第7話 東国と西国
「なんで人間はこうも争いが好きなのか……、西国の備えは?」
「御門様の指導の元、境に防御陣地を可能な限り隠匿しながら構築しています」
それはそうだろう、西国と東国はそもそも石高、つまり経済力で勝てない、ただでさえ豊作時の東北が算出する石高にすら西国総出でだす石高で追いつくのがやっとといった所、火山なり気候なり他の生産物との兼ね合い等と、東側よりは米の生産に向かない土地である以上は人口にも制約がかかり、導入できる武具も然りである
という事は防衛しか選択肢が無い
「近江国が西国で一番石高が高いのに、東国との最前線というのは中々」
「そこは御門も頭を抱えていました」
西国の穀倉地帯が最前線にあるという事は長期戦では大いに不利であるという事になる、戦争が始まればまず仕掛けた段階で戦争準備が完了していると推定される東側の勢いは強く、押し込まれる事は考えておかなければならない
近江を一時的に手放す事を考えると中々辛い決断だろう
「とはいえ、統治さえ出来てれば経済的には重要ではないという地理的理由もあって西国が許された訳であるし、問題は何故今更西を統一しようという気になったかという事情なんだけど」
そう、重要なのは何故攻めるのか、である
西国と東国で分かれた理由は、その方が結局都合が良かったという事情にある
ある東西を分けた大合戦で双方が大きく消耗し、当時の西側が負け始め、これで決着がつく といった処で
北境の怪異と原住民の同盟が結成し一部領土を強奪、住民を追い出すという事件があった、東側はそれの対処に兵を向かわせる必要があり、その好機の際に御門が調停に立ち合い西側を御門直下の統治と管理を行う形にして認めさせた
東側としても南部の気性の激しい地域の住民を内部に抱えるのも危険性が高く、北南同時に管理をするにも費用がかさむ事情も相まって、実質的には東国中央の管理を委託されている立場を取っていたという事で、当時は都合が良かったであろうに
「その件に関しては、治政が思った以上に安定するとやはり拡大したくなるという所なのかと思います、やはり交易が独占状態だったのが目立ってしまったようです」
「という事は北境の問題も着地したって事か、
面倒に巻き込まれないなら幸いでしかない、西国が終わるのなら逃げればよい
「諜緒は解散しましたよ」
「おぉ」
驚きの声が漏れた、一年寝てる間に変わりすぎだ
諜緒は所謂御門直属の諜報集団という事になる、東側や北境、西側の防諜や各地の情報収集を司る機関であり自分もそこにいた、ちなみに怪異故に逆に目立つのでバレないという浅はかな理由で命令されて自分もそこに参加しているだけなのだが、実際はバレてただろう、現地の人が面倒を嫌って相手にしなかっただけで……人は賢いので見える罠にはあえて近づかないものだ
「この一年の間に、八割以上の仲間からの連絡が途絶しました、精鋭の
八割と言うと前面に出てる人員全てか、後方や西国に近い人員は生存してはいるが組織としては崩壊したと言う事になる
ああいう諜報を主任務にした組織は再構成するのに十年は軽くかかると聞く
そもそも性格的に向いているか、忠誠心は、家族構成は、その他その他
そういった選別をしてから専用の訓練をするわけだから、さもありなん
「で、御門への報告は?」
「一応手紙で連絡をした上で拝謁するのが掟であります、二週間後にはなるかと」
「二週間か……」
あの童も心身を落ち着けるには丁度良い期間かもしれない
そう思いながら空を見上げる
目覚めてからドタバタではあったが、空の雲はゆったりとしていて一年前と変わらない、全く以て今の状況に合っていない空だ、空
「そういえば一年前の夜空にあった閃光、あれは何か掴んでる?」
「あー……えっと」
この反応は知っている、向いてないとはいえ一応諜報集団に属する人間なのだから隠してほしい
「これは御門様から直接話された方が良いかと、何処に怪異がいるかも分からないので」
まあ確かに、いくら見た目で周囲に人がいなくても、聞き耳を立てる方法はいくつかある、特に僕と同じような、怪異の存在を使った場合等はやり方がいくつかある
「あい分かった、ありがとう」
そそくさと、立ち上がって腿辺りを払う、取り急ぎ感謝の言葉を言おう、そして そろそろ話も終わりの頃なので立ち去るとしよう
「助かったよ!」
座り込みながら一瞬素直に受け取ろうとするお千代、すかさず
ガシッと、手を掴まれる、恐れている事から回避するために立ち去るつもりだったのだが阻止された
