【番外編】 祝福の花は流るるままに


みんな勘違いしてるよ。


俺がなんもしてないって思ってるんだろ?








ー 正解。








勘違いじゃねーし!

なんもしてね〜ぇ。


やばい、ヘレナ王妃なんか

俺がなんもしてないって給料下げる気でいる。





こりゃまずいね、せっかく給料も安定してきて

そろそろ自分の家を買おうかって金貯めてんのにさ。

来たれ、未来のお嫁さん。




ちょっと本気で俺が仕事してるとこを

誰かに確認してもらいたいのに

あのたぬきち軍師は見て見ぬふりだし

ルイなんて最近はたぬきち軍師と一緒に勉強してるから

俺とそもそも一緒にいない。



誰か、俺の勤労具合をヘレナ王妃に直訴してくれ〜...誰か...。












ー いた。 1人だけ、思い当たるヤツ。











「 アル、釣り行かね? 」




怪訝な顔したアルフレートが帯剣した剣を壁に立てかけた。

朝練の終わった騎士団の鍛錬場。



俺とアルはちょくちょく釣りに行っている。



けどあいつ、まだお堅いから

飲みに行ったりはしてない。教えがあーだこーだの言ってるけど

酒、弱いんじゃねーの? ぷ。だせえ。





「ー 俺はお前にそんな呼び方を許してはいないし

 明日は、騎士団の、」


「入団試験なら、トーマスのおっさんがやる気だし

 お前いなくていいだろ。


 ー それにさ、”アル”って呼ぶの、かっけ〜じゃん。」




アルフレートの”アル”っていいだろ?仲良しさんぽいだろ?


ほら見ろ、ちょっと照れてる。

これで女より男が寄ってくるんだから、神様も意地悪なことするよな。




女だったら、あれかな。

自分より綺麗な男がそばにいるのって割と引くもんなのか。


いい男も、難しいもんだな。

 

ー 見てるだけでいいってのは

相手にとっちゃ居心地悪いこともあるんだろな。









副将軍のトーマス・ボイドが大股でこちらに寄ってきた。

相変わらずガサツである。

彼にマナーという概念はない。ー 俺の”筋肉”がマナーだというだろう。


「おぉ、アルフレート、いいところにいた。

 ー 明日、アーサー殿があちらへ帰る前に釣りへ行きたいと仰ってる。


 お前に護衛を頼みたいんだが。ー 明日のことは俺がやる。」



そんな目で俺見るなって。

俺はニヤッとしただけで、何も言わない。


(こいつ...。)

アルはため息をついて、承諾した。


「ー、朝、早いぞ」


「オッケーでーす」

口笛を吹きながら、騎士団の鍛錬場から立ち去った。






こう見えて、俺はあちらこちらを”警備”してはいる。

今日もエルンハストは”異常なし”である。



ただ、”忍び”という立場上の守秘義務は

誰彼に大っぴらにいうことはない。


(それをヘレナ王妃は分かってねーんだよな...)



言わせてもらうけど

俺が密使なんてやってたのだって

アルデラハンの王(カイン)だけじゃなくて、たぬきち軍師だろ

あとは、うちの王(ユージーン)のだってやってたんだ。



結構大変だったんだぜ、トリプル密使も。



褒めて欲しいよ、俺って働き者じゃん。



うちの王は最近はずっと忙しいから顔だって見てないけど

ヘレナ王妃の方が見てない。婚姻の儀からずっと、だ。

たまに見かけても表には出てきてない。



 ー あの人、生きてんのか?




ふと、気になってちょっとだけ忍んで挨拶がてら直訴に行こうかなと。


俺のそんな気持ちがどこかで洩れたのか

背後を取られる。ー 久しぶりだね、この感じ。



「ー サスケ、ヘレナは今休んでる。ー

 要件は俺が聞く 」



あら〜、新婚さんいらっしゃい。王、直々ですか。

王は”あの”回廊で、俺に声をかけてきた。そうそう、忍んだとこよ。



「あ〜、...なんか給料、下げられそうなんで。

 ー 直談判でもしよっかな〜って 」


取ってつけたような理由だが、今はこれが一番そつがない。

だってホントだし。



「あぁ、そのことか。ー 大丈夫だ、俺から言っておく。

 ー あとは?」



え、まじですか。

そんな簡単に大丈夫なんすか。

っていうか、王、なんでそんなにソワソワしてるんすか。



ユージーンはトイレに行きたいわけじゃなさそうだ。



「あ、明日、アーサー連れて釣りに行きます。

 ー 護衛はアルフレートと俺で。」


「釣り?ー アルフレートは釣りを嗜むのか?」



お、食いついてきたね。

この2人って色々ありそうだから釣りなんて来たらおもしれーんだけど

そんな展開はごめんだね。他人事で助かったぜ。



「えぇ、王は釣りしないんすか」


「昔は少し ー」


なんだか考え込んだぞ、この人。


「その釣り、俺も行こう」





「え」











ー 呼んでませんけど。







やめてくれよ、せっかく給料下げられるのを阻止したのに

王が来るとかそれ、どんな修羅場だよ。



あ〜、もう、俺、適当にモノ考えるのやめよ。

チートだからなのか?、この考えつくことが現実になるっての。



「で、でも王。ー 王は執務が...」

イチカバチか。


「それならフィリップがいるから問題はない。」

無理でしたー。




「ヘレナ王妃は?」

止めてくれ、ヘレナ王妃、王を止めるのはあんたしかいないだろう。


「いや、最近はちょっとウザがられてる」



ー 最近?え、最近だと思ってたの?アレを? ー。

つける薬が無いっていうけどさ、これのことじゃねーのか?





「朝、早いすよ...」

もう、やぶれかぶれだ。どーにでもなれ。


「4時に起きるようになったからな」



どんだけ〜!!!!

じっちゃまが言ってたなぁ。習慣は人を作るって...。

そのうちこの国の法律に加わるんじゃねーの。朝は早起きすることって。


マジ、かったりい。


「じゃ...朝5時半に騎士団の宿舎前で...」



やばい、明日は血を見るか?


こんな俺でも今から入れる保険、ありますか。

何つって。












「サスケさぁ〜ん。 おはようございます!」


アーサーは半袖に紺色のズボンを履いて、肩に釣り竿を引っ掛けてやってきた。

頭に麦わら帽子なんて被っちゃって、まだまだお子様やな。

どっかの海賊王にでもなるつもりかな?

え?

ヘレナ王妃に被れって言われたの?



ー それを守る思春期のお前を不憫に思うよ、俺は。





「アルフレート騎士団長、おはようございます。

 今日は僕のためにわざわざお忙しい中、護衛いただいて

 本当に感謝しています。」


なんて出来た男、アーサー。お前、幾つだったっけ。

え?15とかでそれ?

お前、途中でバーサーカーになったりしちゃったりしない?

大丈夫?

どこかで爆発しちゃったり、なんか乗り移らないかね。

その年頃って言ったら、もう頭ん中、万年性欲の百鬼夜行だろ。


姿勢良すぎるだろ...。



その落ち着き具合が、俺には修行僧に見える。ー滝行した?誰かみたいに。




ニコニコしながらアーサーは釣り竿をアルフレートに見せていた。



アルは白いシャツを腕まくりして

アースカラーの濃いカーキ色のズボンにブーツを合わせていた。

帯剣はしているが、襟元もいつもとは違って、ボタンを外していた。



いい男は本当に何しても似合うんだよな。

そして、その横でもう1人いい男がウホ、じゃない

腕組みしながら一緒に歓談している。 ー 王だ。


朝イチにいたからね、王。



どんだけ楽しみにしてたんだよ、王。

王、ウェーダーすでに着込んでるじゃないすか。

(※ウェーダーとは水中に入っても濡れないよう腰や胸まで伸ばした胴長のこと。

 釣り人などが着用し、水中に入り込んで行う釣りなどに用いられます。)




