毎日小説No.39  タイムマシン

五月雨前線

1話完結

 最悪だ。


 教育実習に関する重要な手続きの締め切りをすっかり忘れていた。


 このままだと教育実習が受けられない。教育実習が受けられなければ教育学部のカリキュラムが上手く進まず、最悪留年もありうる。


 最悪だ。最悪だったが、唯一の救いは私にタイムマシンを開発している天才の友達がいることだった。その友達に土下座して、タイムマシンを使わせてもらおう。そして過去に戻り、過去の自分に締め切り前に手続きをさせるのだ。


 そう思い立った私は早速友人の元へ行き、事の顛末を話して土下座した。友人は快くタイムマシンを貸し出してくれた。やはり持つべきものは友達だ。


 私は車に似た形をしたタイムマシンに乗り込み、スイッチを押した。するとタイムマシンが光の粒子に包まれ、時間軸を飛び越えるべく5次元空間へと移動していった。


「……?」


 何かがおかしい。


 以前タイムマシンを使わせてもらった時とは、明らかに周りの景色が異なる。暗い。暗すぎるのだ。


 その瞬間、タイムマシンに設置されている計器が一斉に警報を鳴らし、タイムマシン全体が見えない力で握り潰されたかのようにひしゃげた。


 はめられた、と思った次の瞬間には、私の体はとんでもない圧力によって潰され、散り散りになった肉片が時間と空間の狭間に消えていった。



 ***

「ぜーんぶ果穂かほが悪いんだからね。果穂が私の彼氏と浮気してたこと、気付いてないとでも思ってたの? 私は果穂を何度も問い詰めた。今日この日までに、自分から罪を告白して謝罪してくれれば許そうかと思ってたけど、果穂は嘘をつき続けたよね。


 もう限界だった。果穂は教育実習の手続きの締め切りに加えて、私への謝罪の締め切りも守れなかったんだよ? 大好きなたけしを奪った嘘つきアバズレ女なんて、死んで当然なんだから」



 虚空へ消えていったタイムマシンの前で、恍惚とした表情を浮かべながら捨て台詞を吐く女性の名前は時元ときもと結菜ゆな。若くしてタイムマシンを開発した天才科学者は、恋人を奪った親友を殺せたことで快感に浸っていた。


 この事件後、時元はこの殺人方法の技術を封印した。あまりにも危険すぎるという理由故の判断だったが、犯罪者の組織は既にその技術に目をつけていた。封印したはずの技術がいつの間にか犯罪者達の手に渡り、後にこの殺人方法が犯罪者の世界に浸透。やがてタイムマシン殺人として全世界を震撼させてしまうことを、時元はまだ知らない……。



                           完

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