るんたったー、るんたったー

藤泉都理

るんたったー、るんたったー




「ここはおしろのおおひろま。これからぶとうかいがはじまります。さあさあ、みなみなさま。まずはきりんとうさぎのプロのダンサーのダンスをおたのしみください」


 るんたったーるんたったー。

 るんたったーるんたったー。

 るんたったーるんたったー。

 るんたったーるんたったー。


「きりんのダンサー。あたまをおおきくゆらしながら、かれいでとてもはやいすてっぷをかなでます。うさぎのダンサー。みぎにひだりにまえにうしろにおおきくとびはねて、くうちゅうでいっかいてん、にかいてん、さんかいてん、よんかいてん、ごかいてん、ろっかいてん、ななかいてん、ちゅうがえりします。みなみなさま。さあさあ、きりんのダンサーとうさぎのダンサーにつづいてぶたいのうえにどうぞ。ダンスをおたのしみください」

「秋音。ダンサーごっこかい?」


 俺はたくさん置いてある動物の人形を一人で動かしている娘の秋音に話しかけた。

 秋音は動物の人形を動かしたまま、うんと言った。


「きりんとうさぎはとってもおどりがじょうずなプロのダンサーなの。こうしてね。ぶとうかいによばれて、さいしょにおどって、つぎにみんなでおどるの」

「へえ。プロのダンサーかあ。すごいなあ」

「そうよ。おとうさんはおどれる?」

「うーん。小さい頃はよく踊ってたらしいけど。今は全然踊れないなあ」

「じゃあ、わたしとおどろう!」

「うん。明日踊ろう。もう眠る時間だよ」

「えー?」

「約束」

「んー」


 俺が小指を差し出すと、秋音はぶちゃいくな顔をしながらも小指を絡めて、約束を破ったら高級フルーツケーキを奢ると言って、小指を切った。

 おやすみなさい。

 そう言って隣の部屋で先に寝ている妻の元へと行く秋音を見送ってから、舞踏会の会場の建物の材料として使われた文庫本を一冊手に取って、眉毛と口の端を下げた。

 文庫本の題名は、会議の上手な進め方。

 ここにある文庫本は全部、会議を上手に進める為にどうすればいいのか書き記されたものだ。

 初めて任せられた会議の進行役を成功させる為に、買い漁った多くの文庫本。

 全部読んだが、自信はまったくつかない。

 休み明けの会社でしなければならないのだが、もう、緊張して緊張して。




「るんたったーるんたったー、るんたったーるんたったー」


 俺は小声で歌いながら、ひそやかに踊った。




 そして迎えた休み明けの会社。

 任された進行役はさんざんな結果に終わったが、先輩たちに優しく慰められて、ほんのり涙が滲み出て、次こそは成功させるぞって思えたのであった。











(2023.5.19)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

るんたったー、るんたったー 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