートカットの途上であるということを意味する。 


 そして僕の時空遡航ギフトは、出発地までさかのぼることができる、こことの連続性を保証するものであるから、この世の普遍的の原理の一つ対称性が適用できるなら、僕のギフトは、たとえ見かけ上にとどまろうと、ここと目的地の連続性にも有効たりうる。


 ならばそのたりうるをたるにつなぐことを考えよう。


 目的地のアドレスがわかれば、ここでのみ機能する限定的フェイクの仮想ボートでもその目的地設定が有効の可能性がある。


 強引なこじつけである。 けれど、そのようなフェイクボートが可能なら、ショートカットの終点と僕らを関連付けて、フェイクボートでそこに移動できる可能性がある。


 フェイクボートに、遠投ロングショット魔法魔術複合装置のるかそるかAを出発側に、受け入れ側にあるとおぼしき魔法魔術複合装置Bを到着側にするコードをかいて、ショートカットを走らせる。


 ここが魔女様の思念が能動するほどの情報的に可塑な時空間なら、それと僕の特異性があれば、僕らは到着側に排出されることもありうる・・・それを期待しよう。


 出発側の装置Aの設定については僕の時空遡航の応用でなんとかなりそうだが、到着側の装置Bについてはその正しい情報やアドレスを知る必要がある。


 けれど、アカデミア・コンプレックスの当該装置Bのコードやアドレスは不明。 投射装置オペレーターでない乗客レベルでは、サテラにもリウリイにも問うても知るはずもなかった。 だからそこは不明としておくしかない。


 面倒でも僕らを残してここを通過したボートの航跡を、僕の時空遡航ログでおっていって、ここまでの位置情報の変化から、目的側の装置Bのアドレスのおおよその範囲を想定して、設定をくり返す。 極まりなく労力投入の運まかせだが、そのうち、確率的にどこかの到着値範囲にあたるだろう。


 あとはそこが装置Bかどうか、文字通り、のるかそるかの勝負。 はずれてもパウリ先生の排他律を期待出来るなら、量子密度の高い固体中や水中ということはないだろうが、中空は回避しがたい。 


 けれどその場合、中途半端な高さでなければ、僕が有視界で認知して、おりる前にフェイクボートの到着側アドレスを微修正をくり返せばよい。


 だいたいまあ、そんなところかな。 ここが特殊環境、情報的に可塑な時空間なら、僕のギフトの相性も問題なく、仮想と実在の垣根は低い。 実現性に芽がある。


 投射開始時点のボートを丸コピーするようにフェイクボートを定義。 その定義で、魔素もしくは黒体オーブの前駆体を操作して、全員乗り込めるものを用意して、到着地アドレスを試行錯誤・・・特殊環境のここでのみ、僕だけがギフトでなせるスキルだ。


 泥縄的で美しくないけど、命にかかわる緊急事態なので、四の五の言ってられない。 スマートにほどとおい、効率無視の力技でも、助かれば上等。 


 途方にくれてばかりでいては、やがて自我が闇に浸蝕され、拡散して、その先は劫火の魔女さまのにえだろう。


 だから、トライして、トライして、トライして、トライを何度も何度も重ねた、不格好でも機能するフェイクボートを求めて。 僕のギフトでここでしか通用しない無様ぶざまを重ねる。


 不器用は不器用なりに、格好悪かろうが山なす努力に努力を重ね・・・そうしてこれまでしのいできたではないか。


 そして努力が通用しないとまだ見極めてはいない、まだあきらめていない。




 僕のどたばたを胡乱うろんな目で見てがいたパイオが、いつの間にやらフェイクボートの船上にのせられているのに気がついて嬌声きょうせいをあげた。


 「わあぁ、まじ、すご、これって黒体オーブの船体だぁ、ラナイ、魔潟の出ってきいてたけど、まじ、すご、すごすぎるよ、超お宝ぶねだぁ」


 「ふふん、妾のラナイならではのまさに児戯じぎ。 冗談超越、ラナイは神子」とエウドラ。


 そうか、神子か・・・これはギフトだけでなせるレベルじゃないって認識か。 


 我にかえってみれば、よくこんな妄想を現実のものにできたものだ。 どこかで神の眷属みたいな存在にじかに触れられたような気がする・・・そんな自覚があらためて湧いてきた。


 劫火の魔女さまも僕のちまちましたへたっぷりをみかねたのだろうか、ボート構築を圧倒的に助けてくれた。 それは僕に限って、そんな気がするどころではない事実だった。


”魔女さま、本当にありがとうございました”


 ぞわり、闇が僕の頬を撫でた・・・

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