「さて、業務と敬語はおしまい、あんたちょっと愚痴に付き合いなさい」
お千代は特殊な所がある、組織内序列を非常に気高く重んじる、一応蝶緒の中では指揮優先権は僕の方が上なのだ、蝶緒が解散したといえ諜報集団に属している以上、位の差自体は存在している
その為仕事人の時は礼儀もあり口調も丁寧で人当たりが良い、東国のどの村に滞在してもその人辺りの良さで何とかしてしまう為諜報員としては優秀な特性といえる
しかしもう一方で私人である時との差が激しすぎるのである
正確に言えば一部の人に対してだけか、山鍛冶の爺と僕と、後は御門水軍の若いのや御門周りの女中 これらには基本乱暴な言葉遣いと酒豪さを振りまく、南部出身の本性なので驚く事は無いが、基本獣耳を触られまくって酒臭くて鬱陶しい、しかしこうなってから逃げると逃げた後の方が面倒極まる、つまり諦めるしかない。
――西国の中央の建物、そのまた中央でとても小さい黒い水晶が赤く点灯し、それを視認した
「神の声は本当だったらしいな」
「使いを出しますか」
「いや、先に行かせたあの子が礼儀正しくやってくれるわ、蝶が解散してからちょっと気落ちしてたから、良い復権になるでしょ」
全く以て迷惑な話だ、いよいよ以て東国の活動が活発になろうとしている今の時期に使い勝手のいい怪異にいきなり眠りこけられて、出鼻を挫かれたという表現では足りない、お陰で東国に配置していた者たちがほぼ犠牲になってしまった、金銭はいくらか何とでもなるが一人前の特殊技能を持った人員の補充はそう簡単ではないのだ
しかし神のお告げ、というか会話の中にあったコロモが眠ってた事に関して些細な動揺を見せていた事は気にはなる、何か大きな動きがあって、それに巻き込まれて眠った、という他に分かる事はないが、コロモ単体の過失を問う事も出来ないのが更に腹立たしい
「耳を触らせてもらう他無いわね、神と同じ耳を触る事を罰とする程度にしておこう」
「は、今なんと」
「何でも無いわ」
コロモ自体は悟った感じが腹立つ都合の良いパシリ程度のものだが、耳は妙に落ち着く、犬の耳も良いものだが、なんというかでかい獣耳は触り心地がダンチなのだ、なのでコロモが我の御前に来るときは基本縄で簀巻きにして面会する事になっている
表向きは怪異が御門に近づく事自体御法度である為、神の従僕であることを示すとかなんとか、適当な理由だが、本音は耳が触りたいだけである
「ま、それ以外にもちゃんとこき使うから、早く来なさい……。 レイカ」
冷花、我の秘書 とても忠誠心が高く言った事は何でもしてくれる可愛い部下
一応御門という立場である以上常に周囲に人がいるのは良くない
何故かといえば直接すり寄ってきて政治的に自派閥が優勢になるようにお計らいを強請る下賤な輩を寄せつけかねないからだ、人は基本既得権益を得る為には幾らでも汚くなれるものである、それを阻止するためにも一人の部下に指示を必ず仲介させる、御門本人が会うのは御門本人の希望がある場合のみ
少々手間ではあるが、公平性の為には多少の手間も致し方ない、元々あまり会話したい性格では無いから都合が良い
「は」
「水軍参謀をここに」
「かしこまりました」
冷花が部屋から出る
水軍、つまるところ西国の軍事組織の名前である、水軍という名前が付いているが陸戦が主任務である、というのも元々西側を管理する時に軍閥を発生させない為に各大名が持っていた水軍を吸収統合したのが始まりとなる、戦乱が終わるという時に水軍を抱えていては維持費が掛かりすぎてしまうという諸大名の弱みを突いて、各水軍を西国直属とした、そこにちゃっかり直轄地でもあぶれた浪人等を募り組織化、ある程度の自衛戦力を構築した後に各地大名に水軍負担分の税を敷いた
こうすると西国中央は各地を鎮圧する事が容易になるが他の地域は水軍が無い為反攻能力を大きく削がれる、簡単に言えば言う事を聞くしかなくなる
しかも西国が出来た当時は東側にボロボロにされた残党勢力が主であった為上記の流れは非常にとんとん拍子であった、私は神のお告げに従っただけだけれど
「ま、我も人身御供みたいなもんだけど」
端的に言えば我は弓が巧すぎるから神に選ばれただけなのだ、今となっては弓の才すら神に与えられていたのではとすら疑いたくはなる
そんなことを考えながら部屋の隅の飾られた弓を見た
「全て貴方の物語通りなのかしらね、神様」
ツギハギコロモ make狗ふぃるむ @makeinufilm
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