眠れぬ夜のテレパシー

西しまこ

第1話

 眠れない。

 いや、正確には眠りたいけど、眠れない。


 わたしは眠るのを諦めて、キッチンに行った。

 丁寧に紅茶を淹れて、飲む。カフェインとか気にせず、アールグレイで。

 明日も仕事だ。だから、ほんとうは早く寝なくちゃいけない。でも、なぜか脳が興奮していて、まったく眠れなくなってしまったのだ。


 ときどき、こういう夜がある。

 そういうときは無理して眠ろうとせず、遊んでしまうに限る。明日はちょっと辛いけど、まあなんとかなるし、それに明日はぜったいに眠れるから大丈夫。

 わたしは紅茶を片手にスマホを見て、それからテレビをつけて、サブスクで映画を観ることにした。なんでもいい。いや、ぼーっと観られるやつがいい。


 ぼーっと画面を見ていたら、ふいにスマホが振動した。LINEだ。

〔もしかして、起きてる?〕

 陸からだ。

〔起きてるよ。なんで分かったの?〕

〔なんとなく。いま、何しているの?〕

〔ぼーっと映画を観ている〕

〔おれも、ぼーっと映画観てる。ねえ、今度の週末、空いてる?〕

〔特に用事はないよ。シーツ洗おうかなって思っていたくらい〕

 わたしはどきどきしながら、そう返信をした。

〔じゃあさ、どこか行かない? 映画とか〕

〔映画館、久しぶり! 行きたい!〕


 わたしは嬉しさでいっぱいになりながら「送信」を押す。すぐに返事が来る。はやる気持ちで見る。待ち合わせ場所と時間と、観たい映画を相談する。嬉しい。嬉しい!

〔なんか、眠くなってきた〕

〔わたしも〕

〔おやすみ。土曜日、楽しみ〕

〔おやすみ。わたしも楽しみ〕

 わたしは、温かいスープを飲んだみたいにこころがぽかぽかして、そして同時に土曜日のことを考えて、心臓が早鐘を打っていた。


 観ていたはずの映画はいつの間にか終わっていた。

 眠れぬ夜に感謝した。

 もし、眠っていたら、きっと土曜日の約束はなかった。朝、LINEを見て返信して。――いまみたいな、会話は出来なかった。

 テレパシーみたいに、陸にはわたしが起きていることが分かった。そうしてLINEをくれた。LINEで会話をして、土曜日映画をいっしょに観る約束をした。


 眠れぬ夜、見えない糸で繋がって、恋が始まりかけているあのひとと、こころが繫がったような気がする。

 なんて素敵な、眠れぬ夜の出来事なのだろう。




   了



一話完結です。

星で評価していただけると嬉しいです。


☆これまでのショートショート☆

◎ショートショート(1)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

◎ショートショート(2)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330655210643549

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眠れぬ夜のテレパシー 西しまこ @nishi-shima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説