第28話 魔素と量子 祓える闇



 僕はオーブについてあらためてたずねてみることにした。

 教えて、サテラ大先生。


 「うーん、オーブが割れると重さが減るかどうかって初めてきく疑問だわ。 割れは魔素爆発や魔法の暴走と関連した大災害でみられることがあるので、どちらが先かどちらが結果か、わからないけどね。 飛び散り行方しらずの小片がでてもおかしくないわ。 割れた結果は、オーブが魔素であることの証拠の一つだけどね。 まあ普通に魔素塊として魔法を行使していけばオーブは持ち色をうしなって透明になっていくのだけどね」


 「オーブなげたりオーブとオーブをぶっつけてわっちゃうとどうなるの」


 「あのね、オーブはものすごく硬いの。 まず割れない、でも割れると魔素爆発で、その子細しさいをそばで観察なぞ、命がいくらあってもごめんだわ。 オーブが割れる時はね、近隣の魔法もかってにスイッチが入って暴走し、魔法を使うものは身を焼かれるわ。 だから、そういうのは禁忌で、どこ国でも重罪、自殺でも試す人はいないの。 ましてやオーブ同士を衝突させて割るなんてとても難しいと思うけど、万が一割れでもしたら、魔力爆心からどれほどの範囲内の魔法使いが火柱になるか想像もつかない。 ラナイ、そう言う非情に危険な冗談は口にするだけでも制裁対象よ。 めっ、ラナイ、めっ」


 なるほど、オーブが割れると魔素を結合していたエネルギーも解放されて魔力に変換されるということか。 魔素の結合は、電子の共有結合やイオン結合のようなものだろうか。 いずれであれサテラが警告してくれたことは、量子的なものとは別のレベルの現象で、魔素の質量の減少はないか、知られてないかだ。


 けれど、魔素に直に働きかける僕の能力、ギフト?で、オーブの実験はとても大きな危険を伴うらしいことが、わかった。


 「禁じられた遊びのことを口にする子に貸せるオーブない」とエウドラにだめおしされた。


 「でも、パイオに貸してくれるのはいいよね」


 「いやっ、オのつく姉は返さない常習犯」



 でもね、僕らの下は、あるのだ、もしかして黒体オーブ。 もしかしなくてもどうやら黒体オーブと同じに思えるものが。


 僕が試したいのは、魔素を硬く凝集、結合させているエネルギーの解放とは違う。 


 目指すことは僕のギフトで、魔素の擬似量子解釈を部分なりとも成立させることだ。


 魔法量子解釈だ。 魔素の量子への魔導だ。 魔素と量子の距離ディスタンスに橋をかけたい。



 ところで、はいよる闇は、全力の一撃で僕を仕留めそこなった名残なごり・・・と思っていいのかな。 フェイクかもしれないから、気は抜けないけど、うっとうしさが少し弱まってきていた。


 これサテラが言った魔女の残り余韻よいんかな。 なら、あの雷鳴と雷電、五夜の騎行の返歌みたいなかえしを、念じてみたら、どうなるかな。


 もしもし、ええと、短いけれどこれでいかがでしょう。

 劫火ごうか、五夜万里を駆けれど


 土、燃ゆるところ、まれなり


 雨風、到来せば、また必ずや


 生や、芽吹く


 まさかの応答、念の返しがきた・・・

” ・・・よきかな・・・ならば劫火苦は合格に・・・ ”


  えっ、好評価。 僕の早とちりは間違っててじつはそうだったのか、でも誤解をなおせてしずまっていただけた感じ・・・。


 釈然としないところは残るけど、嘘っぽいけど残留思念のようなもの、自我のある情報が何らかの魔素がらみの仕組みかなんかでこの闇の空間に封じられてたのかな、とかってに思って、とりあえずの納得をしてみる。 


 さすが異世界、ひょっとしてここはある意味、思念かAIか精霊にちかいものが、長い時をかけ涵養かんようされ、実在をはぐくまれる場所なのかもしれない。 まあ僕的にはサテラの残り香説に同感で、それなる存在は劫火の魔女さま、一択ですけどね。






 「ラナイ、手にしてるのはなに、わらわには小さい黒体オーブに見えるけど」


 「わってないから、なんとなく、したのやみをつめでちょびっとえぐったら、これがとれた」


 「えっ」とサテラ。


 「なにそれ、びっくりだよ」とパイオ。


 「手癖てくせがわるいガキっ子す」とリウリイ。


 割れる危険がこわいので、ダメ元で下の黒体に指をおしあててなんとなくひっかいてみたら、そこだけえぐれて採れた。 採れたら、かどれて丸くなった、これみたまんま、黒体オーブだよね、これ。 だったらもう少し大きければ国宝級のお宝?


 「だいじょうぶ、わってないから」


 「確かに起爆してないし、これって黒体オーブが採れるものなの・・・ええと、ええと、ええと・・・残念私はできない」とサテラ。


 他の3人もできない残念ループだった。 


 それがオーブの状態でない魔素を認知できないことが関係しているなら、下にあるのは硬い黒体オーブそのものではなくて、その前駆体以前に相当するものだろうか。 それを僕が採った瞬間に黒体オーブとして、皆にもわかる相に変化・・・僕の認知ギフトからくるスキルとしか思えない。


 「ラナイ、黒体オーブもっと大きく採れる?」とエウドラ。


 「たぶん、げんかいわからない?みたいな」


 本当に指で物理的に採ったのかと、言われるとそうでもないような。 手で採ったと認識できたぶんだけ、認知できた・・・の方がより正しいような。 念じた分だけとれる? 指先の感触からして、僕がそう認知できたから、黒体オーブとして採れた・・・。


 「ラナイ、それわたし、パイオお姉ちゃんにどんどんみつぐといいよう。 いっぱい採ってくれたら、お姉ちゃんがパフパフしてあげるよう」




 えー、この12歳の早熟娘、男嫌いじゃなかったのか、それとも僕が男未満だからいいのか。


 エウドラがパイオに物言いし、それにパイオが言い返し、そしてサテラがエウドラに加勢して・・・それが数巡すうじゅん、リウリイが切れて一喝いっかつ


 「うるさいっす、かしましいっす、痴話げんか、警戒のじゃまっす」


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