毎日小説No.41 アンタ、何股してるの?

五月雨前線

1話完結

「アンタ、一体何股してるの!?」


 くうううう! そんな質問をぶつけられる日が来るなんて! 最高だ!


『元』非モテ大学生の俺、恋沼こいぬま重人しげとは目の前の女子からビンタを喰らいながら、それでも絶えず笑顔を浮かべていた。


 彼女いない歴=年齢だった俺が、「何股してるの?」なんて質問される日が本当に来るとは。俺は数週間前に訪れた神社を思い出し、ありがたや〜と手を擦り合わせた。


「何笑ってんのよ! キモイんですけど!」


「ぶふぉっ!!」


 再度ビンタをかました女性は肩を震わせながら立ち去ってしまった。もうその女子と会うことは2度とないと思ったが、俺は一切悲観することはなく、別の女子に電話をかけた。


***

 数週間前、都内のハズレにある神社を訪れたことで、俺の人生は劇的に変わった。


『お願いします! 死ぬ程モテたいんです!』


 諭吉3人を賽銭箱にぶち込み、じゃらんじゃらん鈴を鳴らしながら絶叫したその時、俺の耳には確かに「分かった」という声が届いていたのだ。神様が俺の願いを聞き入れてくれたに違いない、と俺は大喜びした。そして実際に、その予想は現実のものとなった。


 今まで見向きもされていなかった女子にいきなり話しかけられ、やがて告白された。その次の日には複数の女子から告白されてしまった。非モテ男子が一瞬の内にモテモテ男児に生まれ変わったのである。告白してくれた女子は皆可愛かったので、俺は全ての告白を了承してしまった。一瞬の内に、三股男に成り上がってしまったのである。


 浮気は悪、という考えには一切至らなかった。今が人生のフィーバータイムだ、楽しまなきゃ損、という考えに思考が占有されていたのである。


 1人の女子に振られても、すぐに数人の女子が現れて仲良くなる。同時に付き合う人数がどんどんを増えていき、最終的に20股という異次元の状態に至ってしまった。


 そこまで至ったところで、馬鹿な俺でもようやく「まずいかも」と思い始めた。しかし、遅すぎた。ある日1人の女子とデートしている最中、他の19人が一斉に殺到し、俺はなすすべなくボコボコにされてしまったのである。


たかが女の力、と侮るなかれ。『浮気した恋沼重人をボコボコにする』という目標の元で団結した女子達によって俺はあっという間に組み伏せられ、数時間にわたって殴る、蹴る、刺すの暴行を受け続けた。女子達がようやく満足した頃には、俺は内臓破裂と出血多量で既に絶命していたのだった……。



***

「ようこそ天国へ。予想以上に来るのが早かったのう」


「て、天国!? てかアンタ誰!?」


「誰、とは失礼な。お主の願いを叶えてやった神ではないか」


「願い? あ、あああ! あの神社の神様か! おい、話が違うじゃねえか! 19人の女子にボコボコにされるなんて、聞いてねえぞ!」


「私はお主の願いをちゃんと叶えてやったぞ? 『死ぬ程』モテたいと言っていたではないか。だからお望み通り、天国に来れるように取り計らったのだ」


「……そ」


「ん?」


「そういうことじゃねええええ!!!」




                           完






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