第6話 自宅の一時

ご飯を食べるのはとても大変だった、いつもより時間もかかって目の周りが少し腫れてしまった、美味しくて何かすっきりしたなぁ。なんて考えながら、コロモの後ろに付いていき、二階に上がって部屋に入った


「おぉ……」


玄関に入ってコロモから息が零れた

部屋はとても整理されているようにみえる


「……申し訳ない事をしたかな」


多分あの赤衣服を着ていたあの女の人の事を言っているのだろう

思いっきりみぞを突いて気絶させたのは今日の出来事なのだ


「コロモ様、一年たって今更でございます」

「じゃあまあいいか」


人の道から外れている……でも妖怪だから人の道を歩む必要はないのか

せこいな……


部屋の中は整理されていて間が二つある奥の一つは倉庫として使ってるのだろうか?

色んな箱や紙類等が積み上げられている、もう一部屋は畳と壁と小机以外殆ど何もない


「奥で横になって休むといいよ」


奥の方に手を差す

せこい癖にある程度の気を使える所がこの妖怪のよく分からない所だ

正直腹も満たされて疲労が限界だったのでありがたく横にならせてもらいます


「さて、と どれくらいで戻ってくるかな」

「あの方の状況から推察するに……」


ダンッダンッダンッ


と階段を強く叩く音がする、もう横になってる私は起き上がる気力も無いので目を閉じている事にする


ガラッ、玄関の引き戸を鋭く、しかし痛ませないような配慮を持った開け方


「おかえり」

「オァァ!」


奇声と同時にパンッ!コロモが言葉を発してから間髪入れずに頬を叩く音がした


「助かったよ、迷惑かけたね」

「あ、はい。いや、そうではないですよね、まず言う事ありますよね?」


「一年も空けてすまなかった?」

「コロモ様、お土産の事かと」

「そうじゃないですねぇ!そこじゃないですねぇ!」


騒がしいのとちょっと愉快なので微睡むに微睡めないのがもどかしい


「ごめんなさいじゃないですか?まず、代わりとして頑張ってた私に打撃かましてごめんなさいなんじゃァないですか?」


背を向けてたがどういう結末になるかきになったのでちょっと体の向きを変えて二人と一体の様子をみる事にした


コロモと八木がお互いをふと見て


「でも先に攻撃したのはお千代様かと」

「正当防衛だよなぁ」


「ぐぬ」


まぁ正しいのかもしれないが正しさで人は救えないのだ


「では何ですか、私がいきなり襲わなければ謝罪の言葉が聞けたと?」

「それはそう」


「……お千代様、一年空けていた事もやんごとなき事情がございました、その間ご苦労おかけしたのも事実かと思います」

「はい」

「その事情を聴かずして突如刃物を向けたのはお千代様でございます」

「……」


八木の説得をただただ聞く事しかできなくなってしまった、確かに本で読んだことがあるが抜刀は理由の如何によっても先に抜刀した方が悪いと書いてあった


「一年経って変わっていないのは安心すら覚えるけどね、君は優秀だけど血が上ると途端にダメになる癖は直した方が良い、南の人の特性というか血の習性なのかもしれないけど」


「諸々私の過失が大きい事は理解しましたよ、理解しましたが故郷を馬鹿にしたような言い草は許しません」

「馬鹿にはしてないさ、南の人達は正直僕と合わないし太刀筋も脅威だから近づきたくないってのは事実だけど」


南の人、筑紫島か伊予島って事だろうか?

「あ、そうそう 襲い掛かってきたときの間の詰め方は良かったと思うよ、冷静だったらもっと良かった」


「何ですか偉そうに、女の顔に山刀ぶん投げてきたくせに、当たったら色々御終いですよ」

「避けれない訳ないでしょ、……いやそんな話で茶を濁したいんじゃなかった」


「なんです、——」


お千代と呼ばれた人がコロモの耳元で話している

コロモが一瞬こっちを見る、多分私がいるけど話しても大丈夫か、と言ったようなことを言っているのだろう


「寝るにはちょっと騒がしいね、ちょっと外に出るので、ゆっくり寝てると良い」

「……はい」


私が一言返すと二人で玄関戸を静かに開け、出て行った、鳥の音が聞こえて何とも平和な音がする、いよいよ眠気が限界に達した――。



――外に少し出て宿場町の裏で流れている小川に着いた周囲には誰もいない、聞かなければならない事がたくさんある


「さて、本題だけど 何が起こってる?」

「はぁ……、色々ありすぎて何処から説明したものか……」


座りながら肘をついて溜息疲れがたまっているようだ


「じゃあ順番に聞こう、旅人や旅人用の施設が増えてた件」


道すがら、というか朝だというのに等間隔で旅人用の便所なり飯処なりが整備されすぎている事が気になった、一年前はもっと何も無く活気も無かった


「東国では今、あらゆる経路での道の整備と開拓を推進しています、なので旅に出る際の扱いや関所の移動制限が殆ど解除されています、海運も活発になりましたね」

「一年でそれは、結果が出るのが早すぎないだろうか」


「実際の所は一年どころの話では無かったのでしょうね、私はあまりそこら辺の情報を収集している訳ではないので詳細は分かりかねますが、東北周辺から江戸にかけての人口の伸び率が三十年前から伸びすぎていると聞いています、米の収穫量も同様であるとか」


人口というのは大体米の収穫量や農民たちの生活水準と相関する、税が厳しくかつ収穫量が少なければ間引かれて減る、税が緩やかで収穫量が多ければ勝手に増えるものだ


違う話にはなるが南の周辺は御門への忠誠の高さか、この辺の政が下手で税を高めにする傾向がある、その上火山灰等安定した稲作に向かない土地であることも相まって人口が増えにくくて苦労したとか、善意と身勝手さと自然の厳しさが合わさって非常に面倒くさいと師匠から聞いた事がある


結果的に人口が増えないお陰で一人当たりの体の強さ等が他の地域に比べて段違いであるとかなんとか、今は関係ない話だった


「東国の東北で人口が増えてる、というのは一番気になる所だね」

「そうなんです、本来あの辺は天候の影響を受けやすく、石高が安定しない場所、運が悪ければ飢饉が発生し、人口が安定する場所とは言いにくい」


当然東北の問題は寒さだ、水質は良くても冷害が起これば一瞬で飢饉の原因になる、そういう不安定な土地、それが三十年急激な人口増加に耐えれる程治政が安定している、となると収穫量が上昇し続けている事情は想像に易い、問題はどうやって安定させたか……


「つまり人口が増えすぎているので過剰人員に道の整備をさせる目的で意図的に各地を回らせているのか」

「そうですね、集団であらゆる道を整備していたり、必要であれば掛茶屋の整備、便所の増設等を行い現地の農民に運営を任せる、特にこの一年でそのような動きが活発になりました」


人口が増えたから道を整備し、内陸側の米の輸送等を円滑にするという目的は道理にあっている、しかし今までの中央の施策に反していて腑に落ちない


「今までの東国中央は、各地の一揆や藩の反乱を恐れて整備はしない方針だったはず」


道の整備とはつまり大軍の移動を容易にするという事、旅人や修験者とは違い森や山の中を大軍が通らないのは大量の荷駄を運ぶのに大変な労力をかける必要があるからに他ならない


つまり大きな街道以外の各方面の道を整備しないという選択は大軍を中央に向けさせない為の施策でもある、それを放棄したという事


「そうです、つまり――」

「東国は戦争準備をしている」


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