連作短歌「身近なモノ」

虹岡思惟造(にじおか しいぞう)

連作短歌「身近なモノ」

まっさらな白のスニーカー靴箱の奥から前に並べ春待つ


手に持てばずしりと重いペーパーナイフ失意の日々の記念品


高級な時計はいつか失われ残った安物が今を刻む


突然に電動シェーバー停止する寿命の尽きし蝉の如くに


ワンコインショップで買った老眼鏡トイレの中にも風呂場にもある


お互いに気に入り買ったマグカップ今も戸棚に仲良く並ぶ


それぞれに好みのカップ取り出して何気にお茶する午後の一時


ホッチキス電子化ペーパーレスとなり出番少なく引き出しの隅


君から借りた雨傘がそこにある半年ほどもその位置にある


引き出しの奥からレイバンサングラス掛けておどけて妻に見せたり


妻逝きて一人故郷に帰るとや引っ越しの荷のサボテンの鉢


四六時中一緒の点滴スタンドに感謝を込めてシャルウィダンス


ポット沸く読みかけの本伏せ置きてドリップ珈琲の封を切り取る


裏返しされて置かれたカレンダー友見舞う病室のテーブル


選挙カーの連呼する声聞こえ来る政治に無縁な部屋のポトス


リビングに置かれて二十有余年ベンジャミン葉を落とす日増えり


新築の祝いに貰ったベンジャミン我と余命を競いて生きむ


歳時記は書棚の奥に仕舞われて手に取る事の絶えて久しき


スマホとふ身近なモノに依存する者の多かり今の世の中


形あるものは必ず壊れると知れば身近なモノも愛おし

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

連作短歌「身近なモノ」 虹岡思惟造(にじおか しいぞう) @nijioka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