(8)元の世界へ帰らせてください


「ダイレクトアタックをトリガーにトラップ発動だ。『起死回生のクロスカウンター』の効果で、にダイレクトアタックで受けたダメージと等しいダメージを対象のプレイヤーに与える」

「このターン、だと?」

「この三分間、と言った方が良かったかな」


 この世界に飛ばされる前、蓮にも使った悠真のカウンタートラップ。


 80のダメージを受け、パンチョビのライフが一気に60まで減る。これでライフは同点だ。


「クソッ! それがお前の切り札か。だが、ここで俺を倒せなかったのは残念だったな。お前の残りライフは60でトラップもなく、モンスターに囲まれている。オレ様もライフは60しかないが、近くにいるモンスターはザコのゴブリンが三体だけ。もう勝負は決まったようなものだ! ガハハハハハハ!!」


 パンチョビが汚い歯を見せて笑う。

 そんな顔をしていられるのも今だけだ。


「汚い顔で笑うのは、俺のライフを0にしてからにしなよ。『鬼親分オヤブリン(コスト3)』を召喚だ」

「今さら1体モンスターが増えたところで!」

「さらにオヤブリンのスキル『コブリン決死隊』を発動。コブリンX体を生贄にすることで対象に20×Xのダメージを与える」

「コブリンを生贄にしたスキルアタックだと?」


 数えるまでもない。

 フィールドにいるコブリンの数は三体。

 今、パンチョビがそう言ったばかりだ。


「コブリンを三体を生贄に60ダメージ。対象は……アンタだ、パンチョビ!!」


 コブリンがパンチョビに向かってロケットのように飛んでいく。


「そんなバカな。この俺が、負けるだと!? ぐわあああぁぁぁ!!」


 パンチョビのライフが0になり、バリアが砕け散った。

 悲鳴を上げてパンチョビが倒れる。

 

 ……え? まさか死んじゃった?


 そこまでやる気はなかったんだけど。

 思わずパンチョビへと駆け寄る。

 良かった。気絶しているだけだ。


「やった! やったよ、悠真!!」

「まあ、私は悠真が勝つって信じてたけどね」

「ハハッ、よく言うよ」


 悠真は蓮、陽菜とハイタッチを交わす。


「パンチョビに勝っちゃったペギ……。悠真なら、もしかしたら」


 そんなペギーのつぶやきも、勝利の余韻に浸っている三人の耳には届かない。


「じゃあ、さっさと頂上を目指すわよっ」

「そうだね。早く戻らないと塾に遅れちゃう!」


 悠真たちは山頂を目指して歩き出し、ペギーは黙ってついてくるのだった。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



 青白い光の球が浮かんでいる。

 ついに到達した目的地。


「教室で見たやつと一緒……な気がする」

「でも、どうすれば帰れるんだろう?」


 この世界に飛ばされた時、悠真たちは何もしていない。光球が勝手にやったことだ。


 今、三人は光球の前に立っている。

 しかし元の世界に戻れそうな気配はない。

 もう頼れるものはひとつだけ。


「ペギーはなにか知らない?」

「……本当に帰っちゃうペギか?」


 蓮の質問に、ペギーは質問で答えた。


「え?」

「悠真ほどの力があれば、こっちの世界で英雄になることだってできるペギ」

「あはは。悠真が英雄って。そんな大袈裟な」


 笑いながら言った陽菜の言葉に、ペギーは強い口調で反論してきた。


「大袈裟じゃないペギ! 自分勝手に暴れているサマナーは、パンチョビだけじゃないペギ。みんな困ってるペギよ。ずっと助けを待っているペギ!!」

「そ、そんなこと言われても……」

「そうよ。早く帰らないとママだって心配するし。ねえ、悠真?」


 ペギーの態度に動揺を隠せない蓮と陽菜が、悠真に同意を求める。

 そうだ。ペギーが求めているのはサマナーである悠真だ。悠真が断れば、ペギーも諦めるしかないだろう。


「…………ああ、そうだな」


 その言葉に、ペギーは明らかに落胆の表情を浮かべた。


「そうペギか。仕方ないペギね。……その光の玉に手をかざして、心から『帰りたい』と願えば、元の世界に帰れるはずペギ」


 元の世界へ帰れる方法。

 それを知ることができたというのに、三人の心は晴れない。


「ペギー……、ありがとう。それと……ごめんね」と蓮が鳴きそうな顔で謝る。

「気にしなくていいペギ。わがままを言って悪かったペギ」


 ペギーの言葉が本心ではないことは、三人だってわかっている。本当は助けて欲しいのだろう。


 だけど、どうしようもない。

 三人は光の球に手をかざした。


「「「元の世界へ帰らせてください」」」


 青白い光球が大きく輝き、悠真たちはまたしても気を失った。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



「悠真! 悠真!」


 誰かにホッペを叩かれて、悠真は目を覚ました。

 

「んん。そっか、俺たち元の世界に戻って――」

「戻ってないペギ!! 悠真たちは光の中で倒れただけペギ!!」


 横を見ると、ペギーが翼をペチペチと悠真のホッペに当てていた。

 すぐ近くに、蓮と陽菜も倒れている。


「つまりこれは……帰るのに失敗した?」

「そういうことみたいペギ」

「仕方ない。ふたりを起こしたら、もう一度試して……あれ?」


 倒れる前までそこにあったはずの、光球がなくなっている。


「さっき大きく光ったあと、消えちゃったペギ」

「……マジか」


 どうやら悠真たちが元の世界に帰るのは、まだまだ先の話になりそうだ。




      【序章・了】

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【短編】異世界デュエル【20,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya

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