2022-2023 年末年始特別短編 第2弾1/2

【初売りショッピング】

「あの、これはどういうメンバーなのでしょうか」


 淡雪は声をかけてきた女郎花に尋ねた。同じことを聞きたいという顔をしている紅花と、にこにこしている女郎花と鈴蘭。四人が本部の一階の玄関に集まっていた。


「お洋服の初売りショッピングに行きましょう! っていうメンバーよ。比較的見た目の年齢が近い人たちに声をかけたのよ」

「元々、私とおみおみの二人の予定だったんだけど、せっかくなら他にも誘いたいなーってなって。で、この四人になったわけ」

「そういえば、鈴蘭、ミイも誘うって言ってなかったかしら?」

「なんか、今日もこたつに捕まってるらしい」

 鈴蘭が不思議そうな悔しそうな顔をしながら言った。


「淡雪も紅花も、そういうことで、ショッピングに付き合ってくれるかしら」

「私はいいですよ。楽しそうですし」

「私もです」


 淡雪と紅花の答えを聞いて、満足そうに笑った女郎花に続いて、車に乗り込んだ。女郎花が運転してくれるらしい。


「色々とお店巡るよー! ねえ、皆は普段ってどんな感じの服着てる? じゃあ、紅花ちゃんから」

「そうですね……あまりこれといったこだわりはないですね。落ち着くというか、癖で赤色を選ぶことは多いかもしれません」

「確かに、私服でも赤色のイメージあるわね。淡雪は?」


「ワンピースが好きなので、ついついそういう系統のものに偏っちゃいます」

「淡雪さんの雰囲気に合っていて、いいと思います。今日のも素敵ですし」


 紅花が、淡雪のニットワンピースを見て、そう言ってくれた。褒められて素直に嬉しくて、顔がゆるんでしまう。


「鈴蘭は、私服も女子高生みたいな系統よね」

「だって可愛いんだもん。そう言うおみおみは、すらっとしたやつ選びがちだよね」

「そうねえ」


「女郎花さん、スタイルいいから映えますし。ね、紅花ちゃん」

「はい。足長くて羨ましいです」

 それほどでも~と満更でもない女郎花の反応に、紅花と顔を合わせて微笑んだ。


「じゃあさ、今日は普段と違う洋服を見に行こうよ。新しい年になったし、新しい自分に出会えるかもよ」

「楽しそうですね」


 店に着いてまず、試着をしたのは、女郎花だった。いつもとは違う、だぼっとしたゆるいシルエットの洋服を着ている。普段のポニーテールも下ろして、ストリート系の綺麗なお姉さん、という仕上がりになった。街中を歩いていたら、モデルに間違われそうだ。


「おみおみ、めっちゃいいじゃん!」

「だいぶ雰囲気変わりますね」

「綺麗だし、かっこよくて、いいですね」

「自分だと選ばない服だけど、皆に褒めてもらえて、テンション上がったわ~」


 次に試着をしたのは紅花。鈴蘭の強い希望で、ゴスロリ風のフリフリのミニ丈のワンピースを着ることになった。ワンピース自体は紺色でおとなしめの色だが、装飾のリボン、フリルが可愛さ満点だ。


「あの、これはさすがに……」

 紅花は、一応言われるがまま着たものの、鏡を見て苦笑いをしている。


「紅花ちゃん、可愛いわ。自信を持って」

 淡雪は思わず食い気味に言った。女郎花も鈴蘭も首がもげるんじゃないかというほど、大きく頷いた。


「めちゃくちゃ可愛いよ!! お人形さんみたい!」

「鈴蘭がゴリ押ししたからどうなるかと思ったけど、大正解だったわね」

 店員さんがうずうずして、髪を巻いてもいいですか、と声をかけてきた。戸惑う紅花の代わりに、鈴蘭がいいですよーと答えていた。黒髪があっという間にゆるふわスタイルになって、さらに可愛くなった。


