毎日小説No.40 呪われたカメラ
五月雨前線
1話完結
俺の名前は
アマチュアとはいうものの、撮影技術はプロのレベルに達していると自負している。カメラマンだった父親の影響で幼少期からカメラと親しみ続けてきたし、実際に写真の賞を幾つもとったことがあるのだ。将来カメラマンになることを目標に、様々な写真を撮る日々を過ごしている。
そんな俺はある日、いつもの日課で近場の撮影スポットに足を運んだのだが、ふとした拍子に愛用のカメラを落としてしまった。生憎岩場の近くを歩いていたため、バイト代をはたいて買ったカメラは落下した衝撃で破損してしまったのである。
カメラを愛し、毎日何かしらの写真を撮っている俺にとって、愛用のカメラの破損というのはかなりの痛手になった。すぐに俺は行きつけのカメラ屋に足を運んでみたが、破損の具合がひどく、使用時間も長いことから、新品を購入することを勧められてしまった。
本格的なカメラというのはかなり値が張るものだ。今月、新しいゲーム機の購入やら服の新調やらソシャゲの課金やらでかなりお金を使っていた俺にとって、新品のカメラを買うお金を払う余裕はなかった。
どうする? 中古のカメラで我慢するか? いや、でもそれだと性能が劣る。ならば借金してでも買うか? でも借金は……。
悶々と考えながら街中を歩いている内に、気付いたらいつもは立ち寄らない裏通りに迷い込んでいた。見慣れぬ場所をきょろきょろと見回していると、『カメラ 格安で売ってます』という看板の文字が目に入った。どうやら、目の前のこぢんまりとした建物でカメラを売っているらしい。お目当てのカメラが売ってるかもしれない、と思い店の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。カメラお探しですか?」
奥のテーブルに座り、カメラをいじっていた初老の店員が声をかけてきた。さびれた外見とは裏腹に、室内は明るくて清潔感があった。狭い空間の中に複数のショーウィンドウが備え付けられ、様々な種類のカメラが所狭しと陳列されている。
「あ、はい。ニコンSP1080って売ってますか?」
「SPの1080……これですね。新品で、税込2980円です」
「に、2980円!?!?」
あまりの値段の安さに俺は目を丸くした。そんな値段、聞いたことがない。中古のカメラでさえ安いくらいなのに、新品でその値段なんて……。
「安すぎて怪しい、といった顔をされていますね」
「あ、いやその……」
「ほっほっほ。いえいえ、不審に思うのも当然ですよ。まあ、あれです、閉店セールというやつでしてね……」
人の良さそうな店員の顔が僅かに陰り始める。
「ずっと売れ残っていては、このカメラ達が可哀想だと思いましてね……。信じられないような安値でも、売れないよりはマシかなと思いまして」
「なるほど……」
そういう事情だったのか、と納得した俺は、店員の了承を得てカメラを触らせてもらった。性能面に問題はなさそうだ。俺はその場でカメラを購入し、店を後にした。
***
格安でカメラを購入してから、数週間が経過した。
カメラの調子はすこぶる順調だ。以前よりも良いアングルで写真を撮れる回数が増え、より撮影の幅が広がったようにも感じる。
しかし……新たな悩みが一つ生まれてしまった。最近、俺が撮った写真に変なものが映り込むことがとても多いのである。
ある時は、謎の影。ある時は、謎の光。さらに酷い時は人の手や足、さらに人の顔まで……。折角頑張って撮った写真が、気味の悪い心霊写真へと変貌を遂げてしまったことが多々あるのだ。今までこんなことは一度もなかったのに……。
ある日、大学でそのことを友人に相談すると、「そのカメラ、呪われてるんじゃない?」と言われてしまった。
「そんな縁起でもないこと言うなよ」
「だってさ〜、その新しいカメラ使い始めてから、心霊写真が撮れるようになったんでしょ? どう考えてもそのカメラが怪しいじゃん。路地裏の怪しい店で買ったんでしょ?」
「怪しい店っていうか……。まあ、大手の店とかそういう感じではなかったけど」
「てかさ、本当に心霊写真なの? フィルムの汚れとか、光の具合で怪しく見えてるだけなんじゃないの? そういう話よく聞くけど」
そんなことはない、と言って写真を見せてみたが、友人の反応はイマイチだ。
「よく分かんないなぁ。てか、今そのカメラ持ってるの?」
「持ってるけど」
「じゃあさ、今私をカメラで撮ってみてよ! 大学のキャンパスの中で、本当に心霊写真が撮れるのか見てみたい!」
友人はそう言って、笑顔を浮かべながらピースサインを向けてきた。大学内でカメラを取り出す機会は少ないのだが、美人と評判の女友達の笑顔をカメラに収めるのは悪い気はしない。俺はカメラを取り出し、シャッターを切った。
瞬間。
俺の視界が真っ赤に染まり、黒いボディのカメラにも鮮血が飛び散った。
シャッターを切ったその瞬間。友人は口から血を吐き、そのまま後ろに倒れ込んでしまったのだ。
倒れ込んだ友人の全身から血が滲み出ており、体はぴくりとも動かない。賑やかな雰囲気だった食堂は一瞬の内に悲鳴で満たされ、倒れた友人に、そして血塗れでカメラを持つ俺に沢山の視線が向けられる。
何だ? 一体、何が起こった?
俺はその場で呆然と立ち尽くし、動かなくなった友人を見下ろした。ほんの数十秒前まで会話を交わしていた友人が、死んでいる。脳がようやくその事実を理解し、俺は叫んだ。狂ったように叫び続ける俺の両手の中で、鮮血を浴びたカメラが鈍い光を放っていた。
***
その事件後、俺は警察署で事情聴取を受けた。しかし、俺に答えられることは何もなかった。友人に写真を撮るように頼まれ、言われた通りにしたら友人は死んだ。それだけだった。俺は混乱していたし、警察はそれ以上に混乱していた。
カメラは警察に提出していたが、事件との関連性は低いと判断され、1週間後に俺の手元に戻ってきた。血に塗れていたカメラは今やすっかり綺麗になっている。俺はそのカメラをじっと見つめた。
一体何なんだ、このカメラは?
心霊写真が撮れたり、撮影したら友人が死んだり、不可解なことが多すぎる。もしかしたらこのカメラは呪われているのだろうか?
不審感がどんどんと膨れ上がっていく。しかし、このカメラを手放すことは出来なかった。大規模かつ有名な写真のコンテストの締切日が迫っているのだ。カメラマンを志す人間として、このコンテストで大賞をとることがずっと前からの目標だった。今更新しいカメラを買う余裕もないし、このカメラで勝負するしかないのだ。
友人の不可解な死のせいで、何となく気持ちがモヤモヤしていた俺は外に出て、カメラのシャッターを切った。心が落ち着かない時、悲しい時、苦しい時は、外に出てカメラのシャッターを切る。それが俺のストレス解消法だった。
しかし、結果的にその行動はストレス解消にならなかった。撮った写真に、人間が写り込んでいたからだ。以前とは比べ物にならないほど、鮮明に。そしてその人物は、1週間前に不可解な死を遂げた友人に他ならなかった。
「そんな……」
今までの心霊写真とは明らかに違う。顔や体がはっきりと映り込み、まるで「自分はここにいる」と主張しているかのようだ。得体の知れない恐怖に震え、俺はその場から逃げ出そうとしたが、見知った人物が立ち塞がった。
「気付きましたか、そのカメラの異常さに」
以前裏路地の店で俺にカメラを売ってくれた老人だった。漆黒の和服を身に纏った老人は気味の悪い笑みを浮かべながら、俺が手にするカメラをじっと見つめている。
「そのカメラは呪われたカメラなのです。被写体となった人物を殺し、やがて使用主すらも呪う悪魔のカメラ。貴方は知らず知らずの内に大勢の人間を殺していたんですよ」
「大勢の……人間……?」
「貴方はカメラ好き故、様々な場所でそのカメラを使って写真を撮っていたはずです。写真を撮るたびに呪いの力が発動し、周囲の誰かが死ぬ。理不尽に殺された人々の怨念が写真に映り込み、心霊写真が完成していたというわけです」
「そ……そんな……」
真実を突きつけられ、俺はその場で膝から崩れ落ちた。俺は、人を殺すために夢中でシャッターを切っていたというのか……?
「絶望に打ちひしがれているようですね。しかし、案ずることはありません。すぐに貴方もそちら側に行くんですから」
老人はあっという間に距離を詰め、俺からカメラを奪い取った。
「最後はカメラの使用主が死ぬ。そうすることで、呪いの連鎖は永遠に続いていくのです」
老人の手によってシャッターが切られた。抗う術がないことは、この前の友人の死を見たからよくわかっている。俺は血を吹き出し、絶命した。
***
「ねーねー知ってる? 呪いのカメラの話」
「呪いのカメラ? 何それ? 呪いのビデオ的なやつ?」
「そうそう! シャッターを切られたら死んじゃうカメラがあるんだって! この前、近くの大学で死亡事故があったじゃん? その事故が呪いのカメラによって引き起こされたっていう噂があるんだよ〜」
「え〜こわ……。あ、カメラっていえばさ、そのカメラ、新しく買ったの?」
「うん! 路地裏を歩いてたらカメラ屋さんがあってね、すごい格安でカメラを売ってたの! 閉店セールだったから安く買えちゃった!」
「いいね〜! あ、そうだ、試しに私の写真撮ってみてよ!」
「いいよ! ハイチーズ!」
かしゃっ。
完
毎日小説No.40 呪われたカメラ 五月雨前線 @am3160
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