悲しき過去
それは、魔王ジェミーの復活から5年も前の事であった。
現在の魔王城がある所の近くに、竜人の一族が住む小さな村があった。
その村の名はジェーン村。かつて人間を助けた竜人の男、ジェーンが由来となっている。
村人、否、村竜人の人数は20人程度だが、彼らは支え合って生活をしていた。
人間も竜人の事を大切に思っており、かつて自分の先祖を救ってくれた恩人の子孫として、仲良くしていた。
しかし、その仲はある事によって切り裂かれる事となる。
それは、魔王が復活した時の事。ある者が、こんな噂を流した。
『魔王ジェミーを復活させたのは、竜人の者だ』
無論、それは完全なデマであった。
しかし、魔王の手により人間が何百人も死んだ事で余裕を失っていた者達は、竜人を滅ぼさんと、ジェーン村に訪れたのだ。
人間はできる限りの武器を持ち、竜人を殺戮し続けた。
そんな中、ある竜人の青年は、その殺戮から逃れていた。
それはジェーンの純血を引く者、ハーラーであった。
彼は果実狩りの為に村を離れており、ハーラーが戻ってきたのは、人間の竜人狩りが終わり、彼らが去った後であった。
「み、皆ぁぁ!」
倒れている仲間を見つけたハーラーは、自身の父親に近付いた。
その父親も虫の息であり、ハーラーに血を吐きながらもこんな事を言った。
「これを…やったのは…人間どもだ…グバッ……どうか、ハーラー…あの人間どもを…どう…か…」
その後、父が話すことは無かった。
「ぐっ……人間が…俺達竜人を…」
ハーラーは人間を必ず駆逐するという憎悪に包まれ、父がかつて使っていた薙刀、『竜王』を持ち、村を去った。
その後、各地を放浪していたハーラーは、ミハイルが拠点としていた村で倒れ、ミハイルに拾われたという。
そして、ハーラーはミハイルに自分の仲間が死んだ原因の一つである魔王ジェミーを紹介された。
ハーラーは魔王軍に入ってからは、力を発揮し、魔王軍の領土を拡大。色んな人間を殺戮し続けた。
彼の原動力はただ一つ。
人間を絶滅させる事である。
「ほう、そんな事が」
「凄く他人事のように言うな」
「まぁ、あくまでも他人、いや、他竜人の竜人生ですから」
「そうかい」
すると、ウィリアム32世が口を開く。
「そういえば、私の一族は『一年で死ぬ』という呪いがかかっておりました」
「どうした?急に」
「ですが、魔王様が私に不死の魔法をかけてくれたことにより、私はこうして生きています」
「ふん、不死身な分、私よりも厄介だがな」
「だからお天道様の元に当たっても、死ぬことはありません」
「まぁ、私を復活させたのは貴様だ。それ相応の対価は与えんとな」
「えぇ。もしあなたが死んでも、私は貴方を復活させますので」
「貴様は吸血鬼ではなく、ネクロマンサーと名乗ればいいんじゃないか?」
「いえいえ。私は吸血鬼のほうがいいのですよ」
「そうか」
ジェミーは笑みを浮かべ、ウィリアム32世はコウモリの姿へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます