ふたりきり

だらく@らくだ

泳ぐ


「ねー弘明も泳いだら?せっかくの貸し切りだよ」

「俺はいい、お前の家のプールだしな」

「えー」


ある豪邸の屋上にあるプール、ここに入れるのはこの豪邸に住む人間か招かれた人間のみ

だから今日は市民プールなんかと全く違って俺と豪邸に住む人間の一人である三木谷紗枝

だけがプールに居た


「勿体無いことするなーじゃ勝手に泳いじゃうよ?」

「いいさ別に。好きにすればいい」

「わかった」


紗枝は少し不満そうな顔をして、水に潜った

プールサイドにあるラタンの椅子を傾けると

プラネタリウムみたいに星空が見えた


しばらくして、また紗枝は水から顔を出して

さっきからこの繰り返しだ。実はここに招かれたのは理由がある、それは明日紗枝が


「そうだ、泳がないなら私のクロール見てくれる?これには自信あるからさ」

「ああ、いいよ」


ま、それは今話す事では無いだろう。ラタンの椅子から立ち上がった俺は腕を伸ばした

いつの間にかプールの辺が短い部分に紗枝が

移動していた。このプールは正方形では無く

長方形をしている。俺が座っていたラタンの

椅子がある側は辺の長い方だった

「いっくよー!見ててね」

ばしゃっと潜ったと思えば、かなりの速度で

紗枝は泳いだ。水しぶきを上げてまるで二十

後半とは思えないぐらいに。凄いや

そして、あっという間に反対側まで到達する

俺は賞賛の拍手を贈った。すぐさま紗枝は俺が立つ、プールサイドまで水をばしゃばしゃ

掻き分け歩いてきた。

「どう?」と鼻息荒くして、言ったので

「コングラッチレーション」と俺は返した

そしたら紗枝はにんまり笑った。相変わらずだ。俺も紗枝も変わらない。昔から

変わったと言えばそうだな……

「ん、どうしたん?下なんか向いて」

「いや、別に」

「もしかして」

何かを察した様に紗枝は両手で俺に水をかけた

「えーえー無駄に乳がでかくてすいませんね!全く、相変わらずえっちなんだから」

「あはは……」

紗枝はそっぽを向いてしまった。別に変なつもりで見たわけじゃ無いんだけどな。

「お前、新しい旦那さんにそれするなよ」

「そう……ね」

今度は下を向いたまま、黙り込んでしまった

「悪い、まだ決まったわけじゃ無かった」

「……決まった様なものよ」

明日、紗枝はお見合いに行く。見合い相手は

大企業の跡取りだ。そして、紗枝もまた大企業の娘である。つまり明日の見合いは見合いとは言っているが、政略結婚を決める話し合いみたいなものだった。

「ねぇ、弘明」

「なんだ、紗枝」

「私……本当はね、あなたと結婚したかったの。だってずっとずっとあなたが好きだったから」

「俺も……そうしたかったけどさ……さ」

気づいたら俺たち二人して、泣いていた。

星が見守る中で思いっきり、誰も知らぬまま


そして、しばらくしてやっと泣き止んだ

ので、俺は紗枝を上、向かせて目を隠した

「ちょ……なにするのよ」

「まあまあ」

「もう」

そうして、ぱっと手を離して「見てご覧」

と言ったら素直に紗枝は上を見た。そこには

ぽっかりと満月が浮いていた

「突然の……満月って感じ?どう」

冗談の様に俺がそう言うと、紗枝はまだ上を向いていた

「ほんとね……きれいなおつきさま」

「だからさ、たまに思い出してくれよ」

すると、突然こっちに向かって歩いた紗枝は

俺の手をぐいっと引いて、プールに落とした

「な、なにするんだ?!危ないじゃないか」

「あはは、面白いなぁ」

それはここに来てからやっと見れた紗枝の

本当の笑顔だった









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