便利屋の噂

 ミハイルの件から二日後。俺達は今、マックス港というアリグス国の港に来ている。

 「さて、情報収集でもするか」

 「その前に、お腹がすいたので何か食べていきません?」

 「そうね」

 「何か眠気覚ましに辛いもんが食べたいなぁ」

 俺達は近くの定食屋に入る。

 「いらっしゃーい」

 そこには港で働く者達が沢山いた。

 「すいませんお客さん、今他の客が沢山いるもんでね」

 「いえいえ、何時間でも待ちますよ」

 「そうですか…では四人席が空くまでお待ちください」

 俺達は入口付近で待っていると、とある話が聞こえてきた。

 「そういえば、ラーキさん、お前さんのとこの娘は今どうしてんだい?」

 「あぁ、メウの事か?それなら便利屋の奴に任せてるよ」

 「便利屋?」

 「あぁ。確か、『ジョウクの便利屋』とか言ったかな」

 (ん?今、ジョウクの便利屋とか言ったか?)

 俺は先程の話に聞き耳を立てる。

 「店主の名前はジェシー・ジョウク。何でもこなす、便利屋の名に恥じない奴さ」

 「ジェシー・ジョウクって、確か数千年前に、魔王を倒した後、行方不明となった奴だろう?」

 「俺も同姓同名なのが気になって聞いてみたんだ。でもよ、アイツは『たまたまですよ』と言ってたから、ただの同姓同名の別人じゃねぇか?」

 「そうだよな。ジェシー・ジョウクは、もう死んでるはずだ。何せ、数千年前の話だもんな!ガハハハ!」

 (ジェシー・ジョウク…か)

 俺がそんな事を考えていると、トロイトに肩を叩かれた。

 「モーガンさん!」

 「はっ、どうした」

 「席空きましたよ」

 「そ、そうか。わかった」

 俺達が座ったのは、先程ジョウクについて話していた男達の隣。

 「それで、今日メウん所に戻るんだろ」

 「あぁ。三日間アイツに任せていたからな。1000ゴールド払わねぇと」

 「そのジョウクの便利屋ってのはどこにあんだい?」

 「俺が依頼したときは伝書バードを使ったが…本店はここからわりと近いんだ」

 「お、それなら地図で示してくれ」

 「わかったよ…確か_」

 男達はそこから何も喋らなかった。恐らく地図でジョウクの便利屋を探しているのだろう。

 「モーガンさん!」

 「あっ、どうした」

 「モーガンさんは何にするんです?」

 「そ、そうか」

 「何か今日変ですよ、なんかあったんですか?」

 「す、すまないトロイト」

 俺はメニュー表を見て、料理を頼んだ。

 それから数分後、俺達のテーブルには、炒め麦(現実世界で言うところのチャーハン)、イノシシバーグ(現実世界で言うところのハンバーグ)、林檎のパン包み焼き(現実世界で言うところのアップルパイ)、デカ海老の激辛炒め(現実世界で言うところのエビチリ)が置かれた。

 「じゃ、いただきます」

 炒め麦を口に入れる。それはチャーハンと似たような味で、塩胡椒の塩味と、麦の風味がとてもマッチしていた。

 そして俺達はそれらを食べきり、ゴールドを払って店を出た。

 「じゃあ、情報収集を始めますか」

 「ちょっと待ってくれ」

 俺が皆を集める。

 「どうしました?」

 「何?」

 「何だモーガン?」

 「お前ら…ジョウクの便利屋って場所分かるか?」

 「ジョウクの便利屋…名前だけなら分かりますが…」

 「そういえばアルセボ村の鍛冶職人、レイジさんがその人を使った事があります」

 「確か、ジニアス町にも町長の手伝いの為に来たことがあったな」

 皆は、名前や存在を知るだけで、場所は知らなかった。

 「くっ…」

 「それにしても、何でモーガンさんが便利屋を?」

 「便利屋なら情報も何でも知っていると思ってな」

 「そうですか…」

 「お、貴方達、例の勇者御一行じゃありませんか」

 「ん?」

 俺達は声のした方へ体を向ける。そこには糸目の白シャツの男がいた。

 「どうも」

 「誰だい?」

 「私の名は、ノーギン・タケンシ。ジョウクの便利屋の、秘書をおります」

 ジョウクの便利屋という言葉に、すぐさま俺は反応した。

 「なっ、ジョウクの便利屋の者なのか!?」

 「えぇ」

 「じゃ、じゃあ場所を教えてくれ!」

 「ちょ、ちょっと」

 「なんでしょう?」

 「本当にジョウクの便利屋の者なんですか?」

 トロイトの言葉に笑みを浮かべるノーギン。すると、ノーギンは懐から一枚の紙を取り出す。

 「ジョウクの便利屋、秘書…ノーギン・タケンシ………」

 「ほら、本当でしょう?」

 「確かに…」

 「では、行きましょうか、便利屋の元へ」

 こうして俺達はノーギンに連れられ、ある建物に着いた。

 「ここです」

 「なぁ、ここは廃墟じゃないか。ここに例の便利屋がいるのか?」

 「ククク…」

 すると、ノーギンはゴブリンの姿へと変わった。

 「なっ!?」

 「けけけ、バカめ。こんな廃墟に便利屋がいるものか!」

 「くそっ、罠か!」

 俺達は武器を構える。

 「さぁ勇者モーガン!魔王様の為に死んでくれ!」

 ノーギンが後ろ腰からロングナイフを出す。

 「おらぁ!」

 「させるかよ!」

 ノーギンの攻撃を二本のナイフで防ぐ。

 「ぐぅぅ…」

 心なしか、ノーギンの方が力が強い。

 「くらえ!ブリザードフレイム!」

 俺は体を背け、魔法を避けると、それがノーギンを包みこむ。

 「ケケケケケ。そんな魔法は効かんぞ」

 しかし、ノーギンは何事も無かったかのように、ニヒルな笑みを浮かべる。

 「さぁ、仲間の前で殺してやろう勇者モーガン!」

 ノーギンがロングナイフを縦に薙ぐ。

 「させるかっ!」

 俺は唐紅のナイフを間に入れる。

 「けっ、ナイフごと折るわぁ!」

 何とノーギンはナイフを破壊。俺の体を掠めた。

 「ぐぅぅ!」

 「モーガン!」

 「さぁ、次は骨を断つ」

 ノーギンがナイフを左手に持ち、俺の短剣を持っている方の手を掴む。

 「逆に折ろう」

 その瞬間、骨が砕ける音がした。

 「がぁぁ!」

 「くそぉ!モーガン!この野郎!」

 すると、トサマがノーギンに殴りかかる。

 「はいぃぃ!」

 「おっとぅ?何だ今の?」

 しかし、トサマはそれを避ける。

 「はぁ!」

 トサマの次にアヤカの矢が飛ぶ。たが、それは奇跡的に奴の右肩を貫いた。

 「ぐぅぅ!」

 「隙あり!」

 俺はノーギンの腹を横に切り裂く。

 「ぐばぁぁぁ!」

 ノーギンはその場に倒れた。

 「はぁ…はぁ…」

 「モーガン!」

 「早く治療を」

 「何だ。何が起こった」

 「ん?誰だ!」

 トロイト、アヤカ、トサマが武器を構える。

 「なぁに、俺は怪しい者じゃない。ただのしがない便利屋さ。名は、ジェシー・ジョウク」

 その男こそ、件の便利屋、ジェシー・ジョウクであった。

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伝説の暗殺者、異世界で勇者になります 蔵品大樹 @kurashinadaiki02

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