めっちゃ釣る気っすね...。






「アーサー、今日は川へ釣りに向かうが

 昼は釣ったもの以外、食えないぞ」


王は要らん縛りを設けてきた。ー なんぞそれ。



「はい!!もちろんです! ー 今日は絶対釣ります!」


この若人のキラキラよ。ー




もうこの空気感に俺だけ死滅しそう。

俺はもちょっとゆる〜い感じでよかったんだけど、ま、いいか。




「んじゃ、出発〜ってことで」


各々馬に乗って、ここから30分程度の川縁に向かった。





到着するなり、王とアーサーはすぐに川へ向かった。

俺とアルは馬を移動させつつ、焚き火の準備だ。


「なぁ、アル、お前平気か?」


落ちている小枝を集めながら、俺はアルフレートに声をかけた。


「何が」


アルは足場を踏み鳴らしていた。器用に短剣で邪魔なツタを切っている。


「だからー、あの、王と一緒だと、...」


「ー、今は護衛中だ。 」



あ、これ嘘だね。

俺にはわかるよ。

ー でもなぁ... 俺にできることなんてねーからなぁ。



「これ済んだら、俺らも釣りしようぜ」



ごめんな、アル。ー これぐらいしか気の利いたこと言えねーんだ、俺。

お前が見事に玉砕してても、俺にできることなんかねーけど

遊びくらいは付き合ってやるからな。



「おぉ〜い!!」


王の呼ぶ声が聞こえてきた。


アルにこの場を任せて、俺は川へ向かった。

見れば、王はすでに川の真ん中で釣りをしていた。


本気釣り人だ。 ー 本気度100パーだな。あんた一人勝ち。




「アーサーの釣り糸が絡まったみたいでな、ちょっと解いてやってくれ。」


「うーす」


アーサーの釣り糸は川の中の石に引っかかったみたいだった。

「解けたよ」


「すみません、サスケさん。」


「いやぁ、いいよ。ー どう? 釣れそ?」


「どうですかね、今日はここへ来れただけでも嬉しいので

 ー 王には言えませんけど、釣れなくても、へへ。いいかなって」


「?」


アーサーは、何だか涙ぐんでいた。鼻が赤くなってる。


「どしたんよ、何かあったのか?」


「いえ、あの...おかしいのはわかってますけど..

 夢を見たんですよね、父の。」


「ー」


「川にいるからって、会いにきてくれって...」



それは何て言ったらいいのかわからない。ー川にいるって?

ふーん、川ね...。



「ー 会えるといいな」



頷いたまま下を向くアーサーの頭を麦わら帽子ごとぐしゃぐしゃと撫でつけて

俺は、アルの方を見た。

すでに焚き火の火は起こされている。


「アーサー、ここじゃなくって、もう少し上流行こうぜ。」

アーサーの顔を見ないで、上流を見たまま俺は聞いた。


「はい! ー行きましょう!」

釣り糸を手繰り寄せながら、アーサーは多分目も擦ってた。



健気すぎるだろ..。



「ちょっと先行っててー 」



自分の釣り道具を取りにアルのいる焚き火に向かった。



川の上を流れる空気が、まだ冷たい。水温もまだ低いだろう。

朝の7時くらいまでは魚もまだ動かないはずだ。

ま、朝マズメってやつですわ。





「俺、アーサーとちょっと上の方行ってくるけど

 ここ任せていい?」


アルは焚き火の前で座り込んでいて、頷いた。

手には小枝の葉っぱを持っていた。ー、だ、



〜〜〜〜〜〜ぐっ!!!



