第5話 帰途と邂逅
「……首がいたい……」
もうすでに日が昇りつつある、夜を超えて
目を開けたら既に知らないけれど似たような景色が周囲に広がっていた
目が覚めた時私は八木の腕とコロモの背に持たれて寝ていた
寝心地は良くは無かった、硬い、寝れたのは正直極度の疲労から来る実質的に気絶だったからという他無い
「寝違えられましたか」
「うーん、多分そう」
今は八木の腕に座っている
「疲れてると思うけど、歩ける?」
その通りで疲れている、横になれなくて結構限界である、しかし
「はい、歩けます」
こういう他無い
「あまり見られていい姿じゃないから……すまないね、着いたら好きに横になって良いから」
そう言われれば私には従う他なく、速く付かないかなと思いつつ八木から降りる
コロモの後ろについていく、日が昇って来た
寺にいた時も朝は早かったのでこの日昇は珍しいものではなかったけど
寺以外の場所から見た事は無かったかもしれない、朝霜も薄くなり、所々緑で、様々な形の田んぼと川、色々なそして風がたまに強くなって寒い
ちょっと面白い
日が昇ると農家も旅人も活動を始める、そろそろ人と会うだろうか、あの外れで人通りが多かった、大きな街道沿いはどれくらいの人がいるのか、興味ばかりが先行して頭を回す
突如コロモが停止した、ぶつかりそうになる
「……?」
「やっべー……」
忘れものだろうか、と思いながら珍しい呟きに悔し顔でも伺おうかと思ってコロモの左側から覗き込むように体を傾けると、前から紅の着物、着物?短い袖と足の服?の珍しい着物を着ている女性が前からやってくる事に気づいた、動きやすそうな服だけどとても目立つ、端的に言えばそんな印象であった
「あら、あちらは」
「……」
――お千代、一年の睡眠の代償を一番被った被害者と言っていい、多分一年間僕がやるべき事と、その前から放置していた問題を……
「ふっ……ふふふふふふ!」
顔が、ひきつった笑いをしているのが分かる、その位の距離まで近づいて、お千代は止まった
「はっ、ははは!は!」
彼女はとても前向きな性格で、基本弱音を吐く事は無い、故にこの状態から察せる事は多い
「御門様の連絡から、急いで来てみれば……!」
目が見開いている、そして
「いるじゃあ、ありませんか、はっはは」
刀を引き抜いて、迫ってくる、膝抜きによる俊足抜刀
とても強い圧を感じる、真っすぐな怒り故に恐怖を感じる
「ク〇コロぉ!」
僕は彼女を知っているし彼女も僕を知っている、回避は考えない方が良いだろう
一年でどれほど成長を遂げたかは考慮に入れてはいないが、と考えながら木鞘のまま構える。下段、横薙ぎで来る、であれば
木鞘で衝撃力を削ぐ、相手の刀に思いっきりぶつけて相殺する
――と、考えているでしょうね!
私があなたにどれだけ吹っ飛ばされたか、そしてこの一年何があったか!
この一撃で伝えたくて仕方ありません!
横で薙げば鞘で衝撃を殺される、次に私の力を利用して鞘から山刀を抜いて零の間合いに、分かっていますとも
なのでもう一手!
――持っている刀の底を回す、重りが外れた、成程、柄が長いのはそういう理由か
細い鎖のじゃらっとした音と右手で重りを持って遠心させる動作はほぼ同時であった、木鞘に巻き付けて来る腹づもりなら仕方ない、こちらも間合いを壊す為に前に進む
――前に進んで来られるのも読んでいます、この分銅で木鞘を巻いて、山刀の抜刀を防ぐ。嗚呼、遂に一撃を食らわせれる……かもしれない
――木鞘に分銅と鎖が巧く巻き付く以前から持ち合わせている器用さで抜刀出来ない絡み方をされた、お千代の手元では既に鎖と刀は外されており、鎖を放り投げている、これでこの間、絡んだ山刀を抜刀する事はかなわなくなった
さて、問題は一太刀の対処である、このままこの山刀で受けても受けの一方で打開策が無い、斬り合いは主導権、前にお千代に伝えた通りの事を今彼女はやっている
しかしまだ甘さがある、抜刀を防いだからと言って次の手を考えないのでは、まだまだ
既に二間の
――山刀が全力で投げられ、視界が塞がる、反射で仙骨から屈んで、刀を下げてしまった、すぐに目線を前に戻すと、目の前には両腕をバッテンにして突破してくるコロモがいた、刀を上げ……
――させはしない、刀を下げたが最後柄を持つ両手の真ん中に手を突っ込み阻止をする、ここまで行けば後は簡単だ、この状況で人は刀を上げる力を加える、つまり上方向に手首の力が向いている、私はその上方向の力を手助けするように彼女自身の方向に力を加える
