伝われ鼓動

羽間慧

伝われ鼓動

今も勘合貿易は続いてる僕の赤札君の赤い字


吊革に乗るのは第一関節のみシャツを摘んで腕を貸したい


「好き」とだけ伝えたいのに言えなくて二音の重み肩にずしりと


あと一周頑張れと君が叫ぶから僕の鼓動は余計早まる


英文も元素記号も国語さえ苦手な君に伝われ鼓動


前の人の日誌を覗くふりをして一ヶ月ぶりの返事を見る


運命の出会いのためにグロス塗る鏡を立てる台座は教科書


あがなひし紅のつけたる君の顔あふるる光に我はたじろぐ


かわいくなんかないよ肌荒れしてんじゃん校則守れよ自分のために


体育終わりジャージ貸してと頼まれて制汗剤を秒で振りまく


ペンシルの充電尽きて眠る君ほらよと言って予備を差し出す


ここは動物園と笑う奴その目に客のわたしはいない


死せる語と言いそ一度書を繰れば錆びぬ刃に君はおのの


泣き返る騒ぎを止めんささがにを窓からはふるアルタイルまで


鼻折れた紙飛行機を眠らせて主の机へそっと押し込む


教室の隅に隠したリスのえさ投げつけ合った昼の残骸


百本の薔薇の代わりにほうき抱く君にかしずく神聖な供犠


ローファーを履く気になれず一時間フレンド解除された翌朝


「責任感のある子」「優等生」の言葉より委員バッジで生かされている


今日の分のノートを見せに来た君をむぎゅっと抱きしめて泣く

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伝われ鼓動 羽間慧 @hazamakei

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