【8月上旬】朝日向火乃香と小さなささくれ 後編

 火乃香に爪切りをして貰った直後。何を思ったか、火乃香が俺をベッドに押し倒して馬乗り気味に覆い被さってきた。


 鼻腔びくうくすぐる甘い香り。

 細く柔らかな肌の感触。


 はやる血流に、体は否応なしに反応する。

 たけり膨張する男根こかん

 火乃香のあしを押し退けるほど激しい屹立きつりつ


 慌てて逃げようと右腕を動かすも、火乃香にその手を取られてしまう。

 瞬きもせず俺を見下ろす火乃香に、俺はゴクリと喉を鳴らす。


「ほ、火乃香……お前、なに考えてんだ……」

「……兄貴と同じコト」


淡々と言いながら、火乃香は白く柔らかな太腿ふとももを俺の股間に押し当てた。

 いきり立つ肉の棒がズボン越しに火乃香の柔肌やわはだを押して、甘く痺れるような感覚が全身に広がる。


 「さっきと同じ。わたしがするから、兄貴は動かなくていいよ」


艶やかな長い黒髪をかきあげ、火乃香はそっと瞼を下ろし唇を窄ませた。

 まるで追い詰められるように、火乃香の綺麗な顔が迫ってくる。

 昂る鼓動は激しさを増して、俺の中の理性という防壁を崩しにかかる。


 このまま流れに身を任せれば、どれほどの恍惚を得られるだろう。


 俺の中の悪魔が囁いて、朦朧もうろうとする意識が火乃香の求めに応えるよう指に力を込めた。その瞬間。


 ――ズキッ……。


右手に巻かれた絆創膏。その奥に隠れるの傷が痛んだ。


 針で刺した程度の小さな痛み。

 けれどその刺激が、俺の理性を呼び起こす。

 俺は瞳閉じる火乃香の顔前に手を遣ると、白いひたいをデコピンで優しく弾いた。


 「たっ」


身を仰け反りオデコを抑え、火乃香は驚いた表情と共に目を見開く。


「なにバカやってんだ。俺を揶揄からかっても、面白い事なんて一個も無いぞ」


わざとらしい溜息を吐いて、俺は無理矢理に火乃香を退かしベッドを降りた。


 「……いくじなし」

「なんか言ったか?」


ベッドの上で割座わりざ(あひる座り)をしながら恨めしそうに呟く火乃香に、俺は聞こえないフリをして聞き返した。


 「なんでもない! バカ兄貴!」


まだ赤みが残る頬をぷくりと膨らませ、火乃香は「フンッ」と不貞腐れて頭から布団を被さる。


 これで良かったんだ。


 血が繋がっていないとはいえ、火乃香は俺の妹。

 もし一線を超えようものなら、俺は未成年後見人の資格を失ってしまうだろう。


 そして、二度と火乃香には会えなくなる。


 なにより火乃香は未成年。そんな彼女と関係を持ったと知られれば、俺は社会的に抹殺されて仕事も失ってしまうのは明らか。


 どんな結果を辿ろうと、火乃香を不幸にすることに変わりはない。


 だからこそ彼女の気持ちには応えられない。

 火乃香の事を思えばこそ、応えてはいけない。


 だから、これで良い。

 これで……良いんだ。


 自分に言い聞かせるよう心の中で繰り返し、俺は頭を冷やす意味で冷たいシャワーを浴びた。

 タオル片手にリビングへ戻ると、火乃香が財布の中身を確認している。


「どっか行くのか?」

「……買い物」

「そか」

「……うん」

「俺も一緒に行こうかな」

「……好きにすれば」


ムスッと顔を顰めたまま、火乃香は財布と携帯電話を小さなバッグに詰めた。

 俺も財布と携帯電話だけを持って、火乃香と一緒に外へ出る。

 玄関扉を施錠し、振り返れば火乃香がじっと俺を睨みつけていた。


「どうした。忘れ物か」

「……手」


ぶっきらぼうに言いながら、火乃香は左手を俺に突き付けた。

 「ふむ」と嘆息気味に息を吐いて、俺は出されたその手に応える。


 指を絡め合わせるように繋いだ手。

 右手に巻かれた絆創膏がズキリと痛む。


 だけど手は離さない。

 この痛みが、せめてもの罪滅ぼしだから。


「ところで火乃香」

「なに」

「何買いに行くんだ?」

「今日の晩御飯の材料」

「……ピーマン料理だけはやめてくれよ」


怪訝な眼差しで伺い立てる俺に、火乃香はベッと舌を出して不満を表した。そのくせ俺の腕を抱きかかえるよう体を寄せて来る。


 淫靡な大人の顔と、あどけない子供の顔。両方の顔を持つ義妹が可愛すぎて、俺の心臓はドキリと脈を打つ。


 目には見えない小さなが、また胸の中に生まれた。


 この見えないが治らない限り、俺はまた誘惑に負けてしまいそうだ……。




 〈本編につづく〉




-------【TIPS:朝日向火乃香の一口メモ】-------


こんにちは。朝日向あさひな火乃香ほのかです。

いつもは兄の悠陽ゆうひ視点でわたし達の日常を描かれているんだけど、今回はその出張版です。

もしほんの少しでも面白いと思って貰えたら、本編も読んで貰えると嬉しいです。


〈最近できたクールな義妹が可愛すぎて俺は今日も誘惑に負けそうです〉

https://kakuyomu.jp/works/16817330665749494672


改めまして、最後まで読んで下さり有り難うございました。


本編でも待ってるね♪

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【短編】最近できたクールな義妹が可愛すぎて俺は今日も誘惑に負けそうです ~朝日向火乃香と小さなささくれ~ 火野陽登《ヒノハル》 @hino-haruto

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