第5話 真実へと


「綺麗な石……」


 あ、俺たちが異世界に飛ばされることになった、あの石か。


「そう! あの石はとんでもない石でね……なんと、戦神『オーディン』の力が眠っている石なんだ!」


「お、オーディン……?」


 何かのゲームで聞いたことがある。確か、北欧神話に出てくる戦い・知識の神かつ最高神で、最強クラスの力を持つ者だ。そんな奴の力がこもった石が、どうしてあんな所に落ちていた?


「あれは、オーディンが死ぬ間際に作成した『力の貯蔵庫』のようなものなんだ。彼が使用していた魔術や知識など、様々なものが入っている。肉体がないことを除けば、ほぼオーディン本体と言っても過言では無い、それの管理をボクが任されていたんだが……」


「?」


「目を離した隙に消えちゃって……ボクの特殊な術を使って探しても、見当たらなかった。そんなことを繰り返していたある日、ついに反応があった。それが……」


「俺と大吾が拾った時ってことか」


「ご名答。ボクの推測だと、あまりにも強大な力が留まり続けていたものだから、空間のねじれが発生し、そこから異世界――キミのいた世界にワープした、と見ているね」


 なるほど。つまり、大きすぎる力のせいで石がバグっちゃって、偶然俺のところに来たと。理解した。でも、だったらなんだ? 石を取り戻しにきただとか言うのか? あいにく、俺は石の場所なんて知らないぞ?


「で、キミの所まではるばると来てみたんだが……どうやら、オーディンの力は既に君が取り込んでしまったみたいだ。心臓の辺りに、その反応を感じる」


「な、なんだって!」


 驚いた。じゃあ、あの馬鹿げた力はオーディンの力だったということか。……これ、まずいんじゃないか? 俺が殺されて、オーディンの力だけ抜き取られる……みたいなパターンのやつじゃないか? これ。


「でも、キミはもうあの石をボクに返すことが出来ない。だから、キミにはその力を利用してボクの手伝いをしてもらおうと思うんだ」


「手伝い?」


「そう、手伝い! この世界にはボクでも倒せないほど強大な『四魔獣』と呼ばれるモンスターがいてね……こいつらは、ボクが目指している『オーディン復活』を妨げる存在なんだ。もし四魔獣を全て倒すことが出来たら、オーディンを復活させることができる! だから、奴らをキミの力で倒してほしいんだ!」


「な、なるほど……?」


 俺はかろうじて理解した。要約すると『四魔獣悪いし強い! オーディンの復活阻止する! だから手伝って!』ってことだろ? 把握。


「もちろん、何のお礼もなしって訳じゃないさ。オーディンが復活したら、その知識とパワーで知りたいこと何でも教えてくれると思うよ! なんたって、知識の神でもあるからね。で、その知識を持った状態で元の世界に戻れる! どうだい? 悪い話じゃないだろ?」


「ふむ……」


 普段だったら、こんな怪しい頼み事なんて絶対受けない。でも、ちょっと気になる……惹かれるものがあったのだ。


「もしオーディンを復活させた場合、本当に何でも教えてくれるのか? 例えば、概念的なもの……『本当の自分を出してもいいのか』みたいなのでも」


「ああ、多分ね。これ! っていう正解を出せなくとも、絶対に役に立つだろうね」


 よし。それなら、俺が狙っていることも出来そうだ。


 俺はさっき浮かんだ『本当の自分を出したもいいのか』という問いの答えを、まだ出せていない。多分、このまま普通に生活していても出せない気がする。


 でも、四魔獣討伐の旅――長く厳しい戦いを通していけば、きっと何かしらのヒントを得られるはずだ。そして、自分で答えを見つけ、最後オーディンに答え合わせをしてもらう。ついでに、元の世界に帰る。失踪したまんまだと、面倒なことになるからな。


 今までの俺なら、こんなこと考えても実行に移せなかった。だけど、せっかくの異世界。せっかくの力。そして、本当の自分を出して、人を救えたという経験。今ぐらい、やってみるのもいいだろう。


「わかった。乗ろう、その話」


「引き受けてくれるのか!」


「ああ、俺には目標がある。そのいい機会として、利用させてもらうぜ」


「ふふふ、どうも」


 よし、とりあえず決まった。この先、多くの困難が待ち受けてるはずだ。でも、大丈夫。勇気を出して手にしたチャンス、この俺がミスするか? いや、絶対ものにしてやる。


「じゃ、俺はもう1人の少年のところにも行かなきゃいけないから〜。また呼んでくれたら、いつでも行くよ。じゃあね」


 ロキはそう言って、空の彼方へと飛んで行った。


「……ねぇ」


 ヴァルキリアが話しかけてきた。


「どうした? いきなり」


「今の話っっっ! めっちゃワクワクしたぁぁぁぁぁ!」


「!?」


 あまりのテンションの高さに、身体が少し仰け反る。どうした急に。


「私、人助けだけじゃなく、冒険にも憧れてて! 今の話聞いてて、めちゃくちゃテンション上がってきたの! どうかな! 私もその冒険、連れて行ってくれないかな!」


「むむむ……」


 悩ましい。一人旅は心細いし、現地のことをよく知っている人がいると、心強い。でも、彼女を守ることが出来るのだろうか。今の俺だと、彼女を守れないと思う。本当は、連れていきたいのだが……


「ま、それもまずは家に着いてからだね! お父さんとお母さんに許しを貰わないといけないし……」


「そうだね、着いてから考えよう」


 それがいいな。まだ彼女の実力も分からないし(剣さえ持てば強かったりしてね)ここで決定させるのは早計というものだ。


「じゃ、とりあえず行きましょうか!」


「うん。行こう!」


 俺たちは離れていた手を再度取り合う。こんな行動できるのも、彼女がいるからか。


 この旅は、俺が経験したことがないことだらけだろう。でも、そんな旅だからこそ、俺なりの答えが出せるはずだ。


 俺自身のQEDを見つけるまで、止まる気はない。さぁ、行こうか。


 美しく残酷な世界へ向けて、俺たちは手を取って走り出す。この先に何があろうとも、それを乗り越えるだけだ。


――






「英雄の少年、戦神の少年共に動き出したか。英雄が目覚めるかは分からないが……戦神の不安定さは興味深い。ふふふ、楽しくなりそうだ」

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仮面の心のQED〜戦神を宿し少年よ。己の解を見つけるため、果てなき世界を駆け回れ〜 大城時雨 @okishigure

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