――上げなければと、体が腕に指令する、しかしこれをしてはいけないと私はわかっている、しかし刀を下げたままでも詰んでいると理解しているから、体は勝手に刀を上げようとする、憎きコロモが腕をただ真っすぐに押す、上方向の力と私の方に押される力が……
私のみぞおちを貫いた、酷くない?私何かしました?悪いのこいつじゃん
そんな思考が突如ゆっくりした現実の中で駆け巡る
――なんかよく分からないけど女性が倒れた、因縁があるのであろう事を用意に察せられる凄い形相であったが、ひとまず決着はついたのだろう
「えっと……?」
「あぁ、継さんは初めてですね、彼女はお千代です」
何時もと変わらない調子で八木が答える、そのはじめましての人ちょっと吐しゃして苦しんでるんですけど……
「継、悪いんだけど、ぶん投げた鞘拾ってきてもらえる?」
あ、はい これがいつもの感じなのかな?寺生まれだからか、これはちょっと野蛮だなーと思いながら遠くに飛んだ鞘に向かって歩き出す
その間しゃがんだコロモが呼びかける
「久しぶりー、元気してた」
「こ……ろ……」
「辛そうだね、無理しないで」
「……す……」
気を失ったらしい、近くの街路樹に横たわらせてコロモは進行方向に歩いて行った
「え?」
木鞘を拾ってコロモの元に戻るが、どうやらあの人は放っておくらしい
「え?」
思わず二度見をしてしまう、その間に手元の木鞘をコロモが取り上げる
「あぁ、大丈夫どうせ近いし、あれはあれで人間の体としては相当頑丈だから」
「一回冷静になって貰わないと」
あれで冷静になるのだろうか、もっかい仕掛けてきそうなテンションだったけど
ともかく、何事もないかのようにコロモは木鞘から鎖を外して横道に投げた
コロモという存在の謎は深まっていく
そんなこんなで町についた、宿場町という奴だろうか、村よりも建物の間隔が近い、まだ朝早いからか、出発しようとする旅人達はぼちぼち見かけるが寂しい雰囲気を感じる
「お千代とあそこで鉢あったという事は、家は問題無いと思うけど」
顔を左右に、一年振りだからか何か変化が無いかと、そんな感じの物見をしている
「おやぁ、久しいねぇ」
「お婆ちゃん!」
コロモが大き目の声を上げた、凄い笑顔で両手を平げてあからさまな歓迎の構え
「一年になるかい、変わらんねぇ」
「妖怪だからね、ちょっと遠くに行ってたよ」
御婆さんがこちらに気づく
「おやぁ、みるい子つれて、まぁ婆と同じ髪、お揃いだねぇ」
私の髪を見てもあの目をしない
でもちょっと恥ずかしくて声が出ない
「その子は身寄りが無くてね、当てがあるからそこに送るまで預かるのさ」
「あらぁ、それは大変だったねぇ、ご飯食べてくかい 丁度旅の人も起きて来る前だから、空いてるよ」
コロモがこちらの方を見る
「食べる?」
何故か声が出ないけど、とにかく力いっぱい頷いた、お腹は当然空いている、昨日から水しか飲んでない
連れられた飯屋の中に入る、確かにまだ人はいない
「この上が住処なんだ」
なるほど、道理で慣れている いつもここで食べたり会話を以前はしていたんだろう
「ほいさ、たくさんお食べ」
御椀一杯のご飯と汁もの、小魚と漬物、大分ご馳走だと思う
お婆さんは笑顔のまま、こちらを見ている
とにかくお椀を取ってご飯を、食べる
「大変だったろうからね、ゆっくり食べるんだよ」
喉に通りにくい、美味しいごはんの匂いが鼻に入って目から水が垂れる
良い匂いが鼻に入る度、美味しいご飯を口に入れる度目に水が溜まって食べにくい
「……」
コロモは一度こちらを見てから、すぐに外に目を向けた
お婆ちゃんは
「おかわりもあるからね」
そうやって変わらず優しくしてくる、言葉が耳に入る毎に水が出る量が増えるのだご飯美味しいのに!喉も通りにくくなる!美味しいのに!!
「っぐ、ぇぐ」
「だ、大丈夫かい?」
「お婆ちゃん大丈夫、今この子声かけられる度に泣いちゃうから、ちょっとそっとしといてあげて」
「あ、あぁ……婆が何かしちゃったのかしら」
「いや……うーん、したか、したともいえるけど悪い事はしてないよ、大丈夫」
「……そうかい、一杯食べるんだよ」
滅茶苦茶食べさせようとしてくるなこのお婆ちゃん、なんて冷静な事考えても涙は出るのだ、もう顔を伏せるしかない、お椀と箸を持ちながら、でも出るんだから仕方ない、もう私に出来る事は一旦落ち着くまで顔を下に向けながら、ご飯を少しずつ食べるしかない、美味しい
ご飯を食べて安心してしまったんだから、仕方ない、そう言い聞かせながら少しずつ、たくさん食べた
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