リフォーム

やざき わかば

リフォーム

この家に住んで、何年になるだろうか。


どうしても土地付きの持ち家が欲しくて不動産屋を周り、見つけたのがこの物件。木造、築古、平屋、駅から徒歩二十五分。どう贔屓目に見ても、誰も欲しがらないこの物件に、何故か惹かれて買ってしまった。値段が安かったのもあるのだが。


一人暮らしには広すぎるのだが、将来のことを考えると買って良かったと思っているし、何よりこの家にはすでに愛着がわいている…。


いつもは布団に入ってすぐに目をつぶって寝てしまうのだが、今夜は感慨深くなり、布団に入りしばらく天井を見つめていた。窓から入る外の明かりで、うっすら明るい。


すると、顔のようなシミが天井にあることに気が付いた。

あんなシミ、今まであっただろうか。


じっと見ていると、突然そのシミが声をたてて笑い始めた。


「ハハハ、やっと気付きやがったな! 俺様はこの土地と家に憑いている地縛霊だ。お前が引っ越してきてから、何年も無視されて『まさかこのまま気付かれないのでは』とヒヤヒヤしたぜ! おっと驚いて声も出ねぇか! 理解るぜ、理解るぜその気持ち! でもいいんだぜ! もっと悲鳴をあげてくれても、いいんだぜ!」


突然シミが大きなダミ声で一人で喋るものだから、俺は驚きや恐怖といった感情を通り越して、ただぽかんとしているのみだった。


「ちっ! 最近の若いのは気遣いが足りねぇな。こういうときは景気よく悲鳴をあげるものだぜ! まぁいい、やっとお前に認識されたんだ! 俺様は年季も入ってるから悪霊としての力も強い。お前はこれから、俺様への恐怖で除々に弱り、最後は死んじまうんだ!」


「あの、盛り上がってるところ悪いんだけど」

無駄に声がでかく話の長いシミに、俺は言った。


「この家、老朽化が酷くて、明日解体して建て替えるんだよ。短い付き合いだったな」

「え」


そして一年後。


「さぁさぁ、リフォームした我が家へようこそ。初めてのお客さんだ」

「ありがとう。外観も凄く雰囲気変わったね! 綺麗で素敵」

「奮発して鉄筋コンクリート造にしたからね。さ、入って」


俺はこの日、彼女を初めてリフォーム後の自宅に呼んだ。木造のときにも何度か来てくれていたが、やはり新築は気分が良いものなのだろう。はしゃいでいる。


玄関を開けると自動的に照明がつく。リビングに入ると照明とエアコンが、これも自動的にオンになる。


「さ、座って。音楽でも聴く? それとも映画でも観るかい」

「じゃあ、音楽が良いな」

「わかった。OK、GHOOST。静かな音楽をかけて」


リビングに取り付けてあるスピーカーから、シックな音楽が流れ出す。


「わぁ、すごい。スマートホーム化したの?」

「ん? ううん。なんか昔からこの土地と家に憑いている悪霊だって」

「は?」

「古い家取り壊して、地鎮祭して、家を鉄筋コンクリート造にしたら、『ワタクシ、洗い清められたようでございます』とか言って大喜びしちゃって、それ以来懐いてくれてるの」

「へ、へぇ…」


家全体に、渋く、それでいて澄んだ低温の声が響く。


「さぁ主。なんでもお言いつけください。こんな素晴らしい家にしていただいた御恩に、最大限報いとう存じます。コーシーをお飲みになりますか? お料理をお出しいたしますか…」

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リフォーム やざき わかば @wakaba_fight

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