第2話

 彼女が夜の街に繰り出したらしい、というのを、街の哨戒班が律儀に教えてくれた。


 今、会いに行くことはできない。


 街の景色は、夜。静かで、人通りもない。信号の灯りと街路灯が、明滅している。意味もなくネオンが光っているので、暗くはなかった。


 彼女は、普通だった。何もかもが普通で。それが心地よかった。常に死線のど真ん中にいる自分とは、真逆。自分がこうなるまでに落としてきた人間的なものを、すべて持ち合わせていた。


 だからこそ、会うことはできない。


 常に死と隣り合わせの自分に、彼女は、あまりにも大きすぎる。それに、任務に支障が出る可能性もあった。彼女は、自分の弱点になりうる。彼女の普通を、壊すことが、あってはならないと思う。


 まだ、自分は生きている。そして、彼女に、会いたいと思う。今は、とりあえず、それだけで充分だった。街の景色に、夜に、まだ彼女はそこで待ってくれている。


 街の景色、夜。彼女はいない。

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街の景色、夜 (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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