第210話 引き分け

 俺は携帯の画面をベロファーに見せた。

 そこにはいくつも分割された動画の画面が映る。

 それは島内の風景だった。


「な、なんだこの風景? どうやって撮影しているう!?」


「島内にモスキートカメラを飛ばしてさ。その録画された画面が俺の携帯に飛んで来てるってわけだ」


「な、なるほど。モスキートカメラと同期させているわけか」


 ちなみに、モスキートカメラというのは蝿くらいに小さいドローン型の飛行小型カメラだ。

 

 ベロファーは勝ち誇ったように笑う。


「ふ……。なにかと思えばそんなことか。くだらん。こんな動画を撮影したところでなんになるというんだ? 今から回収に行かせれば済む話さ。モスキートカメラは電磁風に弱いんだ。ある一定の電磁波を風に乗せて、それを大気上に蔓延させてやれば駆除は簡単さ」


「その動画が日本に送られていたらどうなる?」


「ははは。バカなのか? サーバーは僕たちが管理しているんだよ? どうやってネットを使うんだよ」


「だから、俺は日本を自由に行き来できるんだってば」


「……なんだと? なにがいいたいんだ?」


「この携帯はすでに大和総理に繋がっている」


「なにぃいいいい!?」


 と、携帯を見せると大和総理が不敵な笑みを浮かべていた。



「ベロファー殿。お初にお目にかかる。私は日本の内閣総理大臣。大和 先達です」



 ベロファーは汗をかいた。


「な、なぜだ!? に、日本と繋がるわけなんかない!! 日本に対する通信は厳しく制限しているんだぞ!? サーバーに細工をしたのか!?」


 ふふ。


「だから、日本と行き来できるんだってば」


「ど、どういうことだ?」


「この携帯は独自のサーバーで通信しているのさ」


「ど、独自のサーバーだとぉおおおお!?」


「日本が所有する人工衛星、『かたな3号』さ」


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!? 衛星通信だとぉおおおおおおおおおおおお!?」


「ああ。リアルタイムで通信ができるすぐれものさ。政府使用の特別製でな。1ヶ月の使用料金は50万円ということらしい」


「そ、そんなぁ……」


「まぁ、そんなバカ高い使用料金を払う価値はあるよな。これで世界が救えるんだからさ。あ、もちろん、使用量は日本政府もちね」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ……」


「おまえの作戦は総理に筒抜け。島民の人質作戦は日本がその情報を把握したってわけだ」


「うぐぬぅうううう……」


「もしも、ダンジョンウィルスを島内にばら撒いてみろ。その情報は日本政府を通じて各国に共有されることになるぞ。核に代わる生物兵器の所持がわかれば全世界を敵に回すことになる。ジーストリアは存続できないさ」


「あぐぬぅうううううううううううううう……!!」


 やれやれ。

 とはいえ、島民を人質に取られているのには代わりないんだ。

 あまり刺激をして無茶な行動に出られても困る。


「ベロファー殿。各国は生物兵器禁止条約を結んでいる。ダンジョンウィルスのことが公になればジーストリアは孤立する。それどころか、軍事的制裁の対象国になる可能性がありますよ」


「うぐ………」


「カウンタック総部長との首脳会談を希望します」


「そ、そんなことは許可しない」


「日本とジーストリアで平和な未来を模索しましょう」


「核を持たない貧弱な国と協力をしてこの世界が変えられるもんか」


「話し合いは大事です」


「ふん……。くだらないね。そんな緩いやり方じゃこの世界に戦争はなくならない。圧倒的な武力統制こそが平和になれる最良の方法なのさ。僕が支配する世界こそが、人類史におけるもっとも平和な世の中になるんだ」


 見解の相違か。

 5万人の島民を人質にして獲得しようとしている平和とはなんなのか?

 こいつとは分かり合えそうにないな。


「か、勝った気になるなよな! 島民の命を僕が握っているのには変わりないんだ!」


 やれやれ。

 困ったやつだな。


「僕は必ず君の上に立つ! 僕が上! 君が下だ!!」


「じゃあ、今はイーブンってことか?」


「うぐぅうううううううううううううううううう!! か、必ず僕が勝つ!!」


 ベロファーは奥歯が砕けそうなほどギリギリと噛んでいた。

 その体をブルブルと震わせる。


「顔真っ赤だな。そんなに怒るなよ。血管切れるぞ」


「うるさい!!」


 そういって部屋を出て行った。


 さて、同点とはいったものの。

 このまま人質にされるのは困るよな。

 島内に設置されているタンクを探し出して除去する必要がありそうだ。


 俺は総理と相談してダンジョンウィルスが充填されたタンクを探すことにした。

 島外からはモスキートカメラの映像で探すわけだが、なにせ、島の広さは300キロ平方キロメートルだ。

 琵琶湖の半分くらいの広さといえば想像がつくだろうけどさ。タンクの大きさもわからないし、いくつ設置されているかもわかない。

 そんな物を探すのは至難の技だ。

 だから、最終的には自分の足で探すしかなさそうだな。

 とりあえずは、島を探索しながらタンクを見つけるとしようか。

 黒いチューリップに頼めば幾分か早く片がつくだろう。

 ベロファーと交渉するのはタンクを除去してからだな。


「うう……。嬉しいよぉお〜〜」


 コルは涙を流す。


「なぜ泣くんだ?」


「だって、最近の 真王子まおこは、ボクのことを構ってくれない。 元老院セナトゥスにスカウトされてから忙しいみたいだし」


「んーー。色々とな。やることがあったんだよ」


「でも、嬉しいな。また、探索できる」


「ああ。島内の散歩も兼ねてな」


「わは! 散歩大好き! ボクは 真王子まおことならどこへだって行ける」


 うーーん。

 彼女の協力を頼めればタンク探しも少しは楽になるな。


「コルってタンク好きか?」


「なにそれ? 美味しいの?」


「液体とかガスを貯める容器のことさ。最近興味があってさ。島内にどんなタンクがあるかなって」


「ああ、工場萌え的なやつだ」


「なんだそれ?」


「工場の外観にグッとくるやつ。写真集も出てるよ」


 そんなジャンルがあるのか……。

 人の趣味趣向とは多様だな。

 

 しかし、あの工場のゴチャッとしたメカニカルな感じは確かに萌えるかもしれんな。

 入り組んだパイプとか男心をくすぐるよ。


「まぁ、そんな感じかな。とにかく島内にあるタンクを見てみたいんだ」


「タンク萌えか」


「ははは」


 笑って誤魔化しておこう。


「ボクも萌えたい」


「んじゃさ。散歩しながらでいいから写真撮ってお互いに見せ合おうぜ」


「目的のある散歩は最高だな。楽しそう。丸いフォルムのタンク萌え。 真王子まおこと一緒にタンク探しだ。ふふふ」


 よし。 

 これでタンク探しが捗るぞ。

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鉄壁さんは防御魔法で無双する〜不遇な探索者は単独配信でバズった。おかしいな? 俺は敵の攻撃を完璧に防いでいるだけなのだが?〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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