第65話 新たな力を披露されてみた

 楽しげな聖騎士だったが、我に返った様子で手を打つ。

 彼は両手でがっしりと俺の肩を掴んできた。

 激しく揺さぶりながら、聖騎士は話題を転換する。


「そんなことより君だったのか!」


「何のことだ」


「死霊術師の討伐者だよ! ギルドに尋ねても教えてもらえなかったが、決闘で脚を刺された時に確信したんだ!」


 興奮気味の聖騎士は、俺の携帯する黒い刃の短剣を指差した。

 お互いに必死の戦いだったが、何で攻撃されたか憶えていたらしい。


 この短剣によって、聖騎士は光属性を封じられた。

 そして闇属性に適応し、予想外の力で俺を追い詰めてきたのである。

 禍々しい殺気と共に迫る姿は記憶に新しい。

 こうして生きていることが奇跡だと思えてしまうほどだった。


 聖騎士は恍惚とした表情で語る。


「属性の反転……確かにそれなら格上の不死者でも殺すことができる。さすがだよ、感動した。何よりその特異な性能を活かす君の手腕が良いね」


「大げさだ」


「いやいや、正当な評価だ。君は聖騎士に勝利したんだから、もっと誇ってくれないと困る」


 聖騎士は断固とした態度で述べる。

 なぜか横ではビビも同調して頷いていた。

 少なくともこの意見に関しては異論がないということだろうか。

 なぜか示し合わせたかのように拳を合わせる二人を見て、俺は表現し難い気分になる。


 少し落ち着いたところで、聖騎士は俺達の前で手のひらを上に向ける。

 そこに白い光が生まれた。

 ただし光は弱く、瞬きながら今にも完全に消えそうだ。

 聖騎士は寂しそうに言う。


「見てくれ。僕の持つ光属性は中途半端に修復されてしまった。これで定着したから戻りそうにない」


「謝罪を求めているのか?」


「とんでもない。むしろ感謝している。気に入っているんだ。君の立つ領域に半歩分だけ踏み込めた」


 そう答えた聖騎士の手に変化が生じる。

 白い光に黒い光が混ざり込み、灰色となって渦巻きながら球状に圧縮された。

 常に濃淡が変化する魔力の球は、不安定というより変幻自在な印象を受ける。


 俺は無言で球を観察する。

 その色や流れから正体に当たりをつけた。


「光属性と闇属性の併用か……」


「その通り! 君のおかげで前よりもさらに強くなれそうだ」


 聖騎士は光を消して微笑む。

 黒い刃の一突きが魔力の性質を歪めるのは知っていたが、まさかこのような形に落ち着くとは。

 今回は短剣の性能よりも、危うい二属性を両立させた聖騎士の才能と執念を称賛すべきだろう。

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