「可愛いー!」

「素敵ですー!」

 鈴蘭と店員さんが、一番テンションが上がっていた。紅花本人も、見慣れてきたのか、嬉しそうに鏡を見ていた。


「よし、次は私の番ね!」

 鈴蘭は、シンプルなタートルネックとマーメイドスカートを合わせて試着室から出てきた。ついつい可愛い洋服に手が伸びていたが、店員さんにシンプルなOLさんみたいなやつで! とお願いして、コーディネートが完成していた。


「おおー、いいわね」

「素敵です。都会の女の人って感じです」

「さすが、似合いますね」

「えへへ、ありがと。じゃあ、最後は淡雪ね」


 淡雪が着たのは、白と黒を基調としたモード系の服だった。試着室の鏡に映った自分の姿に戸惑ったけれど、行きの車で鈴蘭が言っていた新しい自分、だと思えば、悪くないかもしれない。


「淡雪ー、着替えられた?」

「あ、はい。どうでしょうか」

 おずおずとカーテンを開けて皆に披露した。


「あらー、いいじゃない!」

「淡雪さん、かっこいい系のも似合うんですね」

「おさむんもびっくりしちゃうね、いい意味で!」

「えっ、その」

 修の名前が出て、つい慌ててしまった。修が見たら何て言うだろうか。褒めてくれるだろうか。


「さてさて、一通り新しい自分に出会えたかしら。せっかくだから、さっき着たの全部買ってくわよー!」

「え、私の着た服、けっこう高価なものだったので、ちょっと厳しいかもしれないです……」

 紅花がしょんぼりしながらそう言った。案外気に入っていたらしい。淡雪も、さっき着た服はけっこう気に入ったのだが、お値段はあまり可愛くない。


「ふっふっふ、女郎花お姉さんが、お年玉として買ってあげるわよ〜」

「え」

「いいんですか」


 淡雪と紅花は顔を見合わせた。お年玉をもらえるなんて。でも、素直に嬉しいものは嬉しい。


「やったー! ありがとう、おみおみ」

「ちょっと鈴蘭、あなたはあげる側でしょう。忘れがちだけど、ワタシよりあなたの方が年上よ?」

「えー、細かいことはいいじゃんいいじゃん」


 結局、女郎花と鈴蘭に服を買ってもらい、その後も雑貨を見たり、カフェにも行ったり、盛りだくさんなショッピングの一日になった。



【お正月遊び、本気】

「マフラーおっけー」

「帽子おっけー」


 あさひは、ゆうひと向かい合って、防寒の確認をした。本当はイヤーマフもしたいが、手袋を通じたお互いの声が聞こえにくくなったら困るので、諦めた。


「あれ、二人ともお出掛け?」

「あ、葵ちゃん」

「あ、葵ちゃん」

 後ろから話しかけられて、あさひとゆうひは同時に振り返った。


「お正月らしい遊びをしようって話になって」

「羽根つきをすることにしたんだ」

「いいね、楽しそう。ん? でも羽子板が四つある」

 葵が、あさひとゆうひで二つずつ手に持っている羽子板に目を向けた。


「主任と才さんを誘ってみたけど、断られちゃって」

「大人がやってると目立つからって」

「お父さんってことにすれば別に大丈夫そうなのにね」

「そうすると、パパ友? の輪に入れられて面倒らしいんだ」

「あー、なるほど……」


 一度その方法で修と公園に行ったことがあったが、あっという間に輪に飲み込まれていて、大変そうだった。


「じゃあさ、あたしが行ってもいい?」

「えっ」

「いいの」

 あさひとゆうひは、シンクロした動きで顔を見合わせた。


「あたしだったら、子どもの見た目だし、大丈夫だよね。あ、でもあたしが入ったら奇数になっちゃうか……もう一人見た目が子どもの人、連れて来るね!」


 一気に言うと、葵は二階に駆けあがっていった。どうしようか、と思いつつ、葵が戻って来るまでそのまま待っていた。


「はい、トキちゃんです!」

「えっと、トキです。見た目、子どもです……?」


 葵に連れてこられたトキは、事情を何も説明されていないようで、よく分からない自己紹介をしていた。二人で、トキに事情を説明すると、ようやく笑顔になって、一緒に行くと言ってくれた。


「トキちゃん誘う時に、灯さんも見た目子どもだから来ます? って聞いたら、即答で行かないって言われちゃった……」

「灯さん、見た目小さいの気にしてるから。あ、これ内緒ね」


 葵とトキの内緒の会話が、あさひとゆうひにも聞こえてしまっていて、苦笑いをした。


「じゃあ、四人で行こうか」

「はい、お邪魔します! あさひさん、ゆうひさん」

「あ、トキちゃん、敬語じゃなくていいよ」

「普通に話してくれていいよ」


 本部の歴でも年数でも上のあさひとゆうひに気を遣ってくれているようだが、正直、敬語を使われることに慣れていなくて、むずかゆくなる。そう伝えると、トキはおずおずと聞いてきた。


「いい、の?」

「もちろん」

「もちろん」

「じゃあ、よろしくね」

 見た目子どもの四人は、公園へと向かった。


 歩きながら決めた組み合わせは、あさひと葵ペア、ゆうひとトキペアとなった。

「二対二で勝負っていうよりは、四人で長く続けるの目標にしよう」

「おー!」

「目指せ百回!」


「えっ」

「えっ」

「えっ」


 葵の強気すぎる目標に、他三人が固まった。葵の体力についていけるかが、一番の問題のような気がする。


「じゃあ、始めるよー」

 多少変な方向に飛ばしてしまっても、葵が取ってくれる。トキの声掛けは的確で、あさひとゆうひの息はぴったりで、二人のラリーは安心感がある。


「がんばれえー」

 小さな女の子の声が聞こえてきた。それを皮切りに、たくさんの声が。羽根つきを続けながら周りを見てみると、いつの間にか四人を囲むように人だかりが出来ていた。


 異様に長く続けているのを見て、人が集まって来たらしい。始めてから、一度も途切れておらず、本当に百回いけるかもしれないと思い始めていた。


「でも、さすがに疲れてきたね」

「ぼくも」

「あ、あたしも足が疲れてきた」

「あらら、じゃあこうしようか」


 葵が飛んできた羽を、一旦自分の羽子板で受け取り、その場でコンコンと打ちながら、ギャラリーに声をかけた。


「羽子板持っている子たち、おいでー! 一緒にやろう!」

 葵の声掛けに子どもたちが、わーと駆け寄って来た。


「あさひくん、ゆうひくん、いい?」

「うん、いいよ」

「楽しそうだね」


 二人に確認を取るために、葵はこてんと首を傾げた。参加人数の増えた羽根つき、楽しそうだ。あさひとゆうひは、同時に頷いた。二人だけで来ていたら、こんな面白そうなことにはならなかっただろう。


「やった。皆、どっちでも、好きな組に入ってねー」

 それぞれ六人と七人の大所帯になった。葵は、キープしていた羽を再び打ち上げた。


「ゆうひくん、行くよ!」

「分かった」

「そっち行ったよ」

「ぼくが取る!」

「あたし行くねー」


 総勢十三人の羽根つきは、どたばたしていて、それが楽しかった。でも、全員の顔が真剣そのものだった。本気で、百回を目指していた。


「九十八! 九十九! ……百!」

「わーーーやったー-」

「すごい! 本当に出来た」


「やったね、あさひ」

「やったね、ゆうひ」

 二人はハイタッチをして、ニカッと笑った。一緒にやってくれた子どもたちとも、ハイタッチして、喜びあった。


 かつて類を見ない素晴らしい羽根つきだったと、その日公園にいた人たちの間で話題になり、それが広まり、しばらくの間あさひとゆうひは、出掛けるたびに羽根つきのお兄ちゃん、と呼ばれることになった。ちなみに葵は羽根つきの神、だそうだ。


「楽しかったね」

「また四人で何かしたいね」

「バドミントンとか?」

「いいかも」

 あさひとゆうひは、次のことを考えて、すでに楽しそうな笑顔を浮かべた。

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つくもがみ統括本部―記録課― 鈴木しぐれ @sigure_2_5

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