第66話 英雄の今後を想像してみた

 その後、騒ぎを聞きつけた衛兵がやってきた。

 武装した彼らは険しい顔で迫る。

 送還中の聖騎士が脱走した話は知れ渡っているはずだ。

 予め戻ってくる可能性を考慮して警戒していたのだろう。


 渦中の聖騎士は、面倒そうに肩をすくめる。


「やれやれ、もう少し話したかったんだけどね。そろそろ行くよ。君達の進む道に幸運を!」


 そう言い残した聖騎士は、衛兵から逃げるために姿を消す。

 雑踏を縫うように進む聖騎士は、俺達に手を振っていた。

 そこに衛兵が慌てて殺到していく。

 置き去りにされた俺は呟く。


「大丈夫だろうか……」


「きっと逃げ切れるね。光魔術はすごく速いから」


「確かにそうだ」


 聖騎士の光魔術は凄まじい速度を誇る。

 対策していなければ、その動きに対抗することすら難しい。

 衛兵達もそれなりの実力者だろうが、きっと足元にも及ばないと思う。

 聖騎士の体調を加味しても結果は同じだろう。


 それに、今の彼は闇魔術も習得している。

 併用することでさらなる能力を発揮できるはずだ。

 本気になれば誰も捕まえることができない。


 喧騒が遠くなったところで、ビビはふと言葉を洩らす。


「変わったね、あの人」


「敗北がよほど衝撃的だったんだろう。元々、悪人ではないからな。早とちりさえ無ければ、あんなものかもしれない」


 俺には英雄の気持ちなんて計り知れない。

 しかし、聖騎士の中で大きな変革が生じたのは確かである。

 送還中に色々と考えて、彼なりに結論を導き出したのだと思う。

 反省して、変わろうとする姿勢が見えたので、こちらから掘り返すことはない。


 あの聖騎士は、ほんの少しばかり傲慢で思い込みが強いだけだったのだ。

 身勝手な性格はまだ残っていそうだが、最初の時に比べると改善された気もする。

 これからの行動次第でさらに成長していくに違いない。

 今後、俺達とどう関わっていくのだろうか。


「また会えるかな」


「会いたいのか?」


「今度は仲良くできるかも」


「ビビは優しいな」


「ご主人もね」


 二人で言い合いながら街を進む。

 しばらく進むと、先ほどの衛兵達が道端で文句を垂らしていた。

 諦めの表情から察するに、聖騎士を逃がしてしまったらしい。


 平凡な冒険者に負けた元英雄は、果たしてこれからどのような活躍を見せるのだろう。

 きっと刺激的で派手な伝説を築き上げていくに違いない。

 俺は少し楽しみになってしまった。

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