そういうとこだぞ、アル。

お前がなんか、弱ってるなって思うのは、そういうとこだ。

葉っぱなんか持ちやがって。...はぁ。ー。



ー 平気なわけ、無いよな。






王がザブンザブンと川を横切って出てきた。

バケツにはすでに魚が何匹か入っている。イワナかヤマメかなんかだ。


「昼飯にはありつけそうだぞ!」


嬉しそうっすね、王。





「ほら、行け、サスケ」

アルフレートは、俺に目配せするし

何となく俺も..行った。








「アルフレート、お前もこれ捌けるか?」


王はバケツの中の魚を見ながら、ウェーダーを脱いでいる。


「はい、とりあえずは。」


「じゃぁ、捌いてしまうかー」


2人は川辺にしゃがみ込んで、短剣で魚を捌いていく。

川の流れる音と時折魚を軽く洗う音だけが、2人を通り過ぎる。



「ー アルフレート。」


王はバケツの中に捌いた魚を放り投げた。


「は」





「ーお前とこうして何かするなんて、騎士団にいた以来だな」


「は」


「ー俺は、あの頃お前が羨ましかったよ」


「 ー 」


「モテるから、とかじゃなくってな。

 ー お前には強い意志があるから、それが、なんていうか...」


「王、おやめ下さい。 ー もったいなきお言葉です 」

アルフレートは、王の言葉をわざと遮った。





「違う、アルフレート。 ー お前の意志がそうであるように  


 ー 俺はお前を許さない」



「 ! 」




「俺はお前がしたことを許さない。」


アルフレートの中に何かが突き刺さるようだった。

ユージーンは真っ直ぐアルフレートを見た。





「ー ヘレナが お前を許しても」


アルフレートも、ユージーンを見た。

静かな薄い青い瞳が、怒りではない”意志”を称えている。




川に朝日が当たり始めた。ー 

王の瞳は、川を映した。小さく息を吐いた。






「だが、それは俺個人の意見だ。ー 王としては、まぁいいよ」


「?ー 」


「はは、こんなのヘレナに聞かれでもしたら半殺しに遭うかも。

 ーでも、お前がその立場で成さんとした意志は、認めている。


 お前は優秀すぎる。ー だから血迷ったんだよ。」


「 ー 」


「2回目の戦争の時は流石にお前をどうにかしようと思ったけどな

 ー、お前だろ、あの災害の中、あの国中を駆け回ってたの」


「そ、それはー、 ー、当たり前のことをしただけで...」


「あの国で、お前がなんて呼ばれているか知ってるか?」


「?」


「天から遣わされた白い使者、だと」


ユージーンは微笑んだ。


聖騎士の白マントは黒くなっても、アルフレートは気にせずに

災害のよりひどいところから順に、命あるものを助けて教会へ移動させていた。

教会では誰よりも働いた。


食べ物はみな分け合い、怪我のひどい者は隣国へ送ったり

医師団を引き連れてやってきた。ー 軍師の指示もあったが

ほとんどはアルフレートの意志だった。

彼に助けられた人間は多かったと、王は聞いていた。




「ー この国の誇りを、俺は臣下に持てて幸せ者だってことだ 」




王は立ち上がり、また川辺へ向かった。

歩き始めて、立ち止まり、言った。















「 俺は絶対に許さないけど ー


 

 


 ー 俺はヘレナをしあわせにする。ー 約束する。」












アルフレートはその背に首を垂れた。












木陰で、サスケはちょっと泣いている。

アーサーは全然釣れないし、この辺に変な輩が5、6人うろついていたから

お掃除しながら戻ってきた。そしたら、これである。



(なんかよくわからんが...謎の感動ありがとう。)



その時だ。

サスケの後ろで雑な殺気を振り撒きながら

先ほどの変な輩の親玉が狙って、これまた雑に直剣を振り下ろそうとしていた。






ドスン








「おい、忍者。ー 隙だらけだぞ」

アルは眉一つ動かさないで、親玉めがけて短剣を投げていた。

そのまま親玉は後ろへ無様に倒れていった。



ほらな、俺がさっきまでしてきた仕事なんて

アルのこの一発で帳消しなんだよ。


もっとさ、細かく俺の仕事内容をだな..

