第67話 幸せを噛み締めてみた

 俺とビビは当初の目的であった迷宮に赴く。

 連携して中階層までを攻略し、魔物を倒してその素材を集めた。

 定期的に休息を挟み、無理のない進行速度を保つ。


 たまに宝箱を見つけた時は、俺が罠を解除して中身を入手した。

 収穫はまとめて闇魔術の収納に突っ込んでおく。

 欲張りすぎない限りは身軽でいられるので非常に楽だ。


 戦闘はビビに頼りがちだが、こういった部分は俺の仕事だった。

 盗賊関連の技能にはそれなりの自信がある。

 様々な魔術を応用することで、難解な罠も解けるようになり、どんどん地味な方向へと成長していた。


 そんな俺にビビは尊敬の眼差しを向けてくれており、一連の技能を何度か練習している。

 しかし、ビビは意外と手先が不器用なので失敗が続いていた。

 戦闘に関する才能は高いのだが、それ以外となると不得手が出てくるのだ。


 まあ、それでいい。

 彼女には自分の得意分野を存分に伸ばしてほしい。

 俺はそれを補完する形で強くなるつもりだ。


 特に危ない場面もなく進んでいると、廃墟街の階層に辿り着いた。

 あの死霊術師と戦った場所だ。

 今はグールも徘徊しておらず、閑散とした雰囲気が漂っている。


 物陰から現れる魔物を蹴散らして、俺達は適当な廃屋に入った。

 結界を設置して座り込む。

 ビビは保存食を齧りながら俺に言う。


「絶好調だね」


「ああ、決闘関連で鍛えられたおかげだ。これくらいの魔物なら不覚は取らない」


 前から平均程度の強さはあった。

 聖騎士との戦いに備えた結果、さらに技能面が上達したのである。

 魔術を使わずとも難なく立ち回れるため、あとは複数属性の併用に慣れていけば、独自の力を発揮できるだろう。


 水を飲む俺は、自らの片手を一瞥する。

 少し前まで着けていた指輪類はすべて無くなっていた。

 決闘の際に壊れてしまったのだ。


「新しい指輪も買いたいな」


「金欠だね」


「まったくだ。これも冒険者の性だろう」


 俺は自嘲気味に笑う。

 職業柄、いつ死ぬか分からない冒険者は散財する傾向にある。

 他でもない俺もその一人だった。


『これからもたくさん迷宮に来るの?』


 何を当たり前のことを。

 問われた俺は水を飲みつつ答える。


「ちょうどいい稼ぎ場だからな。もう日課みたいなものだ。ずっと通い続けるだろう」


『うれしい、ありがとう』


 会話しながら干し肉を取り出そうとした時、ビビが怪訝そうな顔をしていることに気付く。

 彼女は恐る恐る尋ねてきた。


「ご主人、誰と喋ってるの」


「え……?」


 俺は我に返って辺りを見る。

 廃屋の出入り口に、ぼんやりと人間の輪郭のようなものが立っていた。

 それは幼い少女のような外見で、すぐに立ち去ってしまう。


 てっきりビビと話しているつもりだったが違った。

 今のはおそらく迷宮の主か。

 声に聞き覚えがあった。

 敵意は感じなかったので慌てることはない。

 俺は廃屋の出入り口を見つめる。


(会いに来たのか……いや、来訪したのは俺達だな)


 思わぬ再会に俺は驚く。

 礼を言うのはこっちだった。

 黒い刃の短剣は、二度も命を救ってくれた。


 一瞬、返すべきかと思ったが、迷宮の主は取り立てようとしなかった。

 短剣は引き続き持っておいてもいいのだろう。


 肩の力を抜いた俺は小さく笑う。

 それから天井を見て呟いた。


「俺は恵まれているよ本当に」


「ご主人が優しいから」


「そうか?」


「うん。いつもありがとう」


 ビビが寄り添って口づけをしてくる。

 俺はそんな彼女を抱きしめた。


(ああ、幸せだ)


 心が満たされる。

 最初は気まぐれから奴隷を購入したが、今では間違いなく愛していた。

 ビビはそれくらい大切な存在だ。


 これからも彼女のことを守る。

 共に人生を歩んでいこう。

 俺はビビを抱きしめながら強く誓った。



(あとがき)

ここで一旦ストーリーの区切りとなります。

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金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している 結城からく @yuishilo

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