「アーサー殿はどうした」



「釣れてないね、あいつだけ昼飯抜きだわ」

鼻を軽く啜りながら川を見た。

まだ肌寒い、ポケットに手を仕舞い込んだ。




王は岩の上から釣り糸を垂らして川面を見ている。


アルはその姿を確認した後、俺を一瞥して

アーサーのいる川上へ向かって歩き出し、言った。




「ーおい、今日は飲みに出るぞ 」



「!」


サスケは立ち止まって、ポケットから手を出した。


「お、 いいね〜、その後、金魚屋行っちゃう?!」


「...お前は、懲りないと言うかしょうもない男だな」


「これぐらい当たり前だろ〜、チャレンジ精神あるって言ってほしいね」


「断る。ー お前のはチャレンジとは言わん。

 ー 節操がないと言うのだ 」


「ちぇっ、つまんねーなぁ」


「それより、家にこい。ー お前、チェスは?」


「チェス?あぁ、将棋のこと?」


「しょう、ぎ?」


「あぁ、俺らんとこでは”将棋”ってんだ。ーやってみる?」


「ー ああ、..そうだな。」


川上に近づきながら、会話が弾んでいた。






多分、アルの心もユージーンとの会話で幾分か晴れたんだろう。

きっと、ユージーンだって

アルの心を助けたかったんだ。

ー そうであってほしい。




自分が間違ったまんま、生きるのって苦しいもんな。

誰かに責められた方ががんばれることも、あるもんな。


だからさ

アル、お前がもっとしあわせでもいいと、思うんだよ。




俺はチート枠で転生したけど

全然主役じゃなかったし、ハーレムなんてもんもなかったし

多分これからもないんだろな。がっかりだよ、どこだよ、ハーレム。

謙虚に生きてるんですけどー。



だけど、ヘレナ王妃が光りながら手を振る姿を見た時に

誰かの幸せを願ったり

嫌なことが少しでも軽くなればいいって思ったんだ。




因果律ってあるだろ?


ー まわりまわって、自分とこに返ってくるらしい、よ。



もはやヘレナ王妃が光っていたことを

誰も突っ込まないし、俺もスルースキルを身につけた。








「 サスケさぁぁぁぁぁん!!!!



 おっきぃーい フナぁ〜ぁぁぁぁぁ、釣れたぁぁぁぁ!!! 」



アーサーが喜び叫んでる。

あぁ、それはここの川のヌシだな。




「アーサー!! そのフナは”キャッチ アンド リリース”だ!!


「えー? すばしっこくって釣るの大変だったんですよー。」



「いーや、ヌシはやめといてやれ。

 川の守り神だからなー な。」







川に戻されたフナは御礼か、川面を蹴るように飛んだ。

同時に大きな水飛沫が上がって、キラキラと辺りが光ったように見えた。






フナの祈願は成就されたと言っていい。

やったな、フナ。



***







ルイは、兄の元に生まれた赤ん坊を見ている。


「うわぁ、小さいな」


眠った赤子を見たルイは触りもせず、ただ見ていた。

マリエルが抱っこを勧めても、頑なに拒否する。


怖い、どれほどの力加減で抱っこしていいかもわからないし

もし落としたらと思うと不安になった。



その赤子の名を、ロナルド、と言う。


目が覚めたロナルドは、ルイを見つけて目を丸くしたまま

動かなくなった。



「ね、義姉さん!!!な、なんかロナルドの様子がおかしいよ!」


「え?ー お腹は空いてないと思うんだけどな〜」



そう言いながらマリエルの胸に抱かれた赤子は

ルイをガン見したまま、まだ動かない。目がくりくりだ。




「あ”~ぅ、ゔ〜ぅゔ!!!」

小さな両手をルイに向けていっぱいに広げる。





「ふふ、やっぱり抱っこしてほしいんだよね〜。」

マリエルはほほえんで、ロナルドをルイに近付ける。



「え゛〜!?、こ、こわいな...」

「大丈夫。首だけ座ってないから、そーっと首を支えてね」




小さくて、柔らかい、真新しい人間。

いや、まだ人間ぽい何かだ。



ルイは恐々と抱っこしてその赤子を見る。

その赤子は未だルイをガン見している。

両手をルイの頬にペチペチと触っている。小さな足もバタバタしている。


「ロナルドはルイお兄様が大好きなのね、ふふ」


マリエルはそう言いながら、タオルを取りに隣の部屋へ行った。





「あ゛ゔ!!ゔ〜っ!ゔっ」

何か一生懸命な姿がいじらしくもあり、かわいい。




よくわからなかったけど、ルイはなんだか優しい気持ちで

ニコニコと赤子を見下ろす。


ルイは赤子の何かに頷いている。


赤子のロナルドは小さな口をパクパクさせ、ニコッと笑う。



ニコニコしながら、涙を、流していた。






















「あぁ、そうか。 ー 君なんだね、ロレンツォ。

 

 ー 待ってたよ、 ー おかえり。ー 」










その半月後

王妃ヘレナは第一子 ディアロス・V・エルンハスト を出産する。



完全に蛇足だが

ディアロス・V・エルンハストの ”V” は

ヴィクトリーの ”V" で、ある。




名付け親は アルデラハン王、カインだ。




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王妃は転生したら町娘になりたかったのに秘めた思いを炸裂させた将軍に溺愛される令嬢になってめんどくさいお国事情に巻き込まれるけどなんやかんやで幸せになりました @madam